六日目 犯罪組織 (2)
「集まりましたね」
と、葉川駐屯地の出入り口付近の、そこそこ人通りがある道で梨乃ちゃんは言うけれども、彼女のそばにはわたししか居ない。
ただし、ここから数十メートル離れた位置に、馬垣くんや御水見さんや隆谷寺さんが、あたかも偶然そこに居合わせたかのように、お互いに無関係の無関心であるかのように、ばらばらに立っている。
上官や他の隊員にもなるべく内密にしなければならない以上、こんな集まらない集まり方をする他に無いのだ。
……因みに、わたしはここで初めて御水見さんの髪の短さに気付いた。
気付いたと言うか、それが御水見さんだとは一瞬気付けなかったくらいだ。
「これで全員です」
「出発してください」
ある位置に停めてあったキャンピングカーにしれっと乗り込んで、全員が乗ったのを確認してからドアを閉めて、わたし達は運転席に座っていたMさんに声をかける。
対して、車を出すMさんや、周りの座席に座っていたKさんやOさんは、やはり剣呑で神妙な顔のままだ。感謝の言葉と謝罪の言葉を交互に繰り返しつつ、名前を確認するだけの自己紹介もそこそこに、すぐ作戦説明を始めた。
「まず、奴らのアジトは工場の跡地ですけれども、そこに着いたら手分けして侵入しましょう。基本的には取り押さえてから拘束すれば良いと思いますが、こちらはこんな少人数だから、手加減はしていられませんよ。降伏してきた場合はともかく、抵抗してきた場合にはもう、思い切って攻撃するしかありませんからね。最悪、その結果として相手が死んでしまうことだってあり得ますし、それでも仕方ありませんよ」
と、Kさんの説明。
「そういうことだったら、俺に任せてくれれば良いと思うよ。なんなら俺一人でも十分なんじゃないかな」
予想通り、隆谷寺さんが素早く反応した。
人を殺さず気絶させるのが得意な、隆谷寺さんがだ。
この危険人物はやっぱり、そういう戦いに飢えているから、この行動に参加してきたのでは…?
「でも、奴ら赤団の中には、抵抗者も…」
「大丈夫です大丈夫です。この人、前にわたし達を裏切って壊滅させかけた人なので、信頼できますよ」
「…???」
困惑する三人に説明しようとしたわたしだったが、間違えて余計に困惑させてしまった。
「彼は隠密しながら静かに不意打ちして相手を制圧するのが得意な陰湿な人ですから、確かに彼だけでも大体片付くと思います」
「今の説明、明らかに不要な三文字があったよね……」
不要?何のことかしら。
「じゃあどうするよ?こいつを遊撃担当にして、こいつとこいつ以外で二手に分かれるか?」
「いや、それは危険だ」
と、隆谷寺さんを指差しながら提案した馬垣くんに、しかし反対の意を示したのは、他でもない隆谷寺さんだった。
「それだと本命が君たちとは別のところにいる可能性が自明すぎて、入念に探されてしまうよ、俺が」
「お前ならそれでも隠れられるんじゃねえのかよ?」
「万難を廃したいからね。俺に遊撃をさせつつ、他の子らで二手に分かれるのが良いと思うよ。もうさ、俺のことは戦力外だと思ってさ」
「…………」
対人戦では最も戦力になる人が言うのだから、こんなに倒錯的なこともそうそう無いが。
色々と話した結果、班分けが決まった。
まずは隆谷寺さんのワンマンチーム。
次に、わたしと梨乃ちゃんと馬垣くんの第一班。
最後に、Kさん・Mさん・Oさんと御水見さんの第二班である。
今更だが、本当はもっと沢山の人に協力してもらいたいところだった。わたしや梨乃ちゃんも、手伝ってくれそうな人間に密かに協力を呼びかけて回った。
あまり怪しまれないように、わたし達からのお願いというよりは、わたし達が協力者の三人を紹介して、一緒に彼ら三人を批判するかのように見せかけてお願いするという姑息なこともやった。
それでも、集まった面子はこれだけだった。
例えば、荻原さんや髭根さんや巻藁さんや谷貝さんには断られたし、国栖穴さんや社大路さんは口が軽そうだから、また真鈴さんは嘘が下手くそだろうから、ハブにしといた。
そりゃあこんなの、規律違反だからね。協力してくれるほうがおかしいだろうとは思う。
ここにはおかしい人しか居ない。
特に、多分隆谷寺さんは戦いたいという不純な気持ちで来ているし、御水見さんに至っては協力してくれた理由がわからない。口が堅いも何も、そもそも無口なら大丈夫だろうという適当なノリで、話を持ちかけただけなのだけれど……
おっと、そう言えばまだ一度も人柄について説明していなかった、谷貝さんのことについて、少し紹介しておこうかな。
谷貝居萱さんは、元々自営業を営んでいた中年の男性である。ドライフルーツやら干し芋やらを専門とした、食品系のお店を構えていたそうだ。優しくて真面目で、こんな私刑行為には加担してくれないだろうなとは思っていたが、やっぱりその通りだった。
まあ、駄目で元々だ。
そんな訳で、おかしい奴ばかりが集まり。
覚悟が決まっている奴ばかりが、集まったのだ。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「よし、もうそろそろ着くから…」
「じゃあこの辺で停めて」
しばらく走ってから、Kさんが注意喚起をしたところ、隆谷寺さんが停車を要求した。
「ああいや、そろそろ着くって言うのは、アジトから少し離れた物陰が多い場所に着くっていう意味で…」
「それでも停めて。相手側に何か、探知系の異能を持っている奴がいるかも知れないでしょ?」
「例の抵抗者のことですか?」
「まさしく」
隆谷寺さんは深々と頷く。
「もう位置は地図で確認済みだからね。あとはもう、俺は少し違う角度から接近してみるよ。念には念をだ」
「ええと……いや別に良いですけど。ちゃんとついて来れるんですよね?目的地まではまだ距離がありますけど」
「福島県から長野県まで走った俺だ、勿論いけるよ」
と、まだ相当な距離があるこの位置で、早くも隆谷寺さんが単独行動を始めるという流れになり出した。
なぜか、そんな流れになり出した。
「どうしたんですか?今回は用心深いですね」
「今回は真正面からの戦争だからね」
「はあ」
隆谷寺さんの、裏切ったことがある立場からの自虐なのか、戦争経験者としての含蓄を持たせた警句なのかよくわからない台詞を聞いて、わたしは微妙な反応をするしか無かったが、そんなことは気にも留めず、隆谷寺さんはさっさと車から降りた。
そして。
そして、それで最後だった。
「あ、そうだ!ねえ、みんな!なんか今からつまらないことになりそうな予感がするし、君達の勝手な行動を上官に告発して真面目さをアピールしたいから、俺はもう帰るわ!それじゃ!」
「……は?」
「えっ……」
唖然として、呆然として、彼の発言の後にも依然として上手くリアクションできずにいるわたし達に背を向けて、隆谷寺さんはただ来た道を戻るように、逆方向に走り去って行くのだった。




