六日目 作戦の全容 (1)
今回のオチは、大きく分けて二つだ。
一つ目は、わたしを撃ったあの三丁の拳銃が、元から赤団が持っていただけの、ずっと前に別の警察官から奪っていただけの拳銃であるという点。
そりゃあ、協力者三人組は箕輪町の警察官で、赤団も箕輪町に拠点を持つ犯罪組織なのだから、赤団がどの警察官から拳銃を奪おうと、大抵は同じ拳銃だろう。
協力者三人組から奪っても、別の警察官から過去に奪っていても、そりゃ同じ拳銃だろう。
協力者のそれと同じような拳銃を赤団員が持っていた理由は、ただそれだけのことだった。
そして、二つ目は。
敵を騙すために、まず味方から騙そうとした奴がいるという点である。
「はっはー、みんな無事みたいだね」
隆谷寺さんが現れた。
観念した近道を取り押さえたところで、アジトの奥のほうから、隆谷寺愁弥さんが歩いて来たのだった。
その後ろに続くように、いかにも不機嫌そうな顔の馬垣くんも来たので、これで全員が集合したことになる。
「戻って来たんですか!?」
「帰ったんじゃ…!?」
「え、誰…?」
協力者三人組だけでなく、近道も困惑している。
この見透かしたような男でも、困惑している。
「いやはや、我ながらこれは上手く行ったねえ、うん」
「クッソ気に食わねえわ、マジで嫌だわこいつ」
笑顔の隆谷寺さんとは対照的に、本当に機嫌が悪そうな馬垣くんが、わたし達のほうに歩いてくる。
それがちょっと怖かったので、わたしは思わず逃げ出したくなってしまったが、この状況で味方から逃げても仕方ないから我慢した。
「まが……いや、えーと……コードネーム『不良』くん。あの、とりあえず、説明してくれる?外に出てからのことを……」
うっかり本名で呼びかけたが、今は隣に近道がいるので、適当に考えたコードネームで呼ぶことにした。
後で警察に名前をチクられないようにね。
「どうしたんだよ?コードネーム『クズ』。お前今、やたらと落ち着きがねえが」
「…………いや、なんか不機嫌そうで怖いし」
わたしのコードネームが酷すぎる件については、今だけは突っ込む勇気も出ない。
このレベルの威圧感が馬垣くんから放たれるのは、結構久しぶりのことだった。
「あぁ?なんで怖いんだ?この状況で、俺がお前に怒る理由があるのかよ?言っとくが、いきなり変な呼び方をされたことについては怒ってねえぞ?」
「と、とにかく、分断された後の話をしてよ」
そこからは、協力者三人組と御水見さんの第二班と、馬垣くんと隆谷寺さんのペアと、わたしと梨乃ちゃんのペアという、三つの視点からの情報を共有して、状況を整理した。
近道の前だから、お互いに本名は呼ばずにね。
さて、そうは言っても、第二班は普通に侵入して赤団員と戦闘していただけだったらしく、わたし達がここに至るまでの経緯は既に記したので、その二つの話は割愛する。
だから問題は、馬垣くんと隆谷寺さんの話である。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「俺が外から外に閉め出されるという異常な体験をした直後に、そのシャッターの鍵の持ち主が逃げたから、追いかけたんだよ。で、追いついて叩きのめしてやったんだけど、なんかこのまま裏口から入り直すのも嫌な予感がするなーと思ったから、たまたま開いてたその辺の窓から中に這入ったんだよ。
「そっからは隠密して赤団の奴らを地道にシメていたんだが、なぜか、そこら中に既に倒れてる奴らがいてな。既に制圧された後みたいな有り様でよぉ……
「そこにいる女子二人じゃあこんな大暴れはできねえだろうし、第二班が入った正面玄関からは遠いしで、これはおかしいだろと思ってたら、予想通りだよ。
「こいつが、このクソみてぇな武術家が、いつの間にか侵入してたんだよ。いや、本当にクソなのはこっからだ……、俺すら気付かない間に、俺からさえも隠密しつつ、こいつは俺と共闘していやがったんだよ。
「俺は途中まで、こいつと一緒に戦ってることに気付かなかったんだよ。
「こいつにその目的を問い質したら、保険だとか用心だとか念のためとか、説明になってねえ説明ばっかりだぜ。念のためって、それに何の意味があるんだよ。おい、お前に言ってんだぞ『武術家』。
「ったく、俺が一人でやったみたいに見せかけやがって。俺がシメた人数はまあ10人くらいだけど、こいつは俺からも隠れながら、その倍くらいの人数をやってたからな。もうムカつくことこの上ねえよ。新手と接敵する時、2/3の確率でそれは既に気絶してる新手なんだよ。何なんだよこの戦闘は。
「で、全部片付いてから、へらへら笑いながらのこのこ出てきやがってよ。まじでこいつぶん殴ろうかと思ったんだけど、そん時にこっちらへんで銃声が聴こえたから、来てみたんだ」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
馬垣くんの話を聞いて、まず口を出したのは誰あろう、近道だった。
「なるほど。さっき僕の部屋のほうに侵入されてるとか何とか聞いたけど、侵入していたのはあんただったのか、『武術家』さん。すると、そっち方面に行った僕の仲間の奴らは、もうやられてしまっているって訳だ」
落ち着いた風な喋り方ではあっても、額を伝う汗の量が増えていることは明らかだ。
話を聞く限り、わたし達がロッカーに隠れた時の場面で、赤団員の女性が『奥に侵入されてる!』と言っていたのは、近道の部屋(多分、生活空間とかだろう)とやらがある辺りに隆谷寺さんが侵入しているということだったらしい。
しかし実際には、別に近道がその時その場所に居た訳ではなかった筈だ……、赤団員もそこまでは把握してはいなかったのだろうか?
それにしても、その部屋があるエリアに侵入されただけであんなに焦るなんて、赤団員の忠誠心も大したものである。
……いや、この皮肉は流石に不謹慎だったか。
実際、あの時の赤団員の焦りようは、病的なまでに近道に心酔して依存していることが原因だったのだと思う。
結局のところ、本人は何やかんや言っていても、近道は周囲の手下から信奉されるようなカリスマ性を持つボスだったということなのだろう。
話を整理しよう。
まず、隆谷寺さんが『帰る』だの『告発する』だのと言っていたのは、全て嘘だった。
そうしてわたし達を騙すことで、わたし達の脳内から『隆谷寺さんに任せれば良いや』というような意識が抜けるように仕向け、近道に自分の存在を悟られないようにした。
……なんて言っても、これは結果的には、あまり重要じゃなかったと考えられる。
わたしにはわかる。断言しても良い。
隆谷寺さんの存在を近道が察知できなかった原因は、それだけではない筈だ。




