表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どん底TS転生した俺は聖女の称号を望まない~龍殺しのルシアと呼ばれて出世する?そんな面倒は勘弁してくれ~  作者: RCAS
スラム編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/26

二十五話:縄張りの火種

 教会に通う日々の中でも、前にハリスと話した縄張りの件はずっと頭に残っていた。

 帳面の上に置いたコイン。外に面した店。売り上げの落ち方。用心棒代の二重取り。

 数字だけなら、ただの不自然な穴で済む。けど、スラムの帳面は組織の血管みたいなものだ。金の流れが濁る時は、だいたい先に路地の空気が濁っている。

 その予感は、そう長く待たずに形になった。


 ハリスの部屋へ呼ばれた時、机の上には帳面ではなく、簡単な地図が広げられていた。

 東三条の通り、拠点、配給の流れ。俺が印を付けた一角にも、煤けた石ころが置かれている。

 いつもの金勘定じゃない。面倒事が、紙の上から現実になったのだ。

 さらに、その場には珍しくアレンもいた。


「ハリス。何かが起きたのは一目瞭然だが、アレンがいるのはどういうことだ?」


 自分でも険しい顔をしている自覚はある。

 だが、ハリスは平然としていた。


「お前の懸念は分かる。が、安心しとけ。前線で使うつもりはねえ。そろそろ戦場の空気を知っとく必要があると思ってな」

「空気?」

「ああ。それに小僧に任せるのはお前の護衛だ。どのみち遠距離からの狙撃がお前の仕事。光物を抜くようなことにはならんさ」


 なるほど、そういう意味か。

 心情的には、アレンを人殺しの現場に出すのはまだ賛成できない。けど、隣にいるアレンの目を見れば、簡単に止められる空気でもなかった。


「大丈夫だよ、ルシア。僕だって実戦は経験済みだよ」

「……そうだな」


 そこには、何かを決めた強い意思があった。

 水を差すのは無粋ってもんか。

 さらに言うなら、アレンに手を汚させたのは俺だ。必要だからそう指示をした。それでも、俺が原因なんだ。

 なのに、ここでだけ綺麗な顔をして否定することなんてできない。


「納得はともかく理解はしたよ。それで、帳面の件か?」

「ああ。お前が言ってた二重取りが当たりだった」


 ハリスは地図の端を指で叩く。


「ナイトハウンドだ。レッドブレードほど派手じゃねえが、昔はもっと広い縄張りを持ってた古株でな。最近は押されて、今じゃ食い詰めた下っ端共の統制すら上手くいってないらしい。今回の発端はそれだ」


