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二日目 ADF最速決定戦 (2)


 順を追って話すなら、まずは昨日の話からだ。

 駐屯地外に出られるという特別な休暇の初日、わたしは駐屯地内に監禁されていた。

 あれは熾烈(しれつ)な戦いだった。

 目を覚ました時、わたしは既に紫野(ゆかりの)梨乃ちゃんの斬撃の糸でぐるぐる巻きに縛られているところだったのだ。

 しかも、床に寝かされた状態で。

 そもそも、服を着せ替えられた状態でだ。

 本当に意味がわからなかったし、そこでわたしが理由を問い質(ただ)した時の彼女の返答も、

「ええ、まあ、皆さんの休日のために……」

 みたいなぞんざいな感じだったし、挙句にはわたしの目の前に運んできた椅子に座ってスマホゲームをやり始めるしで、もうなんにもわからなかった。


 それに加えて、彼女の脅しが酷かった。

 と言うのも、

「これ、わたしの服を着せ替えてんじゃん!」

「着せ替えましたが?」

「見たな!?わたしの裸を見たな!?」

「予備の適当な服じゃないと、私の異能で切れてしまった時に勿体ないので」

「質問を無視すんな!」

「とは言っても動かないほうが良いですね。こんな床の目立つ位置に寝転がった状態で、もしも服が切れてあられもない姿になってしまったら、外から誰かがなんとなくこの部屋のドアを開けただけで、あなたは終わりますから。見られたいですか?露出した素肌や生足を」

「貴様っ…!」

 という、そんなやり取りがあったのだ。

 わたしの、他人に生足を見せるのを嫌うという性分(恐らく大半の読者が忘れているであろう設定)につけ込んで、見事に脅してきやがった。

 と言うか、梨乃ちゃんは上官から『あんまり篠守に異能を使うな』と言われていた筈なのに、これである。

 確かにその理由は『服が勿体ないから』だったけれども、だからと言って、服を予備の適当なものに替えればOKという訳ではないだろ……

 ともかく、それ以降は日がな一日、梨乃ちゃんに交渉を仕掛けては却下されてと、駆け引きを繰り返す心理戦が続いたのだった。


 それで今日の話に戻るけれど、今日は『東日本ADF最速決定戦』なる大会が開催されている。

 今朝、わたしと参加希望者全員で、福島県支部が所在する駐屯地の前に集合した後、このスタジアムに移動してきて、ついさっき始めたところだ。

 参加しているのは、前回の三支部連合隊と同じ面子の、長野県支部・福島県支部・山形県支部である。

 岩手県支部は不参加を申し出た。

 北海道支部はハブにされた。

 移動には、自衛隊のヘリコとか輸送車とかを使わせてもらった。こんなことのためだけにである。

 そしてこのスタジアムを使って、走る速さとか、射撃の早さとか、他にも色々と早さと速さを競い合う競技を行う予定らしいのだが、今はとりあえず、徒競走だけ終えたところだ。


「まじかー。まさかこの俺が負けるとはね」

「初速ではお前のほうが勝っていた」

 隆谷寺さんと白銀さんは、わたしを気にしていないな……

「何故です篠守さん、貴方と競いたかったのに!」

「……」

 取り押さえから解放されたわたしがみんなの所に戻ると、生真面目(きまじめ)な真鈴さんだけは、そんなことを嘆かわしそうに言ってきた。

 しかしわたしは謝らない。

 この程度では謝らんぞわたしは。

「一位が白銀で、二位が隆谷寺だな。三位真鈴、試合放棄篠守っと」

「試合放棄篠守……語感が良いな」

 うるさい。語感が良くなどない。

「にしても残念だ。元陸上選手の真鈴と、男の平均より速い試合放棄篠守は、どっちのほうが速いのか気になっていたんだがな」

「馬垣くん、試合放棄篠守をあだ名にしないでくれる?」

「今回ばかりはしっかり走って欲しいところでしたね。私も結果に期待していたのですが、まさか試合放棄篠守さんが、試合放棄をするなんて」

「梨乃ちゃん、あだ名を定着させようとしないでくれる?」

 て言うか、試合放棄篠守が試合放棄をするのは当たり前だろ。いや、わたしは試合放棄篠守じゃないけど、試合放棄篠守じゃなくても試合放棄をしたけど、でも試合放棄篠守だったら試合放棄をするのは当たり前だろ。


「それで篠守さん、なんでまた逃げたんですか?」

「強制的に連れて来られたからに決まってるでしょ」


 そう。

 今回のこの大会、わたしだけ強制参加だったのだ。

 わたしだけ、参加希望者じゃないのに参加させられた。

 家に帰ろうとするわたしに、日倭(ひわ)さんと梨乃ちゃんが『最後に徒競走をして、自分の足の速さを試して行かないか』という旨(むね)の提案をしてきて、わたしがそれを渋々と承諾した瞬間に、背後から何者かに後頭部を殴られて、気付いたら輸送車の中だった。

 やっと駐屯地に監禁される日から解放されたと思ったら、次は仲間に拉致される日だったのだ。

 ……本当に仲間なのかこいつら?

「仕方ありませんよ。篠守さんの足があまりに速いから、長野県支部の全員があなたの参加を望んだんです」

「え……わ、わたしのことを、そんなに高く評価してくれていたなんて……とはならんわ!!!」

 多分それ、わたしの捕獲を面倒臭がる気持ちの裏返しだろ。

「というか、あの時わたしの後頭部を殴ったのは誰?馬垣くん?」

「隆谷寺さんですね」

「そうだね、俺だよ。ごめんねー」

「……」

 なんでだよ。

 なんで長野県に居たんだよ。

 福島県で全支部が合流する予定だったのに、なんでわざわざ長野県に来たんだよ。福島県で待ってろよ。

「せっかくの自由休暇だから、俺も舞い上がっちゃってさ。ランニングでもしよっかなーって」

「え?まさか……」

「福島県支部から長野県支部までランニングしたんだよね」

「……」

 またかよ。

 暦の上では春になったとは言え、まだ普通に肌寒い、通り風が時折肌を刺すようなこの時期の早朝に、どんだけ走るんだよこのおじいちゃんは。

 しかもその後に100m走もやるって、どんな体力だ。

「流石に凄いと言わざるを得ないな。まさかそんな距離を徒歩で移動して来るなんて。体力の問題もそうだけど、時間もかかるだろ?特別休暇中じゃなけりゃ、とてもできねえような時間の使い方だよな」

「……」

「……」

「そうでしょうね。福島県から長野県まで走るなどという大胆な試みは、恐らく今回が初めてだったのでしょうね。それを成功させたというのですから、見事なものです」

「……」

「……〜♪」

 謙遜している風を装って黙り込む隆谷寺さん。

 関心が無い風を装って口笛を吹くわたし。

 バレてしまうとまずいのだ、あの時のことは。


 まあそんな流れと成り行きで、この日は徒競走に強制参加させられたが故に、この大会の全貌を見届けることになった。

 こんな大会にはあまり興味が無いんだけれど、みんながここに来るために使った諸々(もろもろ)の乗り物を使わせてもらわないと、わたしも帰れないからね。

 という訳で、ここからは徒競走の後に行われた他の種目について語っていこうと思う。

 その辺は別に重要ではないので、興味が無ければ読み流してくれても構わない。

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