ミトの答え
「すごい!」
その夜ミトは、父さんの作った寝台の上に飛び込んで、普段よりも少しだけ床から高いその距離が、そのまま寝心地に繋がるとでも言うように、すぐに布団に横になった。
そのあとにタリオが続いて、布団の上を何度か跳ねた。
「あんまりはしゃぐなよ? 壊れるかもしれん」
父さんは腕を組んで笑っていた。タリオは、壊れるかもと言われたあとは、慎重に布団に寝ころぶ。
今まで、藁を編んだものの上にそのまま敷いていた布団。今はその下に、細い木を隙間をあけて並べた台が組んであった。
床から大人の手のひらひとつぶんほど持ち上がっていて、その下にわずかな空間ができている。ミトは物をしまえそうな隙間があるところが素敵だと思った。
「あ」
タリオから預かっているテノー銅貨を布団の下に隠していたことを思い出して、慌てて布団の下を探る。
「――あった」
まだ袋があることを確認して息を吐いて父さんを見上げた。父さんが近くまで来て耳元で囁いた。
「エダに見つかるな」
ミトは苦笑いして、今度はもう少し奥に袋を隠すことにした。
六月の終わりごろ。
結局、答えを思いつかないまま早くも次の朔の日が来た。
食卓の上にだらだらと硯と筆を並べていく。
ぎりぎりまで答えを考えようと思っていたのに、オンじいは、やっぱり今日も早くに来てしまった。
それを見て今更焦り出す自分に内心呆れていた。
「どうだね。前回聞いた質問の答えはまとまったかな?」
ミトは首を縦にも横にも振らずに、タリオの方をちらりと見た。タリオはこくりと頷く。
「ではタリオから」
「ぼくは――きちんと字を学ぶことが大事だと思う」
「なぜ」
「おじいさんが試すなって言った理由を考えてみたんだけど、間違ってるかもしれないって言ってたでしょう? だから字を、セドラムも古い文字も間違わないくらいに修めて、書の正しさを自分で確かめられるようになればぼくは試してもいいんじゃないかと思う」
オンじいは頷いた。次にミトに向き直る。ミトはぎくりとしてオンじいを見つめた。
「お前さんの答えは?」
「わたしは……」
ミトはすぐに答えることができないでいた。タリオの言葉を聞いてもっともだと思うのに、なぜかしっくりこない。
自分が考える答えとは少し違うような気がして、もう一度オンじいに聞いた。
「ええと、こないだ、何を聞かれたんだっけ?」
「もう一度言おう。――君は、試した方が良いと信じることがある。でもそれを勝手に人に伝えたり、試してはならない。ならばどうする?」
「勝手に――人に」
ミトは目を見開いた。
そして、口の端を上げてオンじいに言った。
「オンじいが、試すな、って言ったんだから、試していい、って言ってくれるまでお願いするんだわ! ――許しをもらえばいいのよ!」
どうして今まで気が付かなかったのだろう。
「この間オンじいに聞かれた時は、自分で答えを出さなきゃって、そればっかり考えてたんだけど」
そう、思い込んでいた。
でも、オンじいが今言った言葉を聞いてやっと分かった。
「”勝手に”やらなきゃいいんだってことね! 試すな、って言われたなら、試していい、と言わせたらいいんだわ」
オンじいとタリオは最初は目を丸くしてミトを見ていたけど、タリオはすぐに呆れたように、にやっと笑った。
ミトはオンじいを伺い見た。
「違う? ――オンじい」
たずねた言葉に、オンじいは顔を手で覆ったけれど大きなくすくす笑いは隠れなかった。
でも、一度手を組み合わせて真面目な顔になる。
「各々の答えが見つかったようだな。もちろん、ミト。お前さんの答えは合っている。――タリオのもだ」
オンじいはまたくすくすとしばらく笑ってから、言った。
「健康について書かれた三枚六面については、試すこと、人に伝えることを認めよう。ただし、後で言うことを必ず伝えること。二枚四面の書にかんしては……」
ミトが聞いた。
「試したら駄目なの?」
「季節も丁度いい……。わしらで試して、人にすすめたりしても問題のないものか確認してみよう」
ダルド豆の解決編です。
三話続けて投稿予定です。




