六日目 侵入 (2)
「がっ…!?」
「っ…!」
鉄パイプだ。この感覚は、鉄パイプだろう。
横から飛び出してきた何者かが、わたしの頭を鉄パイプで殴り付けてきた。
その衝撃で、わたしは持っていた警棒を取り落としてしまうが……これは。
待ち伏せ?伏兵?
まさか、奇襲をかけようとしたつもりが、逆にこちらが奇襲を受けているとでも言うのか?
もしも殴られたのがわたし以外の誰かだったら、相当まずいことになっていただろう。
「っ!!」
「!!」
無言だった。
全員が全員無言だったので台詞ではわかりにくいが、馬垣くんはわたしを殴った男を直後に全力で殴り返し、気付けば梨乃ちゃんは逆サイドに控えていた別の男を警棒と体術で迎撃して、二人で二人の敵をもう制圧していた。
そして、どさくさに紛れて時間差で飛び出してきた第三の伏兵もいたが、わたしは特殊な訓練によって気絶しにくい体質にされてしまっていたので、最初にやられてダウンした筈だったわたしが、それこそ奇襲のように騙し討ちのように、突然起き上がって伏兵の顔面を引っ叩いた。
引っ叩いたというのは、掌での打撃ではない。つい昨日、隆谷寺さんから教わった一本拳での打撃技である。
それで相手が怯んだかどうか確認する間も惜しんで、わたしはタックルを仕掛けて相手を転倒させ、そのまま首を絞めようとしたが上手くいかず……悶着の末に、寝転んだ相手の首に一本拳をねじ込んで、相手の頸動脈を圧迫して、絞め落とした。
この程度の奇襲でやられてしまうような隙は持ち合わせていないわたし達だったが、しかしこれはまずいことでもある。
「潜伏がバレてやがる…!」
「一旦退避です、一旦退避」
今の場面。
全員が全員、無言だった。
無言だったのだ、相手の男達も。
襲ってきた奴らは間違いなく赤軍の構成員だと思うが、直前にわたし達の物音や声を聴きつけて慌てて待ち伏せの状態を構えたという風ではなく、最初から気配を殺して、わたし達に一切の物音などを聴かせないようにしていたから、わたしは気付かなかったのだ。
こいつら……もとい、彼らの表情の落ち着きようと言ったら、わたし達がここに来たことが、まるで予想通りだとでも言わんばかりだった。
ましてや彼らは、自分達がわたし達に制圧される最後の瞬間まで、無言を貫いたのだ。動揺も何もあったものではない。
このことが何を意味するか、言うまでもないだろう。
こっちだけでなく、第二班もとっくに気付かれていて、今頃そっちも待ち伏せに遭っているに違いない。
三人一緒に建物の外に退避しつつ、わたしは急いで電話をかけようとした。メールではなく電話で、素早く伝えなければ危険だと思ったからだ。
しかし、よくよく考えてそれを思い留まる。
もしもし電話の着信音が鳴れば、彼ら第二班のすぐ近くに敵が潜んでいた場合、敵には着信音で彼らの正確な居場所がバレるが、彼らは着信音のせいで敵の立てる物音が聴こえにくくなるだろう。
いや、マナーモードにしているだろうとは思うけれど、それでも万が一のことがあるかも知れない。
伝えなくても、あの御水見さんなら大丈夫だ。最初の不意打ち、最初の奇襲だけなら、返り討ちにしてくれる筈だ。
例えば宇都宮でも、どうやってなのかはわからないけれど、砂人形の奇襲に反応していたし。
今回もそんな風に待ち伏せを返り討ちにして、その後にわたし達のことを気にしてMさん辺りがスマホを操作するだろうから、その時に伝われば良い。
という訳で、電話ではなくメールにした。
『思いっきり待ち伏せされてました。侵入がバレてます』と、短く簡潔なメッセージを送っておいた。
「で、どうするよこれ?撤退か進行かで言うと」
「それは進行でしょう」
「だよな」
と、横では馬垣くんと梨乃ちゃんが積極的な意気込みだったが、メールを打ち終わったわたしはしかし、嫌な予感を覚えていた。
「確かに、ここまで来て撤退っていう訳にはいかないと思う。ただ、前にそんなことを言って進行して、痛い目を見たことがあるのよね……」
「隆谷寺さんにやられた時の話ですか?」
「ま、まあね……いや、まあって言うか、普通にその話よ、うん……でも、今回は勝機が無いという訳でもなさそうだと思うし、やっぱりここは進行かな。この状況でできることってそれしか無いし」
「…?」
わたしが妙にぎこちなく喋っているところを梨乃ちゃんが不思議そうに見てくるので、わたしは内心では結構焦ったけれども、手を一つ叩いて、
「よし、やっぱり侵入してしまおう」
とか言って、強引に話の流れを戻した。
さておき、時間差を置く形にはなってしまったが、わたしはもう一度メールを打ち、次のように綴った。
『この状況だと、むしろ突入してしまったほうが隠密になるので、先に入ります。危なげのあることはしません』
それを送信してから、三人で再び、静かに裏口に接近して、そのまま中の様子を窺った。
中を覗きながら慎重に這入ってみると、流石にもう一度不意打ちを受けるということは無かった。
ただし、よく耳を澄ませてみると、遠くから人が走ってくるような足音が聴こえてくる。
赤団の構成員、略して赤団員が、こちらに向かって来ているようだ。
裏口から入ってすぐのところには、工場で扱われていたのだろう沢山の荷物が、四角形で緑色の柵付きの台車に積載されて並べられている見晴らしの悪い区画があったので、わたし達は素早くそこに這入り込んだ。
さっき送信したメールでは、『危なげのあることはしません』とは言ったけれど。
因みに、それは嘘である。




