二日目 小休止の帰宅
二日目の午後。
この時だけは漫然と過ごすことができた。
一応のスローライフが実現した。
まあ、適当にだ。自宅に帰ったけどすぐに立ち去って、その辺の宿泊施設に泊まって過ごしただけだ。
別に、特段幸福な一時だったという程のことでもない。
自宅に帰ったら、外見は意外と無事なように見えたけれど、よくよく検分してみたら壁に穴とかが空いている部分もあるし、窓ガラスも一部割れているし、もはや廃墟だった。
わたしの家、壊れてるじゃん。
原型を留めているだけまだマシだけれども、埃やら何やらのハウスダストのせいなのか、気分も悪くなってきたし……
なんかもう、嫌になってきた。変な空気を吸ったからか、胸焼けがしてきた。
一応、家の中にあった品々を泥棒よろしく物色したけれども、備蓄として保管されていた保存食をいくつか獲得したのと、読みかけの漫画を回収した(わたしは電子よりも紙の漫画を好む)くらいの収穫しか無かったし。
なんかちょっと違うかなーみたいな、帰ってくるのは今じゃなかったような気がするなーみたいな感じがしたので、すぐに立ち去った。
薄情なのかと思うかも知れないが、実際こんなものではなかろうか。帰ってくることができたとは言っても、出迎えてくれる家族は誰もいないし、ドラマチックだったり感傷的だったりする感慨や想い出はまったく無いでもないが、こんな埃っぽい所でそれに浸ろうという気分にもなれない。
と言うか、わたしにとって懐かしむべき家というのは、どちらかと言えばこれの一つ前に住んでいたアパートである。あそこは結構広くて、特に不自由がある訳でもなかったのだけれど、わたしが13歳の時に父が死んだので、まあ色々あってこっちの家に引っ越して来ただけだったのだ。
言ってしまえば、ここは今や、もう住める可能性も住む意味もほぼ無いような廃墟に過ぎない。よくよく内部構造を知っている廃墟から、役立つアイテムを拝借しただけの状況だ……って、いや、これは流石に言ってしまい過ぎか。
……まあ、でも。
この調子だと、この家は直に風化していくことだろう。そのままの意味で、風化だ。
こんなに壁も窓も所々壊れているような家のことだ、居住者の中で最後の生き残りであるわたしが、手入れと修復をたった今諦めたのだから、それは自明だろう。
だから、漠然と『また後で帰って来ようかな』なんて想定しているこの家には、今度こそ、もう二度と帰って来られない可能性だってあるのだ。
この家で過ごすのが今日で最後になる可能性だって、本当にあるのだ。
愚かなわたしでも、その点には流石に途中で気付いた。
だから。
「行ってきます……いや」
ふと振り返って、わたしは独り言のように言う。
荷物を減らすためにその場で漫画を読めるだけ読んだ後、暗くなってきたので未読分だけをリュックサックに詰めて、外に出たところだったけれど……これだけは言っておかなければと思って、家に向き直ったのだった。
そして、言った。
誰にともなく、ではあっても。
何の意味も無くとも。
頭を下げつつ、言うべきことを言った。
「4年間、お世話になりました」




