七話:光の値段
話をする前の最低限の要求として、シエラの保護だけは求めた。
それはあっさりと受諾され、今二人は別の小部屋へ回されている。
シエラはともかく、アレンはガッツリ敵を殺しているからな。組織への貢献って意味では、アレン個人に報酬を渡す意味もあるわけだ。
だが、それは建前も混じっているはずだ。
本音として、上役は妙な力を使った俺とサシで話をしたいんだろうな。
通されたのは、板壁で仕切っただけの狭い部屋だった。
机と椅子が一つずつ。壁際には酒瓶と血のついた布。さっきまで外で人を斬っていた男が、そのまま腰を下ろしている。
命を救われた借りを返す義理がある。そう言った口で、今はもう完全に俺を値踏みしていた。
まあ当然だ。助けたからって、スラムの上役が急に善人になるわけがない。
「さっきの続きを聞かせろ」
上役は開口一番にそう言った。
「お前のあの光だ。いつから使える?」
アレンとシエラをガキ共の中でも一段上の扱いにした時点で、報酬はもう一部受け取っているようなものか……。
少し話しただけでも、俺があの二人に執着してるくらいは察してるんだろう。そうでなくては、ヤクザ者の上には立てないのかもな。
――さて、こうなっちまったからには、売り込みといこうじゃないか。
「結構前の話だけど、レッドブレードの悪ガキに殺されかけた時だよ。袋小路に追い込まれて、ナイフを突きつけられて、それで目の前が真っ白になった。別に比喩で言ってるんじゃない。本当に真っ白になった。こういう風に」
光を収束させて天井を照らす。
一度使えるようになれば、再現は簡単だな。コツを掴んだあとは楽勝ってのは、自転車みたいなものか。
「なるほど。で、そいつらは?」
「さあな。必死こいて隙を作って逃げたもんだから、知らないよ。だからその時は、それで終わり」
そう言い切ると同時に光を消す。というか、維持できなくて勝手に消えた。
感覚的に維持もできそうだが、練習もなしにそれは難しそうだ。
まあいい。今は話を続けよう。上役がさらに訊いてくる。
「それで? まさかその時だけしか使ってない……なんて言わないよな?」
「まあね。主に盗みに出る時に使ってた。見張りの目を潰して、その隙にかっぱらう。そんな感じだ」
「……なるほどな」
上役はそこで初めて値踏みするような視線を解き、にやりと笑いながら口を動かした。
「ウチのガキがレッドブレード相手に何かしていやがるってのは把握していた。無駄な争いの火種になるようなら釘を差していたが、逃走経路も考えて身元を把握されないようにしていたな? だからこそ放置していたわけだが、まさかお前だったとは」
知られていたのか……それに逃走経路のことまで把握してやがる。
俺の浅知恵が思った程通用していないってことらしい。
「飯の配給が滞っていたろ? 俺たちも飯を喰うのに必死だったんだよ」
となれば、ここは開き直りだ。とことん図々しくなってやる。
「飯に関しては事情もあるが、その件はこの場では関係ない。今後も同じようにはいかないからだ」
上役の目に鋭い視線が戻る。
有無を言わさぬ、そんな表情。
「アレンとかいうガキと一緒に、レッドブレードの奴らを殺しただろう? もうスラムの中を自由に動けると思うな。襲ってきた連中を全部殺せたわけじゃない。目を焼かれずに逃げおおせた者もいる。お前たちは必ず見られていると思え」
それを聞いて、背中がひやりとした。
確かにそうだ。天幕の中に入ってきた連中ならいい。外からは良く見えないはずだからな。
でも、あの抗争の場では、視線の通るところでレッドブレードの構成員を手に掛けた。それが見られていないだなんて、そんな考えになるほどお花畑じゃない。
さらに言えば、俺が光を使うところを見た奴が一人でも残っていれば……それだけで面倒は増える。
俺の光は切り札だが、知られてないからこそ使える切り札でもある。タネがバレたら威力は半減以下だろう。
そんな俺に何を言うのか、上役の言葉を待っていれば、思いもよらぬ言葉が返って来た。
「だからお前に魔術師を付ける」
「……魔術師? 俺に? どういうこと?」
あまりに自然に言われて、思わず聞き返す。
「お前は気軽に外を歩けない。となればグレイクロウの構成員になるしかないだろう? その場合、まずはその力がどこまで伸びるかを把握しなくてはならない」
この世界は魔法のある世界ってことは知っている。
しかし、噂によれば魔法使いってのはそう多くないらしい。
俺を構成員とするのなら、その力を使ってどれだけできるか把握したいってことなんだろうな。
「ただ光らせるだけでなく、さらに先があるなら面白いことになるからな」
面白いこと、ね。
俺としても、チートで最強だなんてことになれば、このクソみたいな人生も少しは面白くなる。
だが――。
「もし光らせるだけだったら?」
言うほど能力が向上しない未来も考えられる。光を出すだけの一発屋だ。
その懸念を聞いた上役は、またしてもにやりと笑った。
「だったら、その光らせるだけを仕事にすりゃいい。目潰し役ってだけでも使い道はある」
「……それは結構。使い道がないと捨てられる心配はなさそうだ」
「魔法使いは貴重だ。その程度の能力でもな」
その言葉を聞いて、正直ほっとした。
価値を示し続けること。今の俺にはそれしかない。
こんな能力でもそれが可能ってことだよな。首の皮が繋がったような気分だぜ。
「それに、お前は話もできるし度胸もある。アレンといったか? あのガキもそうだ。俺の手元に置いてやる。そこで他にもできる何かを提示できるなら、それなりの仕事と対価を与える。どうだ?」
どうだ――も何もない。受けるしかない。
いや、違うな。さっき二人殺した時点で、俺はもう受けている。
こいつの庇護の外へ出れば、今度こそ路地裏で野垂れ死にするか、それよりひどい目に遭うだろう。
俺に選択肢は……ない。
「……やるよ」
「よし」
上役は椅子から立ち上がった。
そして扉の前まで歩いていく。
「すぐに魔術師を手配しよう。それと、お前たちに部屋を与えてやる。付いてこい」
「部屋?」
「見返りが欲しいと言ったのはお前だろうが。天幕のガキ共とも違って、飯もちゃんと手配してやるよ」
上役の後に続いて、部屋から出る。
向かう先は、俺たちの部屋とやらだ。飯も出るなら、前よりも快適で安全になったのは違いない。
神様が与えてくれたチート能力。
……というには、今のところ光を出すだけだが、それでもなんとか上手いこと転がったらしい。
スラムから始まる異世界転生としては、いい方なのか? マフィアの一員になることが?
……良いことだと思うしかない。
少なくとも、空腹を凌ぐために、危険を冒して盗みに出る必要はなくなりそうだ。




