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どん底TS転生した俺は聖女の称号を望まない~龍殺しのルシアと呼ばれて出世する?そんな面倒は勘弁してくれ~  作者: RCAS
教導院編

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四十八話:悪辣な考え

 少しだけ考えてから、椅子から立ち上がる。

 候補生たちの視線が薄い針みたいに刺さるが、それは主にマテオ派からのものだ。

 そういう指示をしているであろうアウレリオは穏やかな顔のまま――リネットだけでなくラザル派まとめて叩きつぶし、格の違いを見せつける魂胆ってところかな。


「前提を確認してもよろしいでしょうか」

「構わんが、何か気になることでもあるのか?」


 まずは教師に確認を取る。

 この前提ってのが重要だからな。議論の土台についてだ。


「荒れ果てた国家というのは盗賊が好き勝手している程度の話ではないと考えます。盗賊なら王国軍か領主軍が討伐すれば終わりです。問題は、領主の命令を拒む村や町、代官を追い出した土地、独立独歩の共同体が事実上の反乱を起こしている場合でしょう」


 設定を追加しただけで、空気が少し硬くなる。

 候補生と言ってもまだ若い。彼らには刺激的かもしれないが……まあいいや。


「程度の差はあるが、概ねそのような状況の想定でいいだろう」


 よし! 教師からの快諾を得たものとするぞ! なら遠慮はいらんな。


「ではその前提で――アウレリオ殿下の秩序優先を徹底するなら、手順はかなり単純です」


 アウレリオの目が細くなる。何が出てくるのか警戒しているのだろう。


「まず教会が降伏勧告の使者を送ります。反乱した村や町へ、今すぐ旗を下ろして領主権を認めるなら罰しない。教会保護下に置き、必要であれば食糧と治療を与える。そう告げます」

「それは、私の主張にも近いわね」


 リネットの少しだけ嬉しそうな声色に、俺は肯定して見せる。


「ええ。救済の札を先に見せないと始まりません。飢えた相手に秩序を語っても腹は減ったままです」


 アウレリオに対するリネットの反論に同調するようだが、悪いが穏当なのはここまでだ。


「降伏したなら反乱の罪を一度棚上げにするわけですが、教会が他者を食わせる余裕があるからこその議論と理解しています。どうでしょうか?」

「無制限の救済は現実には行えないだろうが、この議論においてはできると仮定したほうがいいだろう」


 教師に確認が取れた。これも大事なポイントとなる。

 国が荒れているのに教会だけが余裕ってのは現実的じゃない。そうでないと弾圧一択だからな。


「ではその仮定において、降伏した者とそうでない者を区別する。これが大切です」


 これに反対する者はいない。救済を第一に考えるリネットでも同意している。

 となれば、次からが本題だ。


「そして、当然ながら拒む土地が出ます。すでに反乱の旗を掲げている。今さら領主に頭を下げられない者もいる。教会の使者を追い返すだけならまだしも、捕らえる、傷つける、殺す者もいるでしょう」


 アウレリオを筆頭とするマテオ派を見回すが、ここまでは同意してくれるようだ。

 なら――足りていなかった実務的観点をぶちこんでやろうか。


「そうなったら話は変わります。教会の勧告を無視し、救済の手を拒み、使者を害した者たちです。反乱だけでなく、教会に背いた者として扱う大義名分を得ることができる」


 リネットの顔色がわずかに変わる。俺が何を言い出すか気づき始めたらしい。

 だが、止める気はない。


「それらを異端と呼べば、後は実力行使だけです」


 異端の定義も色々あるらしいが、思い切り拡大解釈すればこれでいけるはずだ。

 さらにこの世界には魔法や聖法術なんてものがある。これらを使わない手はないぜ。


「聖導師、教会騎士、必要なら我々のような候補生も動員して、王国軍や領主軍と連携して反乱拠点を包囲します。降伏勧告を拒んだのです。反乱の首謀者や戦士や兵だけでなく、住民全てを攻撃対象とする。言ってしまえば皆殺しですね。無論女子供の区別なく」


 これはモンゴル帝国がやったことだ。そして実際に、伝播した恐怖によって降伏する都市は出た。

 モンゴル軍団は騎馬集団主体で攻城戦をしたくないという理由だけど、今回の前提では一刻も早い秩序の回復が主題だ。アウレリオの理論ではそうなる。

 だとするなら市街地戦なんて面倒なことはやってられない。聖法術で全てを焼き払ってしまうのが手っ取り早い。


「男だけを殺しても禍根が残ります。反乱を秩序に対する病として処理するなら、根切りをしたほうが合理的です。女子供が生き残れば物語もまた残ります。教会の悪行という……ね」


