六日目 作戦続行
「……で、どうするんですか」
こんな時にまず口を開くのは、大抵わたしだ。
不本意な役回りである。
「隆谷寺さんのこと」
「諦めるしかねえだろうとは思うぜ、そりゃあ」
と、馬垣くん。
元から剣呑で神妙な顔付きの面々だったのをこう言うのも変だが、全員テンションが下がりまくったこの状況でも、嘆く者は誰一人としていない。
依然として、やる気は無くならない。
わたし達はそういう風に訓練されてきたし、警察関係者たる協力者三人組だって、それは同じだろう。
「しかしあの野郎……まさかここまで来て裏切るなんてな。いや、ADFに対してはむしろ従順なことだが」
「私達の勝手な行動を、仮に隆谷寺さんが本気で告発するつもりなのだとしたら、もう止めるのは無理でしょうね」
なんだかなあ……わたし達と敵対したっていう程のことではないけれど、結局こうなるのか。
隆谷寺さんとは、それなりに信頼関係を築いたつもりだった……、だからこそと言うべきか、それなのにと言うべきかは見方にもよるだろうが、とにかく隆谷寺さんは、これからわたし達の行動を告発するらしい。
「もしかして、彼がこのタイミングで言い出したのは、我々の居場所を特定しやすくするためなんですかね?赤団のアジトのおおまかな場所だけ把握しておいて、あとはそこに応援を送り込むっていう……」
「そうでしょうね」
と、Oさんの質問にわたしは答える。
「あの人は相当に計算高い人ですから、あんな気分と思い付きだけで決断したかのような風を装ってはいても、無意味なことはしません」
「それと、事前に言い出すことで、私達に踏み留まらせようとしたのかも知れませんね」
と、梨乃ちゃんが付け加えた。
隆谷寺さんが走り去った時から、わたし達を乗せたキャンピングカーは、もう5分間は停車したままでいる。
かなりの戦力として扱っていただけに、彼が突然辞退したことには動揺してしまって、これからどう行動して良いものか、みんな躊躇っているのだろう。
意見を出し合うと言うよりは、状況確認や事実確認の発言ばかりを交わしている。
しかし本音を言えば、わたしはここで本当に躊躇って葛藤していたのではなく、実は議論が煮詰まるのをただ待っていただけなのだった。
「議論が煮詰まるという言葉は、本当はそういう意味ではないのですが」
「待って梨乃ちゃん、このタイミングで読心術は流石にやめて。空気読んで。今良いところだから」
口を挟もうとした梨乃ちゃんを制してから、わたしは一つ咳を払って、改めて発言した。
「皆さん、知らない人もいるでしょうから一応言いますけれど、隆谷寺さんはあれでも、勘がよく当たる人なんです。その隆谷寺さんがさっき、『今から退屈になりそうな予感がする』って言ってましたよね?あの口振りだと、『これから戦う相手には、自分がいなくても楽勝だろう』という勘が、彼にはあったということになるんじゃありませんか?」
「か、勘って言われてもね……」
わたしの説明に、協力者の三人は微妙な反応だったけれど、ただしADFの側に属す梨乃ちゃんや馬垣くんは、多少は納得もできようという風な反応だった(御水見さんは無反応)。
特に馬垣くんは、直後に「なるほどな」と肯定して続ける。彼も彼で、こういう戦いや勝負事には超常的な勘の良さを発揮する奴なので、そういう意味で隆谷寺さんと通ずる部分もあるのかも知れない。
「俺達を告発するってのも、結局は予定通りに、この後俺達が赤団をとっちめて仕事を終わらせてしまうのを予見してのことなのかも知れねえ。実際、俺も別に悪い予感はしてねえよ。このまま行っても勝てそうだなーって」
「いずれにせよ皆さん、どうせ告発されるなら、もうやっちゃったほうが良いとは思いませんか?」
今一度、わたしは提案する。
「何故なら、このわたし達の行動って、罪があるとすればそれは経過論的な内容だと思うんですよ。上官に内緒で、領分を越えたところの仕事をやってしまったという。だから、結果的にその組織を壊滅させようがさせまいが、そんなに罪の重さは変わらない筈です。もちろん、便宜的で形式的な、体裁のためだけの罰はあるでしょうし、この中の誰かを死なせてしまったらそれは更なる罪になりますけれど、この中の誰も、死なせるつもりはありませんし」
「待ってください、そんなこと言っても実際どうなるか…」
「いやMさん、もうどの道、それしか手は無いと思うよ」
と、Kさんもわたしの意見に賛同する。
「初めから我々は、バレてしまって非難を浴びても悔いは無いというつもりでやってますから。そうでしょ?Mさん、Oさん」
「いや、それはそうなんだけど、でも実際こっち側でもあっち側でも、死人が出ないとは限らない…」
「出しませんよ」
「出さねえよ」
と。
珍しいことだ、本当に珍しいことに、わたしと馬垣くんが、同じような台詞を同時に言った。
わたしは、Mさんの目を真っ直ぐ見て。
馬垣くんは、鋭い視線を、わざと余所に遣って。
それは、各々が別々に無関係に抱く、決して譲れない矜持の現れだった。
「死なせねえよ、仲間は」
「死なせませんよ、味方も敵も」
……退屈になりそうだとか、わたし達を告発するとか。
いずれにせよ、隆谷寺さんがどういうつもりなのか、なぜ急にあんなことを言って抜けたのかという点については、わたしにも誰にも、何も断言できない。
そうまで、『保護対象』に指定されるのが怖いのか。
あるいは、もっとやりたいことがあるから、不自由の身にはなりたくないということなのか。
それとも……いや、とにかく断言できない。
ただし、わたしがこの時どういうつもりでこんな発言をしたのかという点については、梨乃ちゃんには、ひょっとしたら馬垣くんにさえも、既にバレているのかも知れなかった。




