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第163話 幹部の統率者になりたくて!

「最近、ふと気づいたことがあるのじゃ」


「うん……?」


 満月家の二階、六人部屋にて。

 ピコリは他にできることが山程あるというのに、ルシェヌに呼ばれてここにやってきた。


 それでもって床に正座させられている。

 向かいにいるルシェヌは、いかにも魔王然として自分のデスクチェアに腰掛けふんぞり返っている。

 おまけにあからさまに違和感を放っている横の黄色い箱にツッコむことを許されない。


 このトリプル理不尽を我慢しつつ、ピコリはルシェヌの話に集中する。


「アタシは散々言っておる通り、前の世界で魔王をやっておったのじゃ。無論、今も気持ちは魔王じゃぞ。誰も魔王扱いしてくれないだけで」


「うん。そりゃワガママすぎて人望ないから」


「そこでアタシは何故、魔王と皆に思われないか考えに考えたのじゃ! そこでアタシは気づいたのじゃ!」


「今最大の理由を答えたよ、ウチ。コピペしてもいいよ」


「アタシは魔王なのに、手下がいないのじゃ!」


「ええ、そりゃワガママすぎて人望ないから」


「アタシはネットとか本で軽く調べたのじゃ。そしたらあちこちの魔王は、だいたい手下がいるのじゃ! それも数だけ達者な雑魚ばかりだけでなく、優秀で忠実な幹部もいるのじゃ!」


 ルシェヌが導き出した結論に、ピコリは思わずうなった。

 言われてみると確かに、ルシェヌには部下を引き連れているイメージがまるでない。

 他の姉妹のなかにチョロチョロと召喚系の能力を持っている人もいる。

 だが、一応魔王としてありとあらゆる魔法を使いこなせるルシェヌは、そういったものも今まで使っていなかった。

(まあ、これも結局、ワガママすぎて人望ないからって話に収束するんだろうけど)


「というわけで、アタシは今日! 新しく部下を創ることにしたのじゃ!」

 と、堂々と言い放ちつつ、ルシェヌは横にあった黄色い箱をコツンと蹴った。


「お、ここでようやくそれが出てくるんだね……って、これは何?」

 正直、箱の突起付いた独特の形状から、ブロックセットの箱なのは知っているが、ピコリはルシェヌを立てる形であえてとぼけた。


 ルシェヌは箱を開けて、得意げにそのカラフルな中身を見せびらかす。

「さっき部下を創ろうと思い立って、なにか役立ちそうなものはないかと倉庫をあさってたら、これを見つけたのじゃ! これでアタシ好みの優秀な幹部を創って、あとはそういう命を吹き込む魔法で魔物化して従えるのじゃ!」


 そしてルシェヌは椅子から下りて、自分の手前で箱の中身を床にぶちまける。


「というわけでアタシは今から幹部創りに集中するのじゃ。だからピコリ、お主は早くこの部屋からでてけなのじゃ」


「え、ウチ、あなたのいきさつ聞いただけで終わり?」


「すべこべ言わずはよう出て行けなのじゃ! 機密漏洩したくないのじゃアタシは!」


「魔物創るって言った時点でだいぶ漏れてる方だと思うけどなぁ……」

 と、つぶやきつつ、ピコリは部屋のドアへ向かう。


「あ、ちなみに最後に一つだけ。ルシェヌは前の異世界で部下とかいなかったの?」


「山程いたぞい。けど勇者どもに追い詰められたとき、だいたい裏切ったのじゃ。

 そこの反省を活かして今回はアタシの言うことしか聞かぬ奴を創るのじゃ〜」


「そこから人望ないんじゃん!」



 二時間後。

「おーい、ピコリ! さっさと二階に来るのじゃ!」


「はいはい、行きますよーだ」

 ピコリはワイヤレスイヤホンとスマホを然るべきところにしまって、ルシェヌの背中を見て二階に上がる。

 二時間前に、呼ばれてすぐ出て行かされた部屋へ入ると、床に七個のブロックの塊があった。

 七個ともどれもこれも、いかにも自称魔王が作りそうなゴテゴテで物騒な、それでいて何をしてきそうなのかがわかりやすいデザインをしていた。


「どうじゃ! アタシの自慢の幹部候補は!」


「てっきり名状し難い何かになるかと思ったけど、まあまあまとまってるね。はいはいすごいすごい」


「じゃろ〜! あとは魔法を使って魔物にするだけなのじゃが……ここで一つ貴様に相談があるのじゃ」


(さっき機密漏洩を恐れてた人とは思えない頼りっぷりだなあ)

