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異世界恋愛無双帝国 ~勇者が建国したらドラゴン300匹が国民になった~  作者: 4ランクは下の人間


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第十話 帝国、魔神とバトルす

「逃がさん。お前だけは」


 黒い炎が爆発した。


「いやじゃあああああ!」

 アルバートは全力で逃げ出した。


「待て!」

「待たん!」


「貴様、皇帝だろう!」

「皇帝だから逃げるんじゃあああ!」


「意味が分からん!」

 ヴェルムの黒い霧が、逃げ道を塞ぐ。


 右へ走る。

 黒い炎。


 左へ走る。

 黒い雷。


 後ろへ走る。


「完全に包囲されておるではないか!」


「だから逃げられないと言った」

「じゃあ話し合おう!」


「魂を奪う」


「交渉決裂じゃあああ!」


 アルバートは頭を抱えた。


 世界最強の竜王は倒れた。

 リリアも倒れた。

 セシリアも倒れた。

 兵士たちも、裁判官も、盗賊たちも、全員倒れている。

 残っているのはアルバート一人。


 しかも本人は、戦う気がまったくなかった。


「アルバート……!」

 地面に倒れていたセシリアが、かすかに声を上げた。


「……セシリア?」

 アルバートが振り返る。

 セシリアは、まだ意識を保っていた。


「お願い……戦って……」

「嫌じゃ」


「即答しないで!」


「無理なものは無理じゃろ!」

「このままでは、王都が……」


 セシリアは歯を食いしばった。

「兵士たちも、国民も……みんな死んでしまう」

「……」


 アルバートは周囲を見た。

 倒れた兵士たち。

 動かないリリア。

 そして、目の前で笑う魔神。


「……嫌じゃのう」

 アルバートは小さく呟いた。


「余、こういうの苦手なんじゃ」

「……」


「強い奴と戦うのも嫌じゃし、痛いのも嫌じゃし、死ぬのも嫌じゃ」


「ならば、死ね」


 ヴェルムが手を掲げた。

 黒い光が集まる。


「絶対終焉《アブソリュート・エンド》」


 その瞬間。

 セシリアが叫んだ。


「アルバート!」

「何じゃ!」


「助けてくれたら……!」

「わたくしの、処女<<ショジョ>>をあげます!」


「…………」


 アルバートの動きが止まった。


 沈黙。

 数秒。

 そして。


「……今、何と言った?」


「だから!」

 セシリアの顔が真っ赤になる。


「わたくしの初めてを、あなたにあげると言ったのです!」


「……」

「……」


 アルバートは、ゆっくりとヴェルムを見た。


「魔神」


「何だ」


「お主」


「……」


「余の恋愛無双帝国に喧嘩を売ったな?」


「は?」


「よかろう」

 アルバートが立ち上がる。


「その喧嘩、買ってやる!」

「……くだらん」


 手のひらに、黒い光が集まる。

「死ね」


 黒い光が放たれた。

 光はアルバートの胸を貫き――

 消えた。


「…………」


「…………」

 アルバートは自分の胸を見た。


 穴はない。

 血も出ていない。

 服すら破れていなかった。

「……あれ?」


 ヴェルムの手が止まった。

「何?」


 もう一度、黒い光が放たれる。

「絶対終焉《アブソリュート・エンド》」


 直撃。

