第15話 バラバラ
オルモは、本棚の裏に隠れていた。
ー兵士が入ってきたことに気づいたからだ。
ーおい!奥を探せぇ!
ーこっちにはいないぞ‼︎
周りから自分を探す声がだんだん大きくなるたびに
体の内側がどんどん冷たくなっていく。
吐く息が己でも気づくほど荒くなる度に、
逃げたい気持ちと、どうすればルイラたちのところに行けるかの葛藤と、
混乱の気持ちが混ぜ合わさる。
「そんなまどろしい事しなくていいよ」
やけに落ち着いた、男の声が聞こえる。
「…おーい、侵入者くん、
君の仲間の女の子いるよね?
すっごい頑張り屋さんだったよ」
その言葉を聞いた瞬間、息が止まった
そう感じるほどに、驚愕で体が固まってしまう。
代わりに流れる汗がどんどん多くなる。
「…早く出ておいで?出ないと」
一瞬、ズブリとより深く刺さる音と共に
「ン"ゥゥゥゥッ‼︎」
聞き覚えの彼女の、痛みに耐えようとしているくぐもった苦痛の悲鳴が耳を突き刺す。
動かない体を、無理やり動かす。
棚の間から覗く
信じたくなどなかった。
普段おちゃらけており、
体が良ければ、ガン見するような、
面食い女
そうだったはずの彼女がー、
目をかっぴらき、歯を食いしばり刺さっている
槍を必死に耐えているではないか
その頃、ルイラたちは
あの蛇女に追い詰められていた。
本で囲まれた三人は、何とか逃げれるところはないかと探すが、
恐怖と緊張、更に動揺の三重で、
理性がうまく働かず、
考えがまとまらない。
「今ならば、生きて帰してあげるから、
その本置いて、リリアーノ様をこちらに…。」
そんなこんなしている間にも
ゆっくりと、侍女エレーンは、
ルイラたちの方に歩み寄る。
メゼリーがいつでも隙を狙えるように、
改めて杖握りしめた時である。
ーヒュン
風を切るような音が聞こえた時には、
メゼリーの頬に切り傷ができ、血が出てきた。
「メゼリーッ‼︎」
「動かないでね、こっちだって不要の殺しは
うんッ、ざりしているの」
そう言ったあの女の方に目をやると、いつのまにかキラリと光るものを手に取っていた。
余裕ありげに、ゆっくり歩くたびに、
ハイヒールの音がだんだん大きく聞こえてくるたびに、
心臓の鼓動が早まり、体が震える。
メゼリーは頬を腕で拭い、女から目を逸らさない。
そんな中でも、
リリアーノは前に出て、声を張り上げる。
「お願いエレーン許して‼︎、私が協力すると言ったの‼︎先ほど私を助けてくれたからッ‼︎」
「ほう、助けてくれたですか…。
つまりは彼らは皇女相手に、許してならない脱出のほう助をいたしたんですね?」
その言葉に、リリアーノも言葉が詰まる。
「理由はどうであれ、彼らがすべきだった事は、
貴方を見かけた瞬間に、兵に知らせるべきだった。
それなのに、彼らはその事実を言わず、
挙句に貴方を利用し城に潜入…。」
はぁと、重いため息を吐き、
女は左手を自身の頬に添える。
「一体、重罪以外のなんであるんですかねぇ…?」
そう言うと追加の如く後ろからナイフを二、三本取り出す。
「分からない?貴方たちは完全に包囲されていると、今頃残りの味方も、お上で、兵に捕まっているでしょうね…」
「それ以上近づかないで下さい」
メゼリーが、いつもよりも鋭い声にして言う。
「貴方こそ、私たちが何もしないと思っているんですか?」
突然メゼリーがリリアーノを前に出すと、肩を掴む、
「…‼︎」
それに2人は察したのか
リリアーノはじっとし、ルイラは素早くリリアーノのの前に剣を首元に構える。
「…逃さなければ皇女様を殺すってつもり?」
意外にも、侍女は冷静に言うと、フンと鼻で笑い
堂々としながら一歩ルイラたちに歩み言う。
「無理ね、貴方たちは生身の人を殺したことがない!ましてやリリアーノ様、貴方は先ほど彼らを庇ったと見たところ…。
随分と友情を積まれたのでしょう?」
やはり、力の国ではこの脅しはばれてしまうのか
「まぁまぁまぁ、
なぁんて、甘ったるい友情かしらー?
でも、私たちは違うわ」
そう言うと、彼女は不敵な笑みを浮かべる。
「私たちは経験者…。
上にいる男はきっと、子供にも容赦しないでしょうねぇ…。
死んでるかもしれないわよ?」
男…。
例の公爵ならばまずいことである!
