4-10 後日、美馬坂宣司の楽しい休暇
後日、東海地方の某所にある山奥のバーベキュー場で美馬坂は親しい人間に肉を焼いて振舞っていた。
「じゃーん、みかわ牛だぎゃあ~!」
「おー」
霜降り肉を網の上に置くと滴り落ちた油によって晴れ渡る秋空に煙が立ち上り、招かれた山蛭商会の坂井利一は思わず感嘆の声をあげてしまった。
「何かすみませんねぇ、美馬坂の兄さんに肉を焼かせて」
「構わん構わん、おみゃあさんは若いんだからもっと食うだぎゃ! 他の連中も遠慮せんでええんだで!」
「はい、あざっす!」
陽気に笑う美馬坂にそう告げられた舎弟は即座に肉を食べる。
粗相があれば指が飛ぶので空気を読む必要はあるが、彼等もまた宴を楽しんでいた。
「いやー、昨日のゴルフコンペは楽しかっただみゃあ。ここ最近ヤクザは断られるところも増えたからのう、愛好家としては悲しい限りだみゃあ」
「それでゴルフ場そのものを経営する様になったわけですから、兄さんのゴルフ好きも筋金入りですよね」
「おう! 俺にとって飲む打つ買うの打つはゴルフを打つなんだぎゃ。ようやく肩の荷が下りたししばらくは羽を伸ばさせてもらうだみゃあ」
この親睦会は裏社会の重鎮の結束を深める宴会ではあるものの美馬坂は思う存分ゴルフを楽しめた事が何よりも嬉しかったらしく、五番ホールでイーグルを決めた時の余韻と共にトングをスイングした。
「あんまり遊びすぎるとまた会長さんに怒られるぞ? 今のお前はあの頃とは違って尾張連合会の若頭なんだからな、姜馬宣」
「ははっ、わかってますって、哥哥」
そんな彼を中国マフィアの幹部が笑いながら諫め、美馬坂は標準語で苦笑してしまった。
「え? 美馬坂の兄さんって普通に喋れたんですか?」
「あー、これ? いやキャラ付けのために関西弁を喋ろうとしたけども、途中で名古屋弁って気付いた時にはもう遅くてのう。んで止め時を見失ったまま続けてるんだぎゃ」
「へー、そうなんですかー」
坂井利一は美馬坂のどうでもいい裏設定を知ってしまったが、他人に語る程でも無い話だったので肉を食べる事にした。
「くぅ~! 肉うめぇだぎゃー!」
ゴルフをして美味い肉を食って浴びる様に酒を飲む。
裏社会でのし上がり、天下を取った尾張連合会若頭の美馬坂宣司は楽しい休日を満喫していた。
……………。
思う存分肉を食べて宴が終わり、美馬坂は部下と共に片付けの作業をしていた。
「って親父? いいですよ自分達がやるんで」
「構わん構わん、おみゃあさんらはあんま食っとらんかっただろう。後で一杯ひっかけるだぎゃ」
「ありがとうございます」
尾張連合会四人衆は親分の優しさに感服してしまう。
面倒見がいい美馬坂はこうして気遣いも出来るので尾張連合会の若頭になれたのだな、と彼等は改めて思ってしまった。
「んー!? んー!?」
「あ、向こうにゴミ捨て用の穴掘ってあるんで」
「おう。まだ炭熱いから転ばんように気を付けるだぎゃ」
美馬坂は部下と共にバーベキューコンロを運び砂利道を進み、事前に掘ってあった穴に移動した。
「んーッ!! むーッ!?」
「そういやあバーベキューで炭を埋めるのって駄目なんだぎゃ?」
「ええ。山火事とかの原因にもなりますし、砂浜なら踏んで火傷とかもしますしマナー違反ではありますね」
「ふーん。まあ別にええか」
別の部下は穴に生ごみやスチロール容器を捨てていたが自分達はヤクザだ。細かいルールを気にする必要もないだろう。
「そらよっと」
「んんんんんッッ!?」
美馬坂は様々なゴミと共に火が燻っていた炭を穴の中に投げ捨て、ついでにポケットの中に入れていたカルパスの個包装も捨てた。
「んんんんッッんんッ!?」
「ほいじゃあ何食うだで?」
「あ、自分ラーメンが食いたいっす。岐阜タンメン」
「おーう、あれはええのう。ん? タンメンってラーメンなんだぎゃ?」
シャベルを持った美馬坂はこれから何を食べるか話し合いながら掘った土を穴に戻していく。
穴の中では熱した炭で皮膚を焼かれ苦悶するイモムシの様な何かが必死で暴れまわっていたが、一切気に留める事など無く。
「野菜を入れてからスープを煮込むのがタンメンで、ラーメンは後から野菜をトッピングするとかそんな感じだったと思いますよ」
「ほー、そうだったんだみゃあ」
「ンッッンンー!?!?!」
ザクッ、ザクッ。
土を被せ続けるとやがて何かの呻き声は聞こえなくなってしまう。
だが美馬坂は最後に、
「うーん、けどバーベキューで使った炭をそのまま埋めるのはいけんかったかのう。SNSとかに投稿されたら炎上してまうし、やっぱコンプライアンスは護らんといけんのう」
と、少しだけ自分のマナー違反を後悔してそう呟いたのだった。