 何も起こらない。


「……何だと?」


 さらにもう一発。

 直撃。

 やはり、何も起こらない。


「……」

 アルバートは自分の体をぺたぺた触った。


「何じゃ、これ」


「馬鹿な……」

 ヴェルムの声が初めて揺れた。


「神話級即死魔法だぞ」

「そうなのか?」


「魂を持つ存在ならば、神であろうと死を免れぬ!」

「ふむ」


「なぜ死なない!」

「知らん!」


「知らんだと!?」

「余に聞くな!」


 アルバートは胸を張った。

「つまり、あれじゃな」


「……何だ」


「七大魔神なんて、たいしたことないのう!」

「調子に乗るのが早すぎます!」

 地面から、かすかな声がした。

 リリアだった。


「生きておったのか!」

「セシリア様の治癒魔法《ヒーリング》のおかげです」

 リリアのそばにセシリアがいた。


「フッ」

 アルバートはヴェルムを指さした。


「七大魔神なんて雑魚が出てきおって!」

「次は魔神王なんてものが出てくるんじゃねーだろうな!」

「マジンオーの次はマジンガーか! そしてZ、ZZと続く気かー!」


「何の話をしているんですか……」

「プラモで一儲けできるな!」

「調子出てきたじゃないですか…」


 そのとき。


「アルバート」

 地面に倒れた竜王が、かすかに口を開いた。


「何じゃ?」

「お主……LPはいくつだ?」


「LP?」

 アルバートは首を傾げた。


「LOVE POWERなら常にMAXじゃ!」

 ヒヒーン。アルバートはユニコーンのポーズを取った。


「違う……」

 竜王は苦しそうに息を吐いた。

「ライフ・ポイントだ。魂の体力。生命そのものを支える力……」


「……アルバート」

「あなた、さっきから魂を狙う魔法を受けている」


「なのに、何ともない?」

 セシリアが聞く。


「何ともないのう」


「……」


「あなた、ナニモノ?」


「……あり得ぬ」


 ヴェルムが一歩下がった。

 その声に、先ほどまでの余裕はなかった。


「魂を奪えぬ人間など、存在するはずがない」


「ほう?」

 アルバートがにやりと笑う。


「怖くなったか?」

「黙れ」


「おやおや、七大魔神ともあろう者が?」

「黙れと言った!」


 黒い霧が激しく渦巻いた。

 ヴェルムは即死魔法を放った。

 アルバートは無傷だった。


 魂吸収を放った。

 やはり、何も起こらない。


 しかし。


「……ならば、直接殺すまでだ」


 ヴェルムの手に、巨大な鎌が現れた。

 冥王の大鎌《グリム・リーパー》

 刃が通った空間そのものが、黒く歪んでいく。


「お前の魂が破壊できぬというのなら」


 ヴェルムが構える。

「肉体を破壊するのみ」


「怖い!」

「今さら恐れたか」

「でも、処女はほしい!」


「は?」

 セシリアの顔が赤くなる。


「ドラゴンよー!」

 アルバートは帝国のドラゴンへ応援を求めた。


「死ね!」

 ヴェルムが消えた。

 次の瞬間。


 ドゴォッ!


「ぐはっ!」

 アルバートの体が吹き飛んだ。

 壁を突き破り、瓦礫の中に叩きつけられる。


「アルバートさん」


 ヴェルムは追撃した。

 鎌が振り下ろされる。

 アルバートは転がって避けた。

 刃が地面を裂く。


「うわっ! 危なっ!」

「避けるか」


「当たったら痛そうじゃからな!」

 アルバートは立ち上がり、剣を振った。


 ガキン!