 ピコリは片眉をピクつかせつつ、「いいよ」と返す。


「こいつらにカッコいい名前をつけようと思ってるのじゃが、何かいい案はないかのう? 例えばこやつ」

 ルシェヌは青色の戦闘機と鳥のハーフのような完成品を持って、ピコリに見せる。


「うーん、ウチ的には『スパーキングスカイレーザー』とかかな?」


「あんま考えてない名前じゃな。おまけに長くて言いづらいじゃろそれは」


「じゃあお宅はどんなのを考えていたんです?」


「アタシは短く凛々しく大胆に……『ガンマ』にするのじゃ!」

 するとピコリは広げた両手をバタバタ振って拒絶する。

「ああダメ! それもう居る! この話のサブタイトルの元ネタに居るからダメ!」


「そうか。じゃあ一歩引いて『ガンマ2号』にするのじゃ」


「それももう居るからだめ! もっとデカいIPの人だし!」


「文句が多いのう。わかった、じゃあ『ガンマ3号』でどうじゃ」


「後で出たらどうするの!? もうガンマから離れようよ、ここ倍率高いからさぁ!」


「全く、やっぱりピコリはセンスないのじゃ。もうよい、コイツは『パスカル』にするのじゃ。

 で、この赤いのはオーム、オレンジのはワット、黄色いのはウェーバ、緑のはヘルツ、藍色のはジュール、そして紫のはセルシウスにするのじゃ」


「雑ながら一気に決まったね……ウチ抜きで」


「はい、じゃあ今から魔法かけるだけじゃから、お主はもう家に帰れ! ほら、しっし、今からするのは見世物じゃないのじゃからのう!」


「家に帰れって、今日はずっと家いたんですけど……」

 こんな荒っぽい統率者なんかに生み出された部下なんて、同じくらい性格の悪い奴か、後々反逆するタイプなんだろうな。

 ということを思い、ついでに願いつつ、ピコリはドアを開けて部屋を出ていった。


「……」

 この時、開いたドアに誰かが張り付いていたことを、ピコリはまだ知らない。もちろんルシェヌも。



 三十分後。

 さっきまた部屋を追い出されたピコリと、サバキ、ワノ、イバラらは、リビングでそれぞれの時間を過ごしていた。


「ハーハッハッハ! 魔王ルシェヌ軍のお出ましなのじゃ!」

 そこに、やたらと仰々しい高笑いをし、必死に小さい背丈をピンと伸ばしながら、ルシェヌが入ってきた。


 四人はそれを一瞥したあと、すぐ何事もなかったように振る舞う。

 ルシェヌはある程度、余裕を保って笑い続けるが、それに耐えきれなくなると、

「おい、ピコリ、なんかリアクションせい」


「いや、めんどくさいんですけど……」


「なら延々とやるのじゃ」


「それは文字数稼ぎみたいになるんでやめてください……はぁ! ま、魔王ルシェヌ軍!? どしたの急に!」


 続いてワノがスマホをクッションに置いて行った。

「ふざけたこと抜かすなっスよ! アタイの目が確かなら、ルシェヌ一人しかいないじゃないっスか!」


(やっぱりワノはそういう奴だよね。誰かが一番手になるまで黙りこくって、流れが定まったところで出しゃばる感じ)


 ピコリがワノに冷ややかな目線を送ったのはさておいて、ルシェヌは余裕綽々にせせら笑う。

「確かに今はアタシ一人しか来ておらんのじゃ! だが見かけで判断するのは甘いのじゃ! 今日は貴様らを震え上がらせる我が忠実な下僕を連れてきておるのじゃ!」


「下僕……だと」

 どうも今日のルシェヌはただのトラブルメーカーではない危険な香りを放っている。と、察知して、サバキはようやくナンプレ本を閉じた。


 なお、イバラはIHヒーターに向いたままである。


「てなわけでいでよ!」

 ルシェヌはリビングの戸を勢いよく開く。


 そこからルシェヌの背丈の半分ほどの大きさを誇る魔物七体が姿を見せる。全員がとてもブロック産とは思えない、まるでレトロゲームを数十年ぶりに3Dゲームとしてリメイクしたときのような、洗練された姿に変わっている。


 それらは列を成してリビングに入り、そしてルシェヌの足元を囲む。

「……まずは堅牢のオーム!

