六日目 制圧完了
その後は、殆どの赤団員が既に気絶させられている状況だったので、そいつらを探して拘束して回るという作業に移った。
それもそれで面倒だし、ここまでの展開で楽しかったことも、この後楽しくなることも、この日の中では何一つ無いだろうし、わたしが隆谷寺さんと協力者してまで仕組んだ情報操作も結局は無意味に終わってしまったし、人を危うく殺しかけるくらい殴る蹴るしてしまった罪悪感が今更のように降りかかってくるし、もう散々な気分になった。
本当に、何一つ良いことが無く。
ただ、わたし達が背負う業が増えただけで。
よくよく考えたら、わたしは何をしているのだろう、これはどういう話なのだろうと、悪い夢でも見ているかのような気分だった。
この後も、協力者三人組の中から誰かがここに残って、これから来る他の警察官に事情を包み隠しながら説明して、わたし達が協力したという事実の隠蔽に加担するように説得してくれる予定らしいけれど、そんなの成功するとは限らないし。
不安も憂鬱も尽きない。
「一つ。一つだけ、いいだろうか」
うつ伏せの近道が、そう言った。
見つけた限りの赤団員をダクトテープでぐるぐる巻きに縛り上げて、それから警察に匿名で通報して、さっさとズラかろうとしたわたし達に、縛られたままの近道が言った。
「何ですか?もう警察呼んじゃったので、早く行きたいんですけど」
「いやさ、気になることが一つあるんだ。君らは抵抗者だよね?僕と同じように、異能があるんだよね?」
「それがどうかしたんですか?」
「僕から見ると、君らは恐らく、異能と欲求が関係しているんじゃないかと思うんだ。多分、そこの『不良くん』とかいう人の異能は、物を高温で融かすとかじゃないのかい?」
「…!?」
それまで耳を貸していなかった馬垣くんが、その看破を受けて、素早く振り返る。
「あと、さっきから一言も喋っていないその女の人は、水に関する異能じゃないのかな」
「…………」
看破されても、相変わらず耳を貸さずに余所見をし続ける御水見さんは、流石だけれど。
これは……
……いや、今更警戒するようなことでもない。
この問答が時間稼ぎなのだとしても、どうせ無駄だ。
他の赤団員も近道も、既にダクトテープでぐるぐる巻きだ。例え残党が隠れ潜んでいたとしても、このテープを全て剥がし切るのは相当難しいと考えられるため、警察が来るまでに全員を解放することはできない筈だ。
ただ、異能を言い当ててきたことには素直に感嘆した。
それと同時に、何かを直感しかけた……けれど、わたしはすぐにわからなくなった。自分が閃きそうになったことを、忘れた。
抵抗者の異能と、欲求との関係性について……いや、そうではない。それ以前の何かしらのことを、その時直感しかけたような気がするのだが……
「やっぱりそうだったか。だけどさ、ともすれば君らは、自分の持つ強い力に酔っていて、精神的に依存しているんじゃないのかなって思うんだ。その異能を行使することを欲し、求めているんじゃないのかな?」
近道は言う。
敵意も他意も無さそうな言い方で。
「君らはその異能のお蔭で、これまで数々の苦難を乗り越えてきたんだろう。けれど、もしも君らが異能を失ったらどうする?『別に取り乱したりせず、普通の生活を再開するだけだ』と、自分では思っているのかも知れないけどさ、僕からはそうは見えないよ。君らのことは、人として危ういと思えてしまってならない。どういう訳か、君らは異能を使うことに執心しているように見えるからね……だから、ちょっと尋ねてみたかったんだ」
近道は。
「君らは、異能に酔っているんじゃないのかい?」
「……はっ」
「……ふふっ」
「あはっ」
「はあ……」
「…………」
近道はそんな、おかしなことを言うのだった。
「ん…?何…?」
失笑と微笑と冷笑と嘆息が入り混じるわたし達の反応に対して、異変を感じているかのような顔をする近道だったが、ついでに言うと協力者三人組も同じような顔だったが、しかし異変と呼ぶべきはむしろ、近道のその質問なのだった。
的外れと言うよりも、矢を手で持って直接突き刺したほうが早いくらいの至近距離にある的を、わざわざ律儀に弓で狙っているかのようなその質問に、わたしはつい、にやけてしまう。
「さあな」
と、馬垣くんが口を開いた。
怯んだ様子も動揺した様子も無く、嗤いや嘲りを込めてでもなく、平坦な口調で。
「お前の言うことは抽象的で概念的で、何かを言ってるようで本当は何も言ってねえんじゃねえかなあと思えてくるわ。だから俺もお返しとして、あえてそういう言い方をするんだけどよ……ま、アレだろ」
馬垣くんは言う。
「酔ってるっつーか、俺達は狂ってるだけだ。こんな話の結論なんて、それで十分だろ」
その言葉に、わたしが肩を竦める。
その言葉に、梨乃ちゃんが溜め息を吐く。
その言葉に、隆谷寺さんが微笑む。
その言葉に、御水見さんが余所を見る。
「……そっか」
そして振り返り、わたし達は再び歩き出す。
いつまでも喋ってばかりではいられない。
本来ならば、近道からの質問を無視して立ち去っても良かったところなのだ。それくらいは近道もわかっているだろう。
今度こそ問答無用で立ち去ろうとするわたし達を、彼は呼び止めようとはしなかった。
「僕は応援するよ。君らの欲を」
ただ、去り行くわたし達の背に、近道のそんな呟くような言葉が、餞として贈られたような言葉が、聞こえたような気がした。




