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どん底TS転生した俺は聖女の称号を望まない~龍殺しのルシアと呼ばれて出世する?そんな面倒は勘弁してくれ~  作者: RCAS
教導院編

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六十話:派閥間対談

 短い休憩を挟んでから、俺とリネットは指定された応接室へ向かった。

 マテオ派の大勢に囲まれてさぞや威圧を受けるんだろうな――そう思っていたが、応接室ではアウレリオが一人で待っていた。

 長机と三つの椅子があり、アウレリオと対面するように座れということか。


「急な申し出に応じてもらい感謝する。二人とも座ってくれ」


 俺とリネットが席につくと、アウレリオは前置きもなく頭を下げた。


「まずは改めて謝罪する。レイフが交誼演習の場を乱し、ルシア候補生の襟首を掴んだうえ、拳を振るおうとした。そこに至る会話についても聞き取りは進めているが、認識の食い違いを避けるため、君の口からも確認させてほしい」

「承知いたしました。暴言の類を繰り返すことには、多少の抵抗がありますが」

「売り言葉に買い言葉となった部分もあるのだろう。おおよその内容は把握している。事実をすり合わせるための確認だと思ってくれ」

「そういうことでしたら――」


 ということで何があったのか話していく。

 発端はレイフだが、俺の発言もかなりの侮辱だとリネットから言われている。

 休憩の時に改めて聞いたけど、下級貴族に対してはわりとクリティカルにぶっ刺さる悪口であるようだ。


「――以上です。私も感情を抑えきれず強い言葉を返しました。その点については己の未熟さを恥じております」

「未熟を恥じるべきはこちらも同じだ。私は配下を制御できなかったのだから」


 アウレリオは苦笑しながら机の脇に置かれていた二枚の紙を俺たちの前へ滑らせた。


「レイフの処分はいずれ教導院からも下されるだろう。重大な処分には至らずとも、今後の生活や評価に相応の影響は出るはずだ。今回の暴力についてはそれをもって手打ちとしてもらいたい」

「私にも処分が下される可能性はあるでしょう。手を出させるような発言をした自覚はありますので。ですが、この書面は?」


 二枚の紙には、どうやら同じ内容が書かれている。

 マテオ派とラザル派の和解、それから今後の相互干渉についての取り決めらしいが……読みづらい。役所の文書みたいな曖昧さに、貴族趣味の飾り言葉まで山ほどくっついている。

 最後にはアウレリオの署名がある。正式な書類なのだろうが、俺が下手に解釈するよりここは専門家へ任せた方がいい。

 隣へ顔を向けると、リネットは小さく頷き紙面へ視線を落とした。


「――要するに、候補生同士の無益な争いをやめようという提案ね。アウレリオ殿下……いえ、あえてアウレリオと呼ばせてもらうけれど、随分と虫のいい話ではなくて?」


 ここからはリネットに任せよう。というか、教導院におけるラザル派の代表はリネットだ。

 俺は椅子へ背を預け、二人のやり取りを見守ることにした。


「君がそう感じるのも無理はない。だが、互いに攻撃を続けて疲弊するのは馬鹿らしいと思わないか?」

「こちらから攻撃した覚えはないけれど……提案そのものには同意するわ。ただ、いきなりこんな書類を出されても困惑するのよ。あなたたち、かなりの費用をかけて中央と連絡を取っているようだけれど何か方針でも変わったのかしら?」


 中央との連絡? 初耳だな。

 とはいえ、今ここで尋ねれば話の腰を折る。後でリネットから聞けばいい。


「……否定はしない。和解案についても、ここ最近になって草案を作り始めていた。これは今日の件を受けて祐筆に命じ、急いで協議に出せる形へ整えさせたんだ。文面に曖昧な部分が残っているのは、そのためでもある」

「あなたの部下は幸せ者ね。働きがいがありそうで結構なことだわ」

「懇親会はもう終わっただろう? 皮肉はまた今度にしてほしいものだ。……懇親会においては過度な論戦を慎む方針だった。だが、その意図が派閥内へ十分に行き渡っていなかったらしい」

「人数が多い弊害ね。もっとも、今回の件はあなたの統率不足が招いた結果でしょう? 存分に反省したらいかがですか――アウレリオ殿下」

「手厳しいな。だが、私の責任であることは認めざるを得ない」

「……へえ。随分と殊勝じゃない。本当に何かあったようね?」

「想像に任せるよ。今決めてほしいのは、この提案を受けるかどうかだ。内容に異存がなければ、リネットの署名をもって正式な取り決めとしたい」


 二枚あるのは、双方が一通ずつ保管するためか。

 それにしても、本当に何かがマテオ派の中で起きているらしい。


「急ごしらえのわりには、どちらか一方だけが不利になる書き方ではないわね。――いいでしょう。署名するわ」

「感謝する。こちらを使ってくれ」


 アウレリオから羽ペンを受け取り、リネットが二枚の書面へ署名を入れていく。

 アウレリオは署名を確認してから机の端にあった呼び鈴を鳴らした。

 すると、従者が応接室へ入って来る。


「お呼びでございましょうか、殿下」

「公の話はこれで終わりだ。王都から届いた焼き菓子があっただろう。茶と一緒に用意してくれ」

「承知いたしました。ただちにお持ちいたします」


 従者が部屋から退出すると、アウレリオは真面目な表情を崩し、微笑んで見せた。


「リネットは覚えているかな。以前、王城の中庭で話した時に食べた焼き菓子を」

「ええ。はしたなくも、お代わりまで求めたことを覚えているわ」

「懐かしいね。あの頃の君は、今ほど自分の意志を表に出さなかった。……変わったよ」

「そういうあなたもね。自信過剰なところは変わらないけれど、今よりずっと真っ直ぐで、純粋だったわ」


 突然の昔話が始まり、まるでついていけない。

 でも、リネットの表情がアウレリオについて話す時のいつもの仏頂面ではないことに気づく。むしろ、どこか穏やかささえ感じさせた。


「あの頃は、将来の自分に疑いなど持っていなかったからね。だが、いつまでもそうはいかなかった」


 アウレリオはしばらく天井を見つめ、それから改めて俺たちへ視線を戻した。


「……続きは、茶でも飲みながら話そう。なぜマテオ派が君たちとの和解を優先し、こちらから譲歩するのか。全てを明かすことはできないが、ある程度は納得してもらえるはずだ」

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