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どん底TS転生した俺は聖女の称号を望まない~龍殺しのルシアと呼ばれて出世する?そんな面倒は勘弁してくれ~  作者: RCAS
教導院編

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五十一話:カシアンとの対話

 光は、指先からまっすぐ伸びた。

 いつものレイガンのようにポインタで照準を付けていない。発動の一瞬にだけ力を込める。

 外れてもいいという気持ちで放った光は――遠い的の中心に、小さな穴を空けていた。


「当たった……? それに威力が」

「ああ。貫通しているように見える。成功だ」


 こんな簡単に……?

 呆然と的と自分の指を交互に見ながらその場に佇んでいると、エリアスが的へ歩き、穴を覗き込む。

 そして確認してから戻って来る。


「恐ろしい技だ。殺傷力という意味では十分以上。聖光の収束は難しい技術であるから、無駄も多いはず……となれば、伸びしろも期待できる」

「そうでしょうか? なら、さらに試してみます」


 エリアスに見てもらいながら、新しい方法で試し撃ちをする。

 やはり最初はまぐれ当たりだったようで、命中率は高くない。

 でも、何度かやっているとコツを掴みつつあるように命中し始めた。これもまた技を磨くってことか。


「いい傾向だ。このまま鍛錬を続ければ実戦でも使えるようになるだろう」

「ありがとうございます。あなたのおかげです、エリアス候補生。――しかし、いいのですか?」

「何がだ?」

「私たちは聖人という椅子を目当てに競う者同士です。助言はそのまま不利益になるのでは?」


 敵に塩を送って何か利益があるのか?

