七十七話:龍を断つ光
「行くぞ!」
アルヴィンが地面を蹴る。俺もその背中を追い、風龍へ向かって走り出した。
治癒で痛みを誤魔化したはずだが、それでも足を踏み込むたびに身体の奥が軋み、息もすぐに苦しくなってくる。
だが、そんなものは知ったことか。走ってレイブレードを一度振るえれば、それでいいんだ!
風龍との距離が縮まる。
俺たちを迎え撃つように灰青の翼が大きく広がった。
――来る!
身構えつつも走る速度を落とさない。
アルヴィンがなんとかすると言った以上、俺より前を走るアルヴィンの背中を信じて突き進むのみだ。
だが、予想していた突風が来る気配はなかった。ただ、髪と服だけがふわりと浮かびあがるようなこの感覚――上か!?
「ルシア! 私に掴まれ!」
アルヴィンが叫ぶと同時に立ち止まり、その場に剣を地面へ突き立てた。
言われた通りにアルヴィンの背中に抱き着くと同時に、足元が揺れる。
なんだこれは? そう思うと同時に周囲の土と岩がせり上がった。
「うおっ!?」
太陽の光が完全に消え去り、暗闇が俺たちを包みこむ。
これは、土の中に閉じ込められた? いや、土によって守られているのか?
直後――轟音が響く。
必死にアルヴィンに掴まりながらも考える。上から来ると俺は思った。その直感が正しいとするのなら、これは上空から落ちてきた暴風が土の殻へ叩きつけられた音だ。
その証拠に、頭や背中へ砂が降ってくる。暗闇の中に光が走るが、それは土の殻にひびが入っているってことだ。
アルヴィンの身体にさらに力がこめられるのが分かった。これが魔法だとするのなら、必死になって耐えながら維持しているんだ。
――まるで土遁の術だ。風に対する防御としては理想的か?
ふざけた感想だが、これがアルヴィンの温存していた手であるらしい。
攻撃ではなく防御のための魔法運用。俺を風龍の懐まで運ぶため、一度だけ使える切り札ということか。
しかし、轟音とともに大きな亀裂が走る。これ以上は保たない! そう思ったところで、土を削る音が急に弱くなる。
「今だ!」
アルヴィンが腕を振るうと、前方を覆っていた土が崩れた。
視界の中に光と風龍の姿が戻って来る。アルヴィンは地面へ突き刺した剣を一気に引き抜いた。
それと同時に反射的に二人で崩れた土の殻から飛び出し、再び風龍へ向かって走る。
攻撃を防がれたからなのか、風龍が苛立ったように吠える。
今度は横から突風が押し寄せるが、この程度なら耐えられる。
魔力の集中、収束が足りていないぜ! 焦ったなアークドラゴン!
「私が隙を作る! ルシアは懐に飛び込め!」
アルヴィンが剣を担ぐようにしながら風龍に向かって突撃する。
すでに風龍にとっての至近距離! 灰青の爪が動き、振り下ろされる先はアルヴィンだ。
風龍の前脚が迫る。アルヴィンは逃げず、剣を斜めに構えて正面から受け止めた。
硬いもの同士が噛み合う鈍い音が響く。剣の上を爪が滑り、アルヴィンの身体が沈んだ。両足が地面へめり込み、腕も小刻みに震えている。
おそらくはさっきの魔法の応用で力を地面に逃がしている。めり込んだ足はその証拠だ。
だとしても長く保つはずがない。だが、風龍の前脚も視線もアルヴィンへ向いている――これが俺のために作った一瞬だ!
「ルシア、私を踏み台にしろ!」
その言葉で、全てを理解した。
走りながら勢いを殺さずにジャンプして、アルヴィンの背中へ向かって跳ぶ。その肩へ足を置き、踏み台にしてさらに強く跳んだ。
その勢いで高く飛び上がりながら、風龍の懐に向かって突き進む!
俺の小柄な身体が、風龍の頭よりも高い位置にある。
俺を追って首を動かすが、噛みつきで対処しようとしているのか? だが、すでに遅い!
揃えた指先へ、残っている聖法力を全て流し込み振りかぶる。怖さに負けて早く振るな。もっと近くへ。確実に断てるところまで行け!
「……ッ!」
全ての力を一点に!
白い光が一気に伸び最大まで膨れ上がる。空中で身体を捻りながら、その勢いのまま右腕を振り下ろす。
光刃が風龍の首の付け根へ食い込んだ――。
「はああああっ!」
落ちる身体ごと押し込むように、レイブレードを振り抜いた。
視界の端に映る光の軌跡は灰青の鱗を断ち割り、首の付け根から胸元へ袈裟懸けに走る。
着地と同時に光の刃は姿を消して、残るのは聖光の残滓だけ。
視界を上に向ければ切り裂かれた風龍の白い肉が一瞬見えた。しかし、すぐに暗い赤色の血が傷口から噴き出す。
風龍の前脚から力が抜け、アルヴィンを押さえつけていた爪が地面へ落ち、長い首が大きく仰け反る。
何度かたたらを踏むようにして耐える素振りを見せた後――後ろへよろめきながら風龍の巨体は台地へ倒れた。