 痛烈のワット! 制圧のウェーバ! 幻惑のヘルツ! 軽快のパスカル! 勇猛のジュール! ……そして精強のセルシウス!

 これが魔王を守護する地上最強の軍団……!!! ルシェヌ親衛騎団なのじゃ!!!」

 と、ルシェヌが言い放ったと同時に、七体それぞれが、個別の動きで主に忠誠を誓うようなポーズをした。


「うわ、本当に子分創れたんだ……!」

「思ったより小さいっスけど、魔王がカラフルな取り巻き連れてると様になるっスね」


「へへーん、どうじゃ! すごいじゃろ!」

 腰に手を当てて鼻を鳴らすルシェヌ。そこにサバキが危機感を持って問いかける。


「で、それを使って何をする気だ、ルシェヌ」


「そりゃあもちろん、こいつらと共に貴様らをボコスカケチョンにして、アタシが魔王だと知らしめ、お母さんに褒められることなのじゃ!」


「やっぱりな」

 いつも通りの反応である。サバキはあまりにも呆れ果てて、思わずナンプレ本を手に取った。


「なんだその反抗的な態度は! よっし、じゃあ貴様ら、まずはサバキをギッタギタにして……」


「おいおい、それはあまりにも悪手ではないかなぁ。部下を引き連れる身分としてはね」


「誰じゃ!? ハッ、貴様は……!」

 ルシェヌが声がした廊下の方へ振り返ると、マジナが壁にもたれ掛かり、不敵な笑みを浮かべていた。


「ここじゃ狭いからそっち入るよ」

 マジナはルシェヌと親衛騎団の隙間を通り抜けて、リビングの拓けた空間に移る。

 そこで彼女は胸元からカードをまとめて八枚引き抜き、床にこぼす。

 カードそれぞれからドラゴンが飛び出し、マジナの背丈の半分くらいの大きさになって、主の足元を囲んだ。


 彼女たちこそが元祖・満月姉妹の子分キャラチーム、マジナの八体ドラゴンである。


「そういう部下を引き連れるのはアタシの専売特許のはずだったのにさ。パクリとは情けないね、魔王ルシェヌ」


「それはこっちの台詞じゃ! 部下を引き連れるのは魔王のイメージじゃろうが! それを貴様のような盗人に盗まれたくないのじゃ!」


「言ってくれたね。けどまあいいか。どうせ君のことだから、そんなの見かけだけ、持ち上げ担当くらいが関の山だろうからさ」


 ルシェヌは歯噛みした後、こう切り出した。

「ならば実際に試してみるか! アタシの親衛騎団と貴様のトカゲども、どちらが強いか!」


 マジナはゆるやかに口角を上げて言った。

「面白いこと提案してくるじゃないか。いいよ、かかってきな!」


 二人と十五体はそれぞれの敵を睨む。

「待て!」

 そんな剣呑な二勢力の間に挟まり、サバキは言った。


「やめろそんなこと。部下を戦わせるな。周りに被害が出るだろう。面倒事はもう勘弁だ」


「ええ、私はどうなっても構わないけど」

「フン、アタシは完全勝利するつもりだからどうてことないのじゃ!」

 しかし二人とも強気であり、抜いた剣を納めるつもりはなかった。


 するとサバキは一歩退いて、

「……わかった。じゃあせめて二人たちだけで外でやってくれ」

 しぶしぶ了承した。


「それはそれで近所迷惑にならない?」

 それにピコリはツッコみ、


「流れ弾が心配なら、こんなんあるっスよ」

 ワノはチャネルバットの口に片手を突っ込みながら言った。


 そして抜き出した手には、ルービックキューブのような半透明の立方体が乗っていた。

 ワノはそれを二人の間に投げる。

 床につくと同時に、それは光を放って膨らみ、中型家電くらいのサイズになった。


「これは『ジャッジメント 暴れられる聖域』ってアイテムっス。

 過去にアタイが行った『エピアムド』っていう異世界で、モンスターを模した鎧を纏って戦うスポーツの専用フィールドのポータブル版っス。

 この中の空間は外界と切り離されてるっス。

 音とか光とかはエンタメ的にある程度通るっスけど、あからさまにヤバいパワーは外には漏れないようになってるんス。だからワチャワチャ暴れてもここならなーんにも問題っスよ」