 そこまで言ったところで、扉が勢いよく開いた。


「ハリス! ナイトハウンドが動いた! こっちの拠点に攻め入ってるぞ!」


 ハリスは椅子を蹴るように立ち上がった。


「まさか向こうから来るとはな。だが、東三条を荒らされたからには、連中の好きにはさせん。出るぞ」


 アレンと一緒にハリスの後を付いていく。

 事態は急を要する。グレイクロウの拠点が襲われている以上、まずは押し返さなきゃ話にならない。

 とはいえ、俺たちだけでそれができるはずはない。当然、その答えをハリスは用意していた。


「ガスパールの旦那と合流する」


 ハリスはそう言って、歩く足を早めるだけだった。

 本拠点を出て路地を抜ける最中、杖を持ったガスパールがそこにいた。


「景気がいいな。嬢ちゃんの訓練だけでなく、俺を実戦投入か」

「ルシアのおかげで金が浮いているんでな。あんたの腕を買う金くらいは出せるってわけだ」

「ほう? 良い拾いものをしたな、ハリス」

「得体の知れないガキって点は、今でも恐ろしいがな」


 そんなやりとりをしながらも、二人の足は止まらない。

 路地を抜け、大通りに出ると、怒鳴り声が聞こえた。いや、それだけじゃない。


 何かが割れる音。人が走る足音。剣や棍棒を持ち出した連中が、こちらの拠点へ雪崩れ込んでいる。

 窓は割られ、木箱はひっくり返り、配給用の袋が踏み潰されていた。地面に散らばった穀物を、誰かの足がぐしゃりと踏む。

 バリケードを置いて耐えているようだが、時間の問題だ。数だけ見れば、駆け付けた俺たちより明らかに多い。二十人はいる。


「ありゃ面倒だな。思った以上に戦力を集めてやがる」


 ハリスは思案するように目を細める。


「――ルシア。何発かかまして痛い目を見せてやれ。それで止まらねえなら、ガスパールの旦那の出番だ」

「あの人数をやるとなれば特別料金だぞ。それでも俺を使うのか?」

「今日だけさ。連中に長丁場をやる余裕はねえ。戦力を集めてきた今がベストだ。痛い目を見せたあとに、手打ちへ持ち込む」


 そんな会話の横で、アレンの呼吸が浅いのに気づく。

 身体が、はっきりと震えていた。


「大丈夫か?」

「……分からない。でも、なんとか」

「そっか。無理はするなよ」

「うん……。でも、多分これが本当の戦場なんだ。本気で剣を学んでからは、怖さもちゃんと分かるようになった。師匠に言われた通りだよ」


 前は無我夢中だった。それは俺も同じだったから、実感として理解できる。

 でも、今は違うってことだろう。分かった上で前に立つのは別物だ。


 アレンの成長を嬉しく思いつつ、物騒な成長だなと苦笑する。

 だが、そんな感傷は後回しだ。今見るべきは敵について――。


 入口を攻撃しているのが三人。建物を囲むのが十人以上。そして、路地に目を向けて警戒しているのが五人ってとこか。

 距離は十分に離れているし、一方的な攻撃が可能。となれば、焦る必要なんて俺にはない。


「そろそろ始めるか。ルシア、まずは脅しだ。一発かましてやれ」

「あいよ。殺さなくていいんだな?」

「一方的に狙われているって空気を出せればいいさ。少しばかり焼いてやれば十分。それで駄目ならガスパールの旦那の出番だ」


 それなら気が楽だ。

 慣れたとはいえ、無関心に殺しができるほど割り切れちゃいない。


 俺は一歩前に出た。呼吸を整え、指先から細い光を通して狙いを定める。

 いつものレーザーポインタだ。後は威力を少し上げてやるだけだ。


 ただ、今日は少し感覚が違う。

 正確に言えば、治癒を覚えてからだ。

 身体の奥にあった引っかかりが、今はかなり薄い。だから威力調節の勝手がどこか違う。

 若干嫌な予感がする。

 でも、もう撃つしかない。


 入口を叩き割ろうとしている男の背へ、そのままレイガンを撃ち込んだ。

 次の瞬間、狙った男の背中に、ぽっかりと穴が空く――血を噴き出し、前のめりに倒れる。

 周囲の喧噪が一瞬だけ止まり、次いでその惨劇を認識した者たちが一斉にこっちを振り向いた。


「おい、そこまでやれって言ってねえだろ!」

「俺だってそのつもりじゃなかった! 勝手に抜けたんだよ!」

「ああ、もう! 仕方ねえ! こうなりゃ強くいく! ガスパール、金は心配すんな! かましてやれ! ルシアは逃げる奴の背中を撃て!」

「まったく。手下の制御もできんボスなど、長生きできんぞ」


 ガスパールが溜め息をつきながら、俺を流し見る。そしてハリスに苦言を呈した。


「うるせぇ! ルシアがただのガキじゃないことは、アンタも認めただろうが! うだうだ言ってないでとっととやってくれ」

「仕方ないな」


 気だるそうに言いながら、ガスパールの目が細くなる。

 杖の先に熱が集まり始めた。

 これは、冗談抜きで本気の魔法だ。


 俺のせいで、大事になってしまった。

 が、こうなればやるしかない。


「アレン! 俺の守り頼んだぞ」

「……ルシアは頼りになるけど、やっぱり抜けているところもあるよね」


 アレンにまでそんな評価をされてしまうとか、情けないにも程がある。

 だが、あんな殺しをした俺に向かって、アレンは微笑んでみせた。


「でも、いいよ。覚悟は決めた。ルシアは僕が守る」


 そう言って、鞘から抜いたのは見覚えのない短剣だ。

 おそらく師匠とやらが関係しているのだろう。スラムのガキ共が持つ武器とは比べ物にならない。

 武器を持って俺の前に立とうとするアレンを見て、俺も覚悟が決まる。


 ――自分の尻は、自分で拭かなくちゃいけないよな。


 俺はもう一度、前を見た。

 ナイトハウンドの連中は撤退じゃなく攻撃を選んだ。俺たちを見つけて駆けてくる。

 こうなった以上、手加減は不要だ。そもそも加減が効かないのなら、全力でやるしかない。

 俺は指先へ力を集め、次の標的へ照準を合わせた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