1-5 クセつよ私人逮捕系配信者グループ、パトロンミネット
美馬坂と別れた俺は招かれざる客の相手をするため人通りの少ない場所に移動した。
この場所のいい点は風俗店の看板に隠しカメラが仕込まれており、何かあっても俺にとって都合のいい映像が作れるという事だ。
「はいどーも! これから渦中の捏造探偵に突撃したいと思いまぁ~す!」
自撮り棒を持った配信者は髪が短く、服装も不良少年っぽかったので一瞬勘違いしそうになったが女だった。こういうのは男性というイメージを勝手に抱いていたが少しばかり珍しい。
「頭脳明晰ドクターボビー!」
「筋肉担当グレルオブザデッド!」
「イケメン担当流雨牛!」
『煽り担当ネクラ・クスクス!』
彼女の仲間らしき取り巻きは三人プラス一機で、こっちの事はお構いなしにスマホのカメラに向かって痛々しい自己紹介をした。
ドクターボビーと名乗った一昔前のオタクの様な男はリュックサックを背負い、ご丁寧に駅弁スタイルでノートパソコンを持っていた。
サイドチェストを決めながらグレルオブザデッドと名乗った二人目の男は筋肉質で、見た目で判断するなら喧嘩慣れしているっぽいがゾンビ映画の序盤で死にそうだ。
流雨牛と名乗った三人目の男は絶妙に人気が出なさそうなホスト風の男で、何かを勘違いした痛々しいインディーズのヴィジュアル系にも見える。
四番目に機械音声で名乗ったネクラ・クスクスはよくわからん。ドローンのモニターには煽る際に用いられる顔文字が表示されているが、人生経験のある俺でも流石にこいつは分類出来ない。
「そして街に蔓延る悪を成敗するジャベリン刑事でーす! ドヤァ!」
「いよっほーぅ!」
最後にリーダー格の少女が自らの名を名乗ったが、おそらくそういう様式美の様なものがあるのだろう。
モンキダーデの横でたむろしていそうなリーダー格の少女は未成年の様に見え、ピアスも開け髪も染めており輩である事は一目瞭然だ。
ノリがわからんが取りあえずギャグ寄りの手合いだという事はわかった。ジャベリンの口上から察するにいわゆる私人逮捕系の配信者なのだろう。
「おいコラ流雨牛! 今あたしのセリフだから前に出るな! 何度言えばわかるんだよ空気読め!」
「ノン! こんなに美しい俺を見れるんだから視聴者も喜ぶはずさ!!」
「うお、早速コメント欄が荒れてますねぇ」
『いつもの事だな、プークスクス!』
流雨牛という奴はメンバーの中でも特に目立ちたがり屋なのか流れそっちのけでカメラに映っており、ドクターボビーは早速スマホを眺めて苦笑していた。
「ヘイゾフィー! キモイ元バンドマンの流雨牛の殺し方を教えて!」
「ああん、今日もシ・ン・ラ・ツ!」
「古っ。いつの時代のノリだよ」
ジャベリンはスマホに搭載している人工知能に物騒なお願いをし、ツッコミを入れたグレルオブザデッドと俺は不覚にも同じ考えを抱いてしまった。
「よくわからんがおでんをツンツンしたりアイスケースに入るのは駄目だぞ。じゃあな」
「ってちげぇよ! そんなしょうもない事しねぇっての! あたしたちは闇のダークヒーローだ!」
取りあえず当たり障りのない忠告をして帰ろうとするとジャベリンはキレてしまう。
俺からすれば私人逮捕系もどっこいどっこいだが彼女たちなりに美学があるのだろう。
「そもそもお前等誰なんだ? 仲が良さそうなのはなんとなくわかるが」
「はぁ? この日本を代表するカリスマ配信者のパトロンミネットを知らないんすかぁ?」
俺は記憶を辿りそんな連中がこの辺りで騒ぎを起こしている事を思い出した。そういえば尾張連合会の連中も突撃されてブチ切れていたっけ。
ああいうのは基本的に因縁をつけて金をせびるのが基本だ。
輩が恐喝するのは昔から同じだが、現代版にアップデートされただけとは言えよう。
「で、そのカリスマ配信者のダークヒーロー様が何の用だ?」
面倒くさい事この上ないが俺は仕方なく配信者の相手をする。この類の奴にプライバシーの侵害だとか言っても無意味だろう。
悪名高い捏造探偵の俺は恨まれてナンボな仕事をしているので、関係者が報復に寄越す事も珍しくない。
当然命を狙われた事も一度や二度ではないので、元々社会的地位が皆無な俺にとっては配信者なんて可愛いものだ。
守秘義務があるので基本的には何も話さないのが前提として、こいつはどの事件の事を知りたいのだろうか。
「捏造探偵の堤さんですよね? 最近巷で話題になってる連続闇バイト強盗殺人事件、いわゆるジャン・バルジャン事件についてお伺いしたいんですがちょ~っとよろしいでしょうかー?」
「ジャン・バルジャン事件?」
だが彼女が尋ねた事件は俺が全く予想していないものだった。
最近ニュースで話題のジャン・バルジャン事件と呼ばれる闇バイト強盗殺人についてはもちろん名前と概要程は知っているが、俺は一切あの事件には関わっていなかったからだ。
「またまたすっとぼけちゃって~、あなたが阿部真樟が昔起こした事件で証拠の改竄に関わったって事は知ってるんですよ~?」
この件に関しては全く身に覚えのないがジャベリンは確固たる自信があるらしい。大方誰かが流した噂を参考に突撃しただけの奴なのだろう。
「そのせいで殺人犯が野放しになってこんな事件が起きたわけですけど、どう責任を取るんですか~?」
自分が実際に関わっていたら話は別だが、ジャン・バルジャン事件については今も昔も一切関わっていないので責任を取るもクソもない。
だかその事実を説明した所でこいつらは納得しないだろう。ったく、どう追い払うべきか。
「悪い事は言わないからさっさと帰りな。この辺でそういう事をしてたら面倒な奴等に目ぇつけられるぞ」
「うわっ、それ脅迫っすよ? 皆さん見ましたよねー!? 流石は極悪非道の捏造探偵は違いますねー!」
「見ました見ました! これは由々しき犯罪ですな!」
「こいつは筋肉で懲らしめないといけねぇな!」
「そう、エレガントかつビューティフルに!」
『バッチリくっきり撮影しましたぜ! クスクス!』
俺は親切心から忠告したがジャベリン達はまるで聞く耳を持たなかった。あまり長引くと俺までとばっちりを喰らうから勘弁してほしいんだが。
世間を舐めたガキのこいつらはヤクザの恐ろしさを何も知らないのだろう。
この世界には理屈が通用せずに簡単に一線を越える奴がいる事を。
ただ目障りなだけなら相手にする事は無いがシノギの邪魔をしているのなら話は別だ。
先程美馬坂がしていたやり取りから察するにそう遠くないうちに制裁を加えられるはずだ。殺しはしないだろうが軽くフクロにはされるだろうな。
「そう言われてもなあ。俺は何も知らないから他をあたってくれ」
「完全否認っすか~、まあそりゃそうですよね~! じゃ、ドクターボビー! グレルオブザデッド! 流雨牛! ネクラ・クスクス! やっちゃって!」
「承知!」
「おう!」
「りょーかい!」
『やっちまうぜー! クスクス!』
「聞く耳持たずかよ……ったく」
俺は再度関与を否定するがジャベリンはまるで相手にせず取り巻きをけしかける。全員あまり強そうには見えないしサクッと終わらせるか。