「実に今向きのアイテムだね」

「ようし、じゃあこの中で勝負させるのじゃ!」


 二人は箱に二つ空いている穴に、躊躇なく各々の部下を入れて閉じた。

 どうやらこの空間内では縮図も変わるらしく、十五体は遮蔽物の一切ないだだっ広い空間で、ミニチュアのように佇んでいた。


「これがあったらあの時ああならずに済んだというのにな……」


「もしよろしければ月額一二八〇円でレンタルするっスよ。サバ姐」


「いらん! もう使うタイミング自体があってたまるか!」


「ちなみにあの時とか、面倒事とか、って何スか? マジナとルシェヌ絡みでなんかあったんスか?」


 サバキはそっぽを向いて、ぼそぼそと言った。

「色々あったんだ、色々と……」


「てかマジナ姉さんとルシェヌ。数揃ってないけどいいの?」

 と、ピコリが一応聞くと、ルシェヌがものすごい剣幕で返す。


「いらん! 私の幹部はマジナの奴らの倍強いのじゃ!」


「ああそうですか……なんかフラグ臭いなぁその台詞」


 マジナとルシェヌが箱を挟んで睨み合う中、その側面にサバキが立ち、

「じゃあ自分がまた形式的に審判をする。では始め」

 微妙にやる気のない感じで言った。


 この瞬間、箱の中の二勢力が同時に突撃した。


「NINN!(イヤーッ!)」

 最初にぶつかりあったのは、マジナのBASLCバジリスクとルシェヌのパスカル。

 BASLCが全身をバネにし、パスカルの機首めいた頭部へ飛び蹴りを食らわせた。

 しかしパスカルは飛行の勢いを維持して、目からビームを放った。

「NNIN!(グワーッ!)」


 力負けしたBASLCは宙へ跳ね飛ばされ、両翼を悠然と羽ばたかせるパスカルを見上げさせられた。


 同じ上空では、赤い空中要塞のような魔物、オームが留まっている。

 そこへめがけてマジナのHellkite-Wヘルカイトが飛来。まさしくドラゴンらしい豪火のブレスを吹きかける。

 炎が止むと、オームは微動だにしていなかった。お返しに身体のあちこちに搭載された大砲から一斉放火した。

「WHAAAY!(いけ好かない奴だなァ!)」

 Hellkite-Wはキビキビと空を舞い、砲弾の合間を縫う。


 地上にいる他のドラゴンたちもまた、ルシェヌ親衛騎団に思いの外苦戦していた。

 全員が魔王の幹部にふさわしい脅威の耐久力を持ち、遠慮なくそれぞれの尖った個性をぶつけまくる。

 それらの悪魔的な暴力に、ドラゴンたちは戦場の支配権を奪われていた。


 中でも強力だったのは紫色のデーモン、セルシウス。

 右手の鉄槌のような拳と、左手に携えた大剣を、有り余るパワーで休みなく振り回し、ドラゴンたちを見境なく傷つけていった。

「コイツはアタシの側近として設計した奴じゃからのう! 最悪コイツ一人に八体倒されるかもしれんぞい!」


 この様子を後方から見て、八竜のまとめ役、IrrynCrshイルルヤンカシュは拳を強く握りしめる。

「意外とやるじゃけんのう……ルシェヌさんのとこの方々も」


「君にしては珍しい弱音だね。IrrynCrsh」

 箱の外からのマジナの声に、黒竜は振り向く。


「聞かれちまったじゃけえの。まあ、現場はそれくらい焦ってるってことじゃけん」


「そうかい。私はさらっさら負けるとは思ってもないけどね」


「……ちなみに、その心は?」


 マジナは「しょうがないなぁ」と言いたげに微笑んで言った。

「君たちには、ルシェヌの創りたての連中にはない技術があるじゃないか」


「……ははん、なるほどじゃけん」

 IrrynCrshは八竜随一の頭脳を持つ。マジナのヒントから瞬間的に、完璧な答えを導き出した。


「ありがとうマジナ。じゃあ後はコーヒーでも飲んでダラダラ見てほしいのじゃけん」

 その証明のため、IrrynCrshは戦場に意識を向け直し、激化する前線へと、ムカデめいた多脚を動かす。