「さぁ?貴方たちはどうするつもりかしら?」
ルイラの冷や汗が、まだ浅い喉仏を伝い、
体の線に沿って、流れ落ちる。
ー降伏ー
その最悪の文字が思いついたー
瞬間である。
ーピッピッピッピッピッピ…
どこからか、謎の機械音が聞こえる。
「…?」
「…⁇」
見覚えのない音に、ルイラたちはもちろん、
目の前の女すらも訝しげに周りを確認する。
「…ルイラ」
ふとリリアーノが小声で話しかける。
「?」
リリアーノが目を向ける方に目をやると、なぜか
あの金の鳥が機械音に合わせて、目から出てる赤い光を点滅させる。
しかし、先ほどまでは点滅どころか赤い光など出ていなかったはずである。
「…メゼリー…?」
「違う…、私じゃない」
その視線に気付いたのか
女が、そちらの方に歩み始めようと足を動かした次の瞬間である。
ピッピッピ…
プシューーーーーーーッ‼︎‼︎
凄まじい勢いである。白い煙が一気に広がり、瞬きをする間にルイラたちを覆い、全体に広がる。
「ッ⁉︎」
女は気づいた瞬間、床を蹴りルイラたちの方に手を伸ばす。
「ルイラッ‼︎」
メゼリーはルイラの方にリリアーノを押し、
ルイラはとにかくリリアーノを抱き寄せる。
一歩前に出て、メゼリーは杖で初級妨害魔法のバリアを繰り出すと、女を塞ぐ。
その瞬間には、何も見えなくなる。
***************
上の方では、アリナは兵士の2人に引っ張られ、
その体には、深く槍が刺さっている。
ーどうか見つからないで
そう心底願うのだ。
「もう遅いよ、早く降参しないと、
君の仲間が死ぬよ?いいのかい」
そう言いながら、明らかにボロボロな彼女を前に出す。
低く、甘い大人の声とは裏腹に、はっきりと静かに明確な脅しは、
まだ若い弓使いの精神を脅すとやがて、
…カタン
オルモは弓と弓矢を落とし、手をあげる。
「そう、それでー」
「閣下、」
後ろから、鎧で全身を覆う塀 兵士がアンドレートに話す。
「先ほどから、後ろの兵士が、視界が悪いと訴え、
どうも…、連れてきた兵士の数と比べ、明らかに少ないように感じます」
「ほう…、」
アンドレートは奥の方を見つめる。
確かに、先ほどよりも視界が悪い
いや、さらに悪くなっている。
「…、煙か!」
いつのまにか地下の煙が上すらも覆う。
アンドレートが退避命令するよりも早く、尋常じゃない勢いで全てを覆う。
「ッ!?」
オルモは驚愕しつつも、視界が良いうちにアリナの方に走る。
「…ッ‼︎アリナッー
しかし、一、二歩遅く、煙はオルモとアリナすらも覆ってしまう。
「オ…、オルモ…くん…」
そこで、意識が途絶えてしまった。
ーここは、何処であろうか?
アリナは先ほどとは明らかに違う場所で目を覚ます。
しかもここはきっと皇城とはまた違うどこかであろう。
ここもまた、青と白を基調とした、廊下であるが、なんだか雰囲気が薄暗く、こんなに暗いのに兵士どころか侍女の1人もいない。
目の前には、大きな部屋の扉であろうか?
…ピッ、ピッ、…ピ
最後の力で、隠し持ってた斧で、思い切り投げる。
ーガシャァンッ!
火事場の馬鹿力というやつであろうか、思ったよりも力が出て、目の前の扉の鍵をも破壊したのか、
大きく開く。
しかし、それだけだ。
文字通り最後の力だったのか、一気に体調がふらつき、目眩すらも出る。
(どうしよう…、オルモくん逃げれたかな?
メゼリーちゃんは?ルイラくんは?…
リリィ様もどうしよう…)
もう首も動かない、
もうダメだ
ーキィィ…
目の前の、扉が開く音がする。
カッー、カッー、
警戒しているのか、一歩一歩をゆっくり歩み出しているような、足音がする。
腰と足に、誰かの手の感触が伝わると、
宙に浮く
ーきっと誰かに拾われた、
最後に、それの正体を知りたくて、瞼を必死に開ける。
はっきりとはわからなかった。
でも確かに、サファイヤのような、宝石のようなその青い瞳だけと、目が合った。
******************
その頃、かの公爵、
アンドレート=ディア=ハイドンデアはというと
なぜかよりにもよって、皇城から最も離れた、
馬小屋の干し草の上に埋もれていた。
「…どーしてこうなった」
すっかりあの頃と比べ衰えたと思いつつ、
馬に頬を舐められる。
「こらこらやめなさいー」
アンドレートが馬の頭を撫で、抑える瞬間である。
ふと、上から嫌な予感がし上を向く
すると、
なんということだろう
上から見覚えしかない女が己の真上に落ちてくるではないか。
「エレーンッ⁉︎」
「は、離れて!」
勢いよく落ちる彼女に
アンドレートは思い切り腕を広げて受け止める準備をするも、運悪く、顔から落ちた彼女と額同士がぶつけると同時に轟音を立てる。
「……」
馬すらも、その場を離れて固唾を飲んで見守る。
ゆっくりと干し草の上で体を起こしたのはエレーンである。
「イテテ…、リリアーノ様は…?」
辺りを見まわし、場所を把握する、
その時、ようやく彼女は誰の上に乗っているかを思い出す。
「ア、アンドレー…、閣下‼︎」
すぐ様アンドレートの方を向き彼女は
ヒールを使う。
「閣下、ご無事ですか⁉︎」
ご無事な訳がなく、からの額は赤くく腫れてあざのようになっている。
「本当に、俺の死因に君の名前が刻まれる羽目にならなくてよかったよ…!」
その顔は笑みを浮かべているが、彼の額に浮かんでる青筋は決して笑みなど浮かべてなどいなかった。
「す、すみませんでした…。」
そう言いつつサクッと抱き寄せながら聞く。
「それよりも、すぐに侵入者とリリアーノ様を回収しないと…
で、リリアーノは…?」
「…あっ、」
**************
イッー!
