その6
「ところで、セツ。境鈴音、覚えているか?」
「境鈴音?えーと、確か小4になる直前に転校した人の事?その人がどうしたの?」
僕の部屋に入っていきなり、フキがそう切り出してきた。因みに彼女は宿題の残りをやるとかで隣の部屋にこもった。
「星華高校に入るらしい!」
「ふーん。」
「おいおい、何だその反応は。お前、驚かないのか。あの境鈴音だぞ?」
「フキがどういう意味で『あの』を付けたか分からないけど、別に。」
フキは僕のこの反応に呆れるかと思うかもしれないが、別にそんな事はない。何故なら、僕はいつもこんな感じで何事にも動じないからである。
「境鈴音といえば女優の境琴音の妹で、最近では姉の琴音以上に売れていてドラマ・映画・CMに引っ張りだこになっている今一番売れている若手女優なんだぞ?それなのに知らないのか?」
「うーん、確かに見た事あるような気がするとは思っていたけど、まさか境さんだとは思わなかった。」
今から考えると、境鈴音は色々な意味で目立っていたような気がする。(何故だかは覚えてないけど。)
「なあ、セツ。一応聞くがお前、最近驚いた事は何だ?」
「驚いた事?そうだな…。」
フキにいきなり質問されたので、僕は少し考えた。最近、驚いた事なんてあるのか?
あっ。
「フキ、あったよ。僕が最近、驚いた事。」
「ほう、それは何だ?」
「サユちゃんが家で暮らすことになったのを知った時!」
~伊吹視点~
「サユちゃんが家で暮らすことになったのを知った時!」
セツの口からこの言葉を聞いた時、正直俺は呆れて何も言えなかった。
まず、そんな質問をした俺が馬鹿だったと思った。そもそも、セツが驚いたり感情的になったりする事自体、珍しいのに。
薄々、感づいてはいたがセツが「珍しく」なるのはやはり矢埜ちゃん絡みらしい。
全く。お前はどんだけ矢埜ちゃんが好きなんだ?
「…。」
「あれ、フキどうしたの?僕が驚いた事があったのに、驚いたの?」
「いや、何でもない。」
僕の答えを聞いたフキが無言だったので少し心配したが、何でもないらしい。
「話を戻すけど、そもそもどうして境さんの星華に入るのを知ってるの?」
「実は、星華のホームページに載っていたんだ。どうやら、入学式の日に新入生代表挨拶もするらしい。」
なるほど、そういう事か。僕もホームページを何度か閲覧したが、最後に見たのは先週だったから、その情報はほんの数日前に公開されたらしい。
「ん?新入生代表挨拶をするということは、境さんが入試でトップの成績だったの?」
「いや、そういうわけではないらしい。学校側の話題づくりだろう。」
一応、進学校である星華に有名人が入ったら、さぞ話題になるだろうと思った。
「ところで、セツ。」
「?どうしたの。」
「腹減ったから、何か作れ!」
「はいはい。」
こうして、僕は下に降りて親友のために何か作ることにした。