「皆! ルシェヌさんが言った通り、本当にこやつらは私たちより倍強いかもしれん! なら私たちはその数に合わせて、協力してかかるだけじゃあ!」


 この号令から、戦局が大きく変わった。


 PORTORNピュートーンと多腕のケンタウロスの魔物、ジュール。

 後者は小兵ながらも四本の腕で剣を的確に振るい、相手の槍をいなし、ダメージを刻んできた。

 その最中、PORTORNは後ろに飛びつつ、槍を円盤のように回転を加えながら、力強くぶん投げる。

 安全を優先してだろうか、ジュールが四本の剣全てを向けてきた。

 投擲の重さから、ジュールの四本の腕は自ずと開けた。

「QYEAAA!(まだまだいくでぇ!)」

 そこへPORTORNは、両拳を握って突撃。槍を投げたときの膂力そのままに、両腕から同時にパンチを放った。


 衝突音が響く。両拳は二枚の盾に塞がれた。ジュールが肩当てに隠していたもう一対の腕を伸ばしたのだ。

 これを見たPORTORNは、ガン開きだった目をわずかに閉じた。


「YEEEQ(これでアンタの手は全部使ったな)」


 直後、槍を下向きに構えたBASLCがジュールの脳天に落下。

 ジュールは白目を向いて爆発し、辺りにブロックを四散させた。


「NINNIN!(オタッシャデー!)」


「YEEEQ!(挨拶なんぞしてられへんぞ! 次が来なはるでぇ!)」


 味方の仇討ちをするべく、ルシェヌ親衛騎団の中で最も大きなトカゲ型の魔物……ウェーバがドカドカ四肢を動かし、二竜に接近する。


 二竜はすかさずウェーバに背を向けて逃げ回った。

 途中、二竜は何かにつまづいたのか、思い切り転倒してしまう。

 うつ伏せに倒れた二人めがけ、ウェーバは前足と口にあるドリルをギュルギュルと豪快に回転させて、一気に押し付けた。

 すると二人は霧のように消滅。対するウェーバは全身をのたうち回らせ、爆発した。


「JAVAVA(かような陽動にかかるとは……)」

「PYYYY!(無様そのものですわね!)」


 倒れた二竜はJavaWockジャバウォックが映し出した幻影であった。

 その裏で、SGLシュガールは体内に貯められるだけの電気を蓄積し、ウェーバが迫った瞬間に全力で放電したのだ。


 一方その頃。

 空中では、パスカルとオームのペアと、Hellkite-Wが熾烈なドッグファイトを繰り広げていた。


 そこへ地上のBhmthonが叫ぶ。

「BOOWM!(Hellkite-W殿! しばし落ち着け!)」


 Hellkite-Wは素直に飛行速度を緩める。

 ルシェヌの魔物二体はお構いなく、飛び道具を放った。


 しかしHellkite-Wは二体の視界から消えた。

 Hellkite-Wの尾に、細長い蛇竜――マジナのOウロボロスが噛みつき、それを地上からBhmthonが引っぱり、一気に高度を下げたのだ。


「YEWAAA!(今度はお前らがやる番だぜ!)」


 Hellkite-Wは、尾にOを噛みつかせたまま、翼を動かし、今度は逆に急上昇する。

 二体を真下に捉えた瞬間、ブンブンと尻尾を振って、Oを引き剥がす。


「O!(行くよ! あなたたち!)」

 Oはパスカルの片翼に噛みついた。そこでBhmthonはもう一度Oの身体を引っ張り、相手を地上に引きずり落とす。


 パスカルはジタバタと抵抗し、目からビームを撒き散らしてBhmthonを攻撃するも、その屈強な肉体を怯ませるには至らない。

 そしてBhmthonはパスカルの両翼をガッチリと掴み、墓標のように豪快に地面に突き立てた。間もなく、それはブロックとなって飛び散った。


 同時刻。オームは胴体中央部にあった扉を解放した。中から大型の砲身が飛び出し、おぞましい輝きを放つ。

 そこから、隔絶空間内が、オームから放たれた光線の色である紫色に染まった。

 かと思いきや、赤色に上書きされ、やがてブロックが降り注いだ。