イテテ…。
ールイラッ‼︎お願い…!おき…て
「起きてッ‼︎」
「__ッハ‼︎」
ルイラは息を引き返したように、
思い切り息を吸い込み目覚める。
夜風が頬にあたり、目の前にはポロポロ泣いている
リリアーノがいる。
「ごめんね‼︎本当にごめんねッ‼︎
私が、もっとしっかりしてれば…‼︎」
一生懸命涙を拭っている彼女の寝巻きの袖は濡れている。
そんな姿に、少し愛おしさを感じながら、
ルイラは彼女頬に触れる。
「大丈夫、大丈夫だリリィ…」
怖かったのだろう、いきなりいた場所と違うところに来たと思ったら、唯一の頼み綱の自分が倒れたまま、意識が戻らなかったのだから。
「こ、ここは…?」
慎重に起きあがりながら、
周りを見渡した。
どこかの城内の廊下なのだろうか。
廊下のデザインといい、先ほど見た廊下と同じだが、ここは暗くて埃臭い。
「…ここの近くに、お父様の墓があるの」
「—え?」
ー皇帝は、敬愛してやまない
先帝、カリアンティウヌが暗殺されて変わった
そう聞いた。
「……お兄様は、元気な頃は毎日ここにきていたわ
…でも、
ある時から、お兄様は、壊れてしまったの」
「…。」
「…ルイラ、ごめんね
エルフの呪い解除は絶対協力するわ‼︎
だから__。
お兄様を、助けて」
***********
…ここは、どこであろうか
いま私は、天国にいるのか?
少なくとも、先ほどの場所とは違う、暖かいベッドの上で、重たく分厚い布団を着ていることが分かる
あったかい
私を包み込んでくれる
この重さが、暖かさが、私を包んでくれる。
今世では、夏は薄い布で、冬はそれを何枚も重ねて
鳥の羽を使った布団など、貴族の中でも余裕のあるものしか使えないものだと、初めて知った。
だからもう2度と、使えないと思っていたのに…
ああ、懐かしいー。
ーあれ?
なぜだろう、先ほどまで痛くて痛くてしょうがなかったのに、今では少しヒリヒリとする痛みが若干残っているが、
先ほどの死にそうなほどの苦痛はない。
ゆっくりと瞼を開けてみる。
見知らない、今世でも前世でも見たことない、
ベッドの天幕であろうものが見える。
(…いや…ベッドぉ?)
ふと、手をグーパーと動かしてみる。
動ける、
なんとあの傷で死んでいな勝ったというのだろうか
ー誰かが、助けてくれた。
すぐにその仮説が脳裏に浮かび、ゆっくり体を起こした。
「…。」
本当に嘘だと思うぐらいに、あの時の痛みのほとんどが消えている。
心臓の真下を貫かれて、骨の一本か日本は間違いなくいかれていたのにだ。
服には穴こそ開いているが、
傷穴は見事に塞がっているではないか
目線を上げて、その人物はすぐに瞳が写した。
目の前には、薄い布で体を包んでいる人がいる。
綺麗な女の背後だった。
天井に大きく円状にくり抜かれた
ガラスの天井の月光が当たっている。
非常に長い、荒れてはいるが、
整えたらさぞかし美しくなるはずであろう白髪。
その凛とした横顔は、どことなく、
エルフの女王と似た凛々しさがある。
ーん?待てよ?
もう一度、よく見てみよう、
足は暗くてよく見えないが、線は細い体だが、
そのかくばった体、
女にしてはやけに背丈が高い。
「…あの」
そう、話しかけると、ゆっくり彼女は振り向いた。
ーその、立派な喉仏と、体が隠れていれば、
間違いなく女と間違えていたであろう。
月光で輝く白銀の髪、
夜の海が溶けたような、深い青の瞳
随分と痩せていながら、
それでもその凛々しい顔立ちと、
その妙な色気は、
彼の美しさを消さない。
「……、ゼーゼレン…帝で、ございますか?」
「…。」
彼は、ゼーゼレンは
ゆっくりと口を開ける。
「君は、誰だ」