 鎌と剣がぶつかる。

 次の瞬間。


 剣が砕けた。


「……」


「終わりだ」

 ヴェルムが鎌を構え直す。


 そのとき。

 アルバートの求めに応じたドラゴンたちが駆けつけた。

 だが、帝国も魔軍との戦いの真っ最中なのだろう。援軍は数十匹だけだった。


「おおー、ドラゴン達」

「アルバート」

「アルバートさん」

「アルバート」

 竜王も、リリアも、セシリアも、どうにか立ち上がる。 


「行くぞ。総攻撃じゃ」


 ドラゴンたちが一斉にブレスを放つ。

 リリアとセシリアの魔法も、ヴェルムへ殺到した。


「何度、やっても同じだ」


「魂吸収《ソウル・ドレイン》……!」


 黒い霧が広がった。

 リリア、セシリア、そしてドラゴンたちが次々と倒れていく。

 だが、竜王だけはアルバートのそばに立っていた。


「お、お主」

「アルバート、お前、即死耐性が異常に高いみたいだな」


「まさか……」

「利用させてもらうぞ」


「何を――」

 竜王はアルバートを盾にして突撃した。


「ぎえええええ・・・余は皇帝ぞーー」

 竜王の手に槍が現れる。


「天穿槍《ヴァルグレイヴ》」

 ヴェルムの黒い鎌と、竜王の槍が激突した。


「魂吸収《ソウル・ドレイン》」

 アルバート盾でガード。


「ひいいいいっ! 処女を賜るというのは、こんな仕打ちを受けるということかーー!」


 轟音とともに大地が砕ける。

 竜王がアルバートに耳打ちした。


「アルバート。今からお前に竜力付与《ドラゴン・パワー》を使う」

「LVが数倍にパワーアップするからそれでヴェルムをぶちのめせ」


 竜王はアルバートを盾に突き進んだ。

「いやじゃああああ! 盾としてはもう十分働いたじゃろー!」


「行けっアルバート!」

「行きたくないわあああ!」


 竜王はアルバートに魔法をかけた。

「竜力付与《ドラゴン・パワー》」


 そして、アルバートをヴェルムへ投げつけた。

「ぎえええええ・・・」


「死滅黒雷《デス・ライトニング》」

 黒い雷が迫る。


「龍神守護《ドラゴン・プロテクト》」

 竜王の魔法がアルバートを守った。


「うおおおおお・・・」

 アルバートはヴェルムへ突っ込む。


「し、信じるぞーーー! 伝説ーーー!」


「ガラスの剣パート2!」


「何かと思えば…」

 ヴェルムが呆れたように息を吐く。


「くだらん」


 鎌が振り下ろされた。

 ガラスの剣は、当然のように砕け散った。


 カシャン。


「……現実は甘くなかったか」

 ヴェルムが笑う。


「終わりだ」

 その瞬間。


 ヴェルムの胸に、一筋の傷が刻まれた。


「……今のは?」


 ヴェルムが後ずさる。


 アルバートの右手には、先の砕けたガラスの剣が握られていた。

 砕けたガラス片が足元に散らばっている。


 だが。


 砕けた刀身の残骸からは、光が溢れ出している。

 光は刃の形を取り、失われた刀身を補うように伸びていった。


「……何だ、それは」

 竜王が目を見張った。

「その光……まさか……」


 アルバートは柄を握り直した。


「……何じゃ、これ?」

 少し眺めてから、頷く。


「よく分からんが、斬れるならこれで十分じゃ!」


 ヴェルムが踏み込む。

 アルバートも剣を振る。


 ガギィィィン!

 光の剣と大鎌が激突した。


「何ですか、アレ」

 リリアも驚いてる。


「竜力付与《ドラゴン・パワー》にあんな追加効果あったか?」

 竜王にも分からなかった。


「アルバートさん……」

 リリアは、光をまとって戦うアルバートを見つめた。


「ニートが本気を出したところ、初めて見た……」


「まったくだ」

 竜王が呟いた。

「最後まで何をしでかすか分からん奴だ」


 ヴェルムは距離を取り、魔法を放った。

 アルバートは光の剣を振る。


 伸びた光が、魔法を断ち切った。

「……伸縮自在か!」


 ヴェルムが踏み込む。

 鎌が横薙ぎに振るわれた。

 アルバートは光の剣で受け止める。


 ギィィィン!


 地面が砕けた。

 アルバートは歯を食いしばった。


「ぐっ……!」


 力では負けている。

 速度でも負けている。

 技術でも勝っているとは思えない。

 だが、ヴェルムには分かった。


 この剣は危険だ。

 そして、明らかにアルバートが強くなっている。

 しかし、武器から放たれる高出力。あれさえ封じれば、勝てる。

 ヴェルムは冷静に最善を組み立てる。


「おりゃーーー」

 

 アルバートが大きく振りかぶる。

 その隙を、ヴェルムは見逃さなかった。


「――死鎖呪縛《デッド・バインド》」


 黒い鎖がアルバートを縛りつけた。

 アルバートの動きが一瞬、止まる。

 そして、光の剣が、手から離れた。

 ヴェルムが笑った。


「これで終わりだ!」


 巨大な鎌が、頭上から振り下ろされる。

 アルバートは避けなかった。


 いや。

 避けられなかった。

 もう限界だった。


 そのとき。

 アルバートは、ふと顔を上げた。


「……なあ、魔神」


「何だ」


「真の恋愛無双を知ってるか?」


「……は?」


「死ね!!」


 鎌が迫る。


 その瞬間。

 アルバートのおでこから、何かが光った。


「……何?」


 光が伸びた。


 一本の角のように。


「その光……!」


 先ほど見た光の剣。

 今、アルバートの額から伸びる光。


 ズドンッ!

 光が、ヴェルムの胸を貫いていた。


「ユニコーン・アタック!」


「――なっ」


 ヴェルムの動きが止まる。


「今じゃあああ!」


 アルバートは落ちた剣を握った。

 刃先はない。

 だが、握った瞬間、再び光の剣が現れた。


 そして、ヴェルムめがけて渾身の力で振り下ろした。


「必殺:アルス・アターーーーーック!」


 ズバァッ!


 光が、ヴェルムを両断した。

 黒い霧が、真っ二つに割れる。


「馬鹿な……」


「我が……人間ごときに……」


 ヴェルムの膝が崩れた。


 ――この日、人類は、初めて魔神に勝利した。


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