 そのように尋ねると、エリアスは苦笑する。


「君は俺が聖人になれると思っているのか?」

「……難しいでしょうね。今のままだとアウレリオ様でほぼ決まりです」

「だろうな。君に突っかかって評価を落としているとしても、その流れは変わらんさ」


 諦めている……というわけでもないか。事実を事実として受け止めているだけのようだ。

 しかし、やはり周りからも俺に突っかかるアウレリオという図に見えるようだ。


「しかし、こうして君の聖法術を見ているとその流れもまた変わる……若干ながら、そう思い始めているよ」

「どういう意味ですか? この技にそこまでの価値があるとでも?」

「聖法術を改良するなんて、そうそうできるものじゃない。でも君はやってのけただろう? 次の実技試験においてどのように評価されるか見ものというわけさ」

「……本当にそうなるなら、エリアス候補生には恩ができてしまいましたね」

「ほう? ならば恩を売り続けて、君が聖人になってから回収するというのも面白いかもね」

「ええ。実に面白そうです」


 気づけば夕日が地平線の彼方に沈もうとする時間――俺たち二人は何が面白いのか、不敵に笑い続けていた。




 レイガンの改良。すなわちレイライフル。

 エリアスとの鍛錬がこの結果を生んでから――俺とエリアスは一緒に訓練をすることが増えた。


「訓練場に行ってくる」

「またエリアスと一緒に訓練するわけ?」


 飯を食ってからラザル派の部屋から出ようとすると、リネットがそう尋ねて来る。


「そうだが……駄目か?」

「そんなことないわ。ただ珍しいと思っただけ。あんたが誰かに懐くなんてね」

「懐いているように見えているのかよ……」


 見た目だけなら頼りになるにーちゃんに懐く女児に見えるかもしれない。

 俺としては訓練を共にすることで得る物が多く、それはエリアスも同じだ。

 新しい観点や発想を得ることができるらしいからな。言ってみれば利害の一致というやつだ。


「心を許していると言い換えてもいいわ。行ってきなさいな。シエラについては私が見ておくから」


 シエラはここ最近、気分が悪いと寝込むことが増えた。

 体調が悪いわけじゃなく精神的なものらしいが……何が原因なのか教えてはくれない。

 アレンに聞いてもルシアは気にしなくていいと言うからな……。そう言われて無理やり聞き出すのは過干渉になってしまう。

 まあ、リネットが面倒を見てくれるならいいや。俺に言えないことの一つや二つ、二人にもあるだろう。


「おう、そうするよ。シエラについては任せる」


 気を使われているのは分かっている。

 なら、その分だけ成果を出す。俺にできることはそれだけだ。




 ――近距離で欲しいのは、もっと雑でいいから、もっと速い一発だ。


 そんなことを考えながら、俺は訓練場で木の的相手に焦げ跡を増やしていた。

 レイライフルはものになりつつあるが、抜き打ちで使える技もやはり欲しい。

 だが、言うは易しやるは難しで中々うまくはいかない。


「これでも納得いかないのかルシア? 俺としては悪くないように思えるが」

「駄目ですね。こんなのは雑なレイガンにすぎません。遅くて威力過剰です」

「言いたいことは分かるが、贅沢な奴だな君は」

「エリアスは良いですよね……居合いをマスターしたんだから。私がそういう剣術技法があるって言っただけで」

「ルシアには感謝しているさ。だからこうして付き合っている」


 俺とエリアスは互いに名前で呼び合うようになり、色々と話し合った。そうすると俺だけではなく、当然のようにエリアスにも良い結果がもたらされる。

 習得したのは居合抜き――こっちの世界にもある歪曲した刀身の剣、その模造刀を使ってマスターしやがった!

 エリアスが言うには祈りと動作の溜めは相性が良く、腰を切る動きで放たれる剣撃は奇襲にもなるという。聖光をまとった一撃なら、フルプレートの騎士ですら一刀両断だろう。


「また何か考え違いをしている気もします。そこが分かれば……」

「そうは言うが、新しい着想を得るのは難しい。良かれと思ったことが間違いである場合も大いにある」


 二人であーだこーだ言いながら議論していると、声をかけられた。


「面白いことをしているね」


 明るい声に振り向くと、カシアンが俺たちの近くまで来ていた。

 問答の時に俺を面白いと評したカシアンだったが、接触そのものはしてこなかった。

 リネットが言うにはステファノ派からラザル派は距離を取られているのだとか。


 ――その責任はアンタにあるんだから、言葉には気を付けなさい。


 そんな説教すらリネットから受けている。

 さらに言うなら、アウレリオの秩序優先論に汚物をぶちまけた件も効いているだろう。根切りだの異端認定だの、好き放題の発言をしたからな。


「ステファノ派の人間が私に近づいてもいいのですか? こちらから話そうとも思っていませんが、明らかに避けていましたよね」

「推奨はされていないね。だが、完全に切るのは惜しいと思っている」

「私がですか?」

「君の考え方。そして聖法術……だね」


 カシアンは俺の目を見た後、木の的の焦げ跡を眺めている。

 

「君の答えは過激だったよ。けれど歴史上、国家機能が不全となった際に教会が政治をしなかったかと言えばそれは嘘になる。秩序の名の下に救える者を選び、救えない者を切り捨てたこともある」

「それが事実であるとしても、教会批判になってしまいますよ?」

「信仰を綺麗な布で包みすぎるのもまた、不信仰だと思っているのさ」


 ……やはりこいつは危ないな。

 俺も人のことは言えない危険思想の持ち主かもしれないけど、それとは違ったやばさが滲み出ている。


「それで、目的はなんでしょうか? 訓練に混ざりに来たとでも?」

「エリアスから君が新しい聖法術を試していると聞いたからさ。教導院が持て余す困った子がどこまでできるか興味があってね」

「……」

「……隠すことでもないと思った」


 ジト目でエリアスを見てやれば、顔をそむけた。

 はぁ……別にいいけどね……。


「……それで、興味とは一体?」

「聖法術の発動について悩んでいるのだろう? そういうことは僕に任せてくれよ」


 そう言って、カシアンは楽しそうに笑った。

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