「これが私の最大の切り札。IrrynCrsh砲じゃけん」

 と、IrrynCrahは微かに赤い光が残る口から、得意げに言った。


 その瞬間、彼女の死角から、オレンジ色の魔物、ワットが重機めいた四脚を動かし迫ってきた。

 ワットは力強く飛び上がり、IrrynCrshの後頭部に四脚を向けて、火炎放射を浴びせんとする。

 しかしその前に、Hellkite-Wの息吹をSGLの電撃を添えて食らわせる。ワットは壁に叩きつけられ、バラバラになった。


 瞬く間に幹部五体を倒されたルシェヌは、ダラダラと汗を流して、箱に張り付く。

「おい何やっとる貴様ら! 魔王ルシェヌの名誉に泥をつける気かえ!?」


 この発破に応えるように、トーテムポール型の魔物、ヘルツは五体に分裂し、各々の武器を乱射する。

 これを羽虫のように叩いて、それぞれまとめて壊した後、マジナの八体の竜は、残る敵一体セルシウスを囲んだ。


 序盤はあれだけ獰猛であったセルシウスも、主の怯えが移ったように、ブルブル震えていた。


「こらー! もっとドシーンと構えろセルシウス! このままじゃ負けちまうなのじゃぞ!」

 大人気なく箱を叩くルシェヌへ、マジナは言ってあげる。


「ルシェヌ。もしまた部下を創って私に挑む気があるのなら、参考にしてくれ。

 君の部下たち……」


「ルシェヌ親衛騎団なのじゃ!」


「……ルシェヌ親衛騎団の敗因は二つある。

連携がなってなかったこと。思考回路が単純だったこと。それと、経験不足ってことかな」


「三つ言いおったな、マジナ! この嘘つき!」


「ありがとう。怪盗として褒め言葉として受け取っておくよ……」

 マジナは箱の中から、キッチンへ目をやる。と、イバラがシチューを混ぜ、部屋中に温かなミルクの香りを放っていた。


「……そろそろ夕飯が近いから、ここで幕引きとしよう。じゃあ皆、存分にやってくれ!」


「や、やめるのじゃあ!」


 この後、セルシウスは八竜に成すすべ無くコテンパンにされて、ブロックとして崩れ去った。


「あ、今終わったのか……はい勝者、マジナ殿」

 決着がついたことでワノが用意した箱が自動で収縮し、マジナの方には八竜が集って佇み、ルシェヌの方には親衛騎団の残骸のブロックが山盛りになっていた。


 ルシェヌは両手を床につき、ブロックの山を見下ろした。

「ああ、アタシの野望が……お母さんに褒められる夢が……!」


 その側でマジナはしゃがんで、意地の悪い満面の笑みを作る。

「ご愁傷さま、ルシェヌ。またの挑戦をお待ちしてる、よっ!」


 ルシェヌはしばしその腹立つ顔を見つめた後、両腕でブロックの山をすくって、

「覚えてろなのじゃ〜〜!」

 涙目になって二階へと逃げ帰っていった。


 その情けない背中を見て、ピコリは一言。

「やっぱり、強い統率者があって、強い手下が成り立つんだろうね……」


 その後ろで、マジナとサバキとワノが首を縦に振った。

 イバラはシチューと真剣に向き合ったままだった。


 数十分後。

「ただいま〜!」

 仕事から帰ってきたチヨは、慣れた足つきで靴を脱ぎ、玄関から上がる。

 そして荷物を二階の自室に置くため、階段へと歩く。その最中、チヨは勢いよく壁に寄りかかる。

「いっだあああああ!」

 その道中に落ちていたブロックを踏んづけてしまったのだった。


 この後、姉妹たちは情け無用に犯人の名前を言い、またしてもルシェヌが泣いたのはわざわざ語るまでもない。


「結構な尺使ったのにこんなベタなオチで終わるんだね」


「別にいいだろ、ピコリ。今回はアイツだけが被害を食らって済んだのだから」


「……よっぽど第140話の件が嫌だったんだね、サバキ姉さん」


「……いちいち言うな」


【完】

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