 講義室が静まり返るが、この程度でこの反応ってのは覚悟が足りない。

 こっちの世界でも、人間の悪行は数多く行われているだろうに。


「……あなた、自分が何を言っているか分かっているの?」


 リネットが震える声で訊いて来るが――。


「無論、分かっています」


 すまんが、これも俺の性格だと思って諦めてくれ。


「この案を採用する利点は総合的には犠牲者の数を減らせるかもしれないという点です。二つか三つ、地図から消す。すると残りの村や町は考えるでしょう。逆らえば異端として滅ぼされるが、降伏すれば助かるだけでなく食わせてもらえる。結果として、もっと多くの土地が降伏する可能性が高い」


 沈黙が場に満ちる。

 秩序だ救済だと扱っていた言葉が、急に血と火の臭いを持ったからだろう。

 アウレリオも反論してこない。秩序の回復を謳うなら無視できない案だからな。

 

「……教会の使者を捕らえられた場合は?」


 アウレリオからの問い――なるほど、そう来るか。

 あくまでも教会が主体となるなら、避けては通れない話だ。


「助ける努力はするべきです。それが無理であるなら――殉教者として報いるのが残された者の務めです。死後の栄誉となりますが、何もしないより遥かにマシですからね」

「……では、聖導師や我々を動員するという案についてだ。過度な殺戮を行えば後の統治と信仰に影響が出る」


 この反論ももっともだが、考えが甘いな。

 肩をすくめて答えてやる。


「だからこその根切りですよ。死んだ者は語りませんからね。語るのは、保護されて飯を食っている者と、噂を運ぶ商人などです。だから物語を整える。教会は救済を差し伸べた。従った者は救われた。拒んだ異端は裁かれた。そういう形にする」


 自分で言っておいてひでー話だなぁ……とは思う。

 実際にやれと言われたらやりたくないし、絶対に反対派が出て上手くはいかないだろう。

 まあ、仮定の話だからなんとでも言えるけどね。


「それは秩序を超えた恐怖による支配ではないか!」


 おっ! これはちょっと本音っぽい! そりゃ暴君になるのは嫌だよね。

 でも、ここははっきり言ったほうがいい。


「恐怖こそが秩序の原点ですよ。怖くて身が竦むから逆らわない。結局これに尽きる」


 当然それだけでは秩序とは言えない。だから補足もする。


「ただし、恐怖だけでは長期統治は難しい。だから降伏した者は徹底して保護する。反抗しなければ生きられるという物語を見せる。恐怖と救済を同時に扱うんです。片方だけだと失敗は目に見えています」


 アウレリオは唇を結び、鋭い視線で俺を睨みつける。どうやら反論しようにもできないようだ。

 言葉ならいくらでも吐けるだろうが、秩序を前提にしたのはアウレリオだ。俺はただ方法論として答えているだけ。

 安易に否定すれば秩序優先の理屈にひびが入る。もし何か言われたら言い返す気満々だしな。

 とはいえ、だ。


「しかし、これは理屈の上では、です」


 俺はそこで、少しだけ声を軽くした。


「実際には難しいでしょう。完璧な包囲網をどう実現するか、無辜の民の殺戮を遂行できるか。このあたりは大変に難しい。そして失敗すれば、ただの虐殺を喧伝することになりかねません。まあ、成功しても虐殺ではありますけど」


 少しくらいは逃げてもいいけど、大勢逃げたら駄目なんだよな。

 そして人は人を殺したくない。机上の空論とは言わないけど、実行はやはり難しいだろう。


「ただ、秩序を最初に置くというのは突き詰めればそういう話にもなる。救済を先に置くリネット候補生の考えは甘く見えるかもしれませんが、秩序を先に置く考えも、綺麗なままではいられません」


 世の中は綺麗ごとでは回って行かない。感情論では何も救えない。

 俺の話の根底にはそんな気持ちを込めてみたわけだが、極端過ぎたかな?


 リネットの顔には怒りを通り越した呆れが見て取れる。またやったこいつ……って感じか。

 逆にアウレリオの目には敵意のような光が宿る。コケにしようとして、逆に自分の足元を掘られた形だ。そりゃそういう目にもなるか。

 講義室の沈黙がまた一段と深くなるが……少し刺激が強かったかもしれない。 

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