十五話:修道服の少女
どうやってボコってやるか。
そう思って、一歩前へ出ようとした時だった。
「下がって」
シエラを守っていたアレンが、俺の前へ出た。
「おい」
「大丈夫。僕に任せて」
いや、任せてって……おいおい。
アレンが人殺しの訓練をしているのは知ってるが、相手は三人だぞ?
しかもガキとは言え年上だ。イメージとしては中学生の不良とかそんな感じ。対して俺たちは小学生。
無茶だと思い止めるべきだと思った――思ったが、その背中が妙に頼もしく見えて、考えを変える。
アレンは賢い。少なくとも俺がコイツと同じ年齢だったときとは比べ物にならない。
それなら、任せてみてもいいかもしれない。
アレンは三人を見据えたまま、吐き捨てるみたいに言う。
「三人がかりで女を囲むしかできないのかよ。レッドブレードってのは、ずいぶん安い組織なんだな」
なんとも分かりやすい煽りをするアレン。
「このガキ……!」
「殺す!」
「やっちまえ!」
効果は覿面だ。一瞬にして頭に血が上ったように、三人が一斉にアレンに飛びかかる。
その瞬間、アレンの身体が沈んだ――と思いきや、一瞬で前進して先頭のガキをすり抜ける。
「ぐぇっ」
一人目の脇腹に、鉄の棒みたいなものが叩き込まれたのを分かった。
すれ違いざまの一撃だが、物凄い早業だ。これが訓練の成果ってやつか?
しかも護身用の鉄の棒を使った攻撃。完全に武術としての動きだ。
次は返す手で、二人目の膝へ一撃。
さらに踏み込んで、三人目のこめかみを横から殴打。
そんな三連打が悪ガキを打ちのめす。
三人組をすり抜ける様に移動したアレンは、残心のように振り返り鉄棒を構えている。その顔にはまだ余裕があるようだ。
そして悪ガキ三人組だが――脇腹を押さえて蹲るやつ、膝を抑えて泣き叫ぶやつ、崩れ落ちて頭を押さえて歯を食いしばるやつ。
すげー痛そう……というか、痛いで済むレベルじゃなくね?
それを成したアレンはガキども見下ろしながらも涼しい顔だ。そして啖呵を切っている。
「君たちは僕より弱いんだ。もう突っかかって来るな。次は容赦しないぞ」
カッケー……俺の心が女ならキュンキュン来ること間違いなし。
まあ、そんなことないから、普通に男として頼りがいを感じるとか、そんな風に留まるけどな。
だけど、本気でアレンと喧嘩したら近接戦じゃ勝てないかも。俺の魔法についてアレンは知っているから、簡単に無力化されてしまいそうだ。
そんな事を考えていると、悪ガキ共が往生際が悪く立ち上がる。
このまま逃げれば見逃してやるものを、こいつらは懐に手を入れて何かを取り出そうとした。それは――ナイフだ。
「調子に乗るなよガキが! ぶち殺されてぇか!」
悪ガキの中でもリーダー格っぽい奴がそんなことをほざきやがる。
三人そろってナイフを取り出してアレンに向けて見せつけているが、流石のアレンもそれを見て顔を歪ませている。刃物を相手にすれば、恐怖心が勝るのは当然だろう。
――さすがにここからは俺の出番だ。
「おい。刃物を抜くってことの意味は、分かっているよな?」
そう言ってやれば、悪ガキ三人は計ったように全員が俺に対して振り向いた。
反射的な動きなんだろうが、俺にとっては好都合。すでに指鉄砲の形はできている。
広げず、短く、浅く。瞬間だけ――。
三人の顔へ、『レイ』を照射する。
「ぎっ……!」
「目がっ、あああっ!」
「あああぁぁぁぁ! なんだこれぇ!!」
白い線が走った次の瞬間、三人は揃って目を庇った。同時にナイフが地面に落ちる。
これで良し。以前使った光を出す魔法についてこいつらは学習していないのか?
まあ、目を閉じられても、少し力を強めれば瞼ごと焼くことができるがな。
まずは落ちたナイフを足で蹴飛ばし、こいつらの手の届かないところへ。
「アレン! シエラ! ナイフを回収しろ!」
そう言えばアレンが動いたのが見え、シエラの動く気配が背後からした。
ナイフは自分で使ってもよし、売ってもよし。スラムのドロップ品として考えれば上等だ。
まっ、当然これだけで済ませるはずもないわけだが。
喚くガキの中で一番近いやつの足を払う。
「ぐあっ! な、ごぉっ! や、やめ……」
ひっくり返ったところへ、さらに追撃で体重をかけて踏みしめる。
肋骨の辺りへ、何度か足を踏み落とせば、骨が折れるような嫌な感触が足裏から返ってきた。
そして息が詰まる声が返って来る。悲鳴も言えないなら、こいつはこれで良し。
次だ。
目を押さえている二人目も同じように足払いしてから、その肩口を踏み抜く。
「ぐ……が、がぁ!」
悲鳴が上がろうと関係ないが、体を丸められたら厄介だな。
まあ、それなら頭を狙えばいい。頭を踏みしめ、蹴飛ばし、頭を庇うように手で覆えば首筋につま先をねじ込んでやる。
こいつらはナイフを抜いたんだ。簡単に終わりにしてやるはずがない。甘くやって、後で復讐に来られても面倒だからな。
そうして二人目をボコしていると、三人目――リーダーであろうガキが涙と鼻水を垂らしながら立ち上がろうとする。
こりゃまずい! と思って標的をそちらに変更。襟首を掴みながら柔道の要領でその場に押し倒す。
マウントポジションだ。でも、この体で打撃をするにはパワーが足りない。それなら――。
「があぁぁぁぁぁ!!」
指を瞼の上から目に突っ込み、そこで『レイ』を使う。
これで失明確定か? ま、どうでもいいけど。というか片目だけで許してやるから慈悲深いとも言えるよな。
立ち上がり、これでいいかと思っていると、このリーダー格はどうやら根性があるようだった。
「ぐ、あ……。お、お前えぇぇぇ!」
目潰しが回復したんだろう。生き残った片目を開けて、俺を威圧してくる。
まだ抵抗するってのか? しかし、立ち上がることはできない。かなり俺の攻撃が効いているってことだ。
それなのに、ずいぶんとまあ……健気なことだな。
まだやる気だってんなら、追撃をさせて貰う。
「うるさい」
「ああぁぁぁぁぁ!!!」
軽くジャンプして体重を掛けながら、そいつの股間を踏み抜いた。
あまりに痛そうで、男を知る身としては自分でやっていて同情すらわいてくるが……自業自得だ。
そこでようやく攻撃を止める。目の前には、地面に転がって呻いているガキ三人。さっきまでの威勢は完全に消えていた。
「聞こえているなら覚えとけ。次は殺すからな。その程度で許してやった俺に感謝しろ」
これなら懲りたろ。
そう思って、息を吐く。そこそこ疲れたぜ。
平然とここまでできるとは……俺も、だいぶ堕ちたもんだ。
「そこまで! やめなさい!」
感傷に浸っていると、後ろから声がした。
振り向いて確認すれば、黒と白を基調にした修道服の少女がそこにいた。
年齢は俺たちより少し上くらいか? 金髪でボブカットの美少女と言ってもいい容姿ではあるけど、その顔は険しい。
だが、俺を睨むように見つめる青い瞳には、使命感のようなものを感じさせる何かがある。
市場の汚れた空気の中で――その瞳の色は、強く俺の心を引き付けていた。




