↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/37

三日目 家宅訪問 (2)

 既に疲れたが、まずは梨乃ちゃんの家にお邪魔した。

 結構大きめの一戸(いっこ)建てで、部屋の数も多めで……予想通り、ちょっと裕福な家庭っぽい。ただし、彼女のこれまでの人柄から考えるに、親は厳しかったんだろうな。

「おお!めっちゃ綺麗じゃん!」

「うわほんとだ!めちゃくちゃ綺麗だ!わははは!」

 家の中がしっかり掃除されて清潔な状態になっているという点からも、それは察せられる。

 わたしと国栖穴さんが自分の家の中ではしゃぐというのも、家主であるところの梨乃ちゃんからすれば、ぞっとしないだろうけれど。

「ところで両親は……ああ、元からいないんだっけか?」

「そうですね。姉なら無事に生きているのですが、大獣害が起こった時には既に他県に別居していたので、今は島根県辺りで生活しているそうです」

「島根県……ああ、島根県にADFの支部があるからか」

 梨乃ちゃんのお姉さんのことについては、相部屋のわたしは知っていたけれど、馬垣くんや他の部屋の人達は知らなかったらしい。

 しかし、わたしもわたしで同じような境遇だから忘れそうになるけれど、よくよく考えたら、両親を亡くした未成年の女の子が、大獣害の前まではこの広い家で一人暮らしをしていたというのは、暗い話である。

 梨乃ちゃん本人がどう感じているかはわからないけれど……、当時どれだけ良いお天気の日が頻繁にあったのだとしても、『晴れた日は少なかった、どんより曇った日々だった』という風に想起してしまっても仕方ないくらいの、それは暗い想い出なのではなかろうか。

 であれば、ADFに入る前の彼女は。

 出会った直後のわたしに対して悪気も無しに失礼な発言を漏らした、あの時の彼女は。

 一体どれほど、気が滅入(めい)っていたのだろう。


「快適だし、もうとりあえずここが全員の拠点で良くね?」

 少ししてから、出されたお茶を遠慮なく飲み干した国栖穴さんが、足を投げ出すような座り方で後ろ手をついたまま言った。

「国栖穴、お前は普通に寝泊まりできる自分の家があるだろ。まあ篠守とかはその辺に置いとくとして」

「『その辺に』…?」

 国栖穴さんの提案を馬垣くんが批判したが、わたしを例外とするための表現が変な感じになっていたのが気に入らなかったので、わたしは国栖穴さんに加勢する。

「おいおい、1週間にも満たない特別休暇の間だけの拠点にしようって言ったくらいで、何堅いこと言ってんだよ熔巌くんよお」

「馬垣くん、帰りたいなら一人で帰っても良いのよ?」

「いや国栖穴、流石に他人(ひと)ん家で全員が数日も寝泊まりすることを急に提案するのは厚かましいって話をしてんだよ。篠守、俺を帰そうと言うのなら、お前も道連れにして行くぞ」

「は?プロポーズか?」

「おいここに貪食獣がいるぞ!戦闘用意!」

 わたしの正面にいた馬垣くんが、わたし越しにわたしの真後ろを指差して立ち上がったが、振り返ってみても貪食獣はいなかったので、どうやらただの脅かしだったようだ。

「じゃあもう、国栖穴さんと馬垣くんとで一緒に帰りなよ」

「いや篠守、それだと怪我人が出るからな?」

「え?」

「おい久凪、あの事件を思い出してみぃほれ。あたしとこいつが二人きりになったら駄目なんだって」

 と、わたしのぞんざいな提案に、今度は二人が口を揃えて否定的な反応を示してきたけれど、何のことだろう?

「あの事件?国栖穴さんがこないだ、服を着忘れて寝てた件のことですか?」

「指摘すると思うか?思い出してみぃって。自分がこないだ、服を着忘れて寝てた件を」

「冗談です冗談です。御水見さんが、服を着ずに国栖穴さんを起こした件についてですよね!」

「指摘すると思うか?思い出してみぃって。目が覚めたら、友達と一線を越えてたみたいな空気だった件を」

「じゃあ馬垣くんが……」

「俺は服を着忘れねえよ!」

「マジに言うと、馬垣があたしの服の袖(そで)を融(と)かしてあたしを火傷させて、あたしが馬垣の髪の毛を硬化させてボロボロにした事件だ」

「順番が逆だろうが。いや、そもそも別にこんな話をしなくても、紫野に訊いて許可を取れば済む……って、どこだあいつ?」

 と、ここで気付いたが、いつの間にか梨乃ちゃんがいなくなっていた。

「トイレ行ったで、おどれらの口喧嘩が聞くに堪(た)えんかったんやろ」

 と、巻藁さん。

 しょうもない口論だと言わんばかりの、呆れた表情だ。

「まあ梨乃ちゃんなら泊めてくれるでしょ」

「それは否定しないが、だからと言って泊まる前提で話を進めんなって。それが何か迷惑になるかも知れないという可能性を……って、なんだよこれ!俺にさえこんな説教をさせるって、一体何者だお前ら!?」

 馬垣くんが我に帰った。

「迷惑……迷惑って言った?」

 我に帰った馬垣くんに、わたしは言う。

「頼られることが迷惑な訳ないじゃん!」

「頼る側がそれを言うな!」


 そんな風に駄弁(だべ)っているうちに梨乃ちゃんが戻って来て、そこでまた揉めて。

 結局、女性なら3人だけこの家で寝泊まりしても良いという話になったので、夜になったら、わたし・髭根さん・巻藁さんの三人が泊めてもらって、寝袋でも使って床で寝ようという話になった。

 でも、なぜだろう?

 どういう訳か、わたしと一つ屋根の下で二人きりにはなってくれない紫野梨乃である。

 特に困っている訳でもない髭根さんと巻藁さんを必死に引き留め、泊まっていってくださいと提案していた。

 どうしたんだろうねえ。

 と言うか、それでも国栖穴さんを泊めはしない辺りが流石だよ。公平な振る舞いに定評のある梨乃ちゃんさえも避ける国栖穴さんが流石なのか、誰にでも公平に接していると見せかけるのが上手い梨乃ちゃんが流石なのかは、言わないけれども。


 さて、そうは言ったものの、まだまだ日中だ。今晩の宿泊場所が決まったからと言って、家宅訪問は終わらない。

 家々を巡るわたし達の休暇は、まだまだこれからで。

 且(か)つまた、地獄はこれからなのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。