六日目 積極的行動 (2)
結局、最後までわたし達が見つかることは無かった。
赤団の男達も、話し合いの末に去って行った。
ただしそれは、元からこの場に居た三人の男達が話し合ったということではない。
「あの、何ですかこの手の握り方は」
「え?」
わたしは梨乃ちゃんの手を適当に握っていたのだが、梨乃ちゃんは不服があるかのようにそう言ってくるので、わたしはよくわからないままに手を離す。
よくわからないが、まあとにかく、ロッカーの扉を開けて外に出てみた。
「それより、あの赤団員が言っていたことが気になるわね」
「それよりじゃないですよしれっと流せると思っているのなら大きな誤りです大きく謝ってください!」
「なっ、何…?どうどう……」
急に早口で捲し立てられて、わたしは動揺する。
……大きく謝るってなんだよ。
珍しく、なぜか梨乃ちゃんが取り乱しているようだった。
「どうどうではありません!私を馬扱いですか!?馬鹿にされては困ります!」
「いや、馬はともかく、鹿にはしてないでしょ!って言うかその発言、前提として馬を見下してなきゃ出てこないよね?もっと馬を敬いなさいよ!」
「驚きはしましたよ!」
なんだこの会話。
「えーと……あれ?梨乃ちゃん、なんか……」
そんな風に(抑えた声量で)怒られながら、ロッカーから出て、明るい状態で梨乃ちゃんの顔を見てやっと気付いたのだけれど、梨乃ちゃんはなぜか顔を赤らめていた。
言うまでもなく、入る前までは普通だったのだけれど……どうしたのだろう?
ロッカーの中は暗かったから、どのタイミングで赤くなっていたのか判断できないけれど、たった今の取り乱しようから考えると、何か怒らせてしまったのだろうか?
「な、なんかごめん」
「ああ、謝ってくださいと言ったのは言葉の綾だったので、言わなかったことにします」
「おい!」
謝っちゃったじゃねえかよ!どうしてくれんだよ!
わたしは!人に!謝るのが!大嫌いなんだよ!
「そうではなくて、その……どういうつもりで私の、手を、握ったのでしょうか」
「えーと、震えてたものだから、その、作戦に支障が出たらやばいかなーみたいな感じで、なんかこう咄嗟に……」
何かまずいことをしてしまったかも知れないので、わたしはとりあえず当たり障りの無いことを言ってみる。
「……やっぱり今の会話も無しにします」
「えっ」
無しにされた。
恐らく、わたしが手を握ったことに対して何かしらの不服があったのだと思われるけれども、梨乃ちゃんだって、わたしに無意味に謝らせるという人格否定をしてきたので、お互い様だからもう気にしないことにした。
話を戻すけれど、とにかく、さっきの赤団員の会話の内容が気になるのだ。
少し前、赤団員の男二人がわたし達を探しつつ、このまま探し続けるかどうか話し合っていたところに、またあの女性の赤団員が戻って来た。
なぜか戻って来て、慌てたような声で、
「ねえ、ちょっと来て!なんかおかしい!これ、多分奥に行かれてる!」
と言い出したのだ。
そしてそれを聞いた赤団員の男二人も、急いでどこかに走り去って行ってしまった。
……え?男達の人数は三人じゃなかったのかって?
いや、そのうちの一人は探すことに対して消極的だったので、途中、『もう二人だけで探してろよ』とか言って勝手にどっか行ったから、女性が再び来た時には二人だけだったという訳だ。ギスギスしてんなあ、赤団。
さておき、不可解である。
わたし達はここにいるのに……もしかして『奥に行った』というのは、御水見さんと協力者三人組のことだろうか?
そう言えばわたし達は、建物に侵入してからはスマホのメールを確認していない。彼ら第二班からの返信を確認していない。
「あ、返信は来てる。『了解。こちらも突入します』って書いてるけど……」
これだけでは、『奥に行っている』人間が、うちの第二班かどうかはわからない。もしかしたら何らかの方法で侵入を果たした馬垣くんかも知れないし、ひょっとするとわたし達以外の第三勢力が攻め込んできているのかも知れないし、なんなら、赤団員が思い違いをしているだけで、本当は誰も侵入してないなんていうオチもあり得ないでもない。
「それを確認するのも良いのですが、まず馬垣さんのことを報告しておきましょうよ」
「そうだね」
わたしは改めてメールを打つ。彼ら第二班も既に敵地の只中に居るのならば、メールを読んでいる余裕など無いのかも知れないが、駄目元で送ってみる。
『第一班が、馬垣くんと他二人とで分断されました。馬垣くんは恐らくまだ外にいて、一人の赤団員と戦っていると思います。あと、この工場の奥のほうに、何か赤団にとって重要な場所があるらしいんですが、もしかしてそっちの第二班は、既にそこまで進行しちゃってますか?』
ここであえてわたし達の居場所を教えなかったのは、万が一第二班がやられていた場合に、スマホを奪われてこのメールを読まれた時のための保険である。
まあ実際には、そんなことあり得ないと思うけど。
メールを送信して、すぐにわたし達は移動した。
移動先は流石に、件の『奥のほう』ではない。さっきの女性がああやって他の赤団員を呼び寄せていたということは、今頃その場所には赤団員が集中している筈だ。
だからわたし達二人は、どこか別の場所にいるかも知れない第二班と合流しようか、馬垣くんと合流しようか、それとも遊撃を続けるかという三択を迫られた。
結果、遊撃を選んだ。




