1-3 押しかけ助手志願者のコレット
俺は取りあえず謎の珍客を招き入れ、机に二人分のコーヒーを置き向き合って座った。
スーツ姿の謎の女性は表情に乏しく、姿勢を正してマネキンの様に微動だにせず俺の目をジッと見ていた。
雰囲気的に海外の女性っぽいがそれ以外の事はわからない。
ボブカットのブロンドの髪は美しくはあるが、ゲームの初期スキンの様に個性がなく不自然に切り揃えられている。
唯一のアクセサリーは首輪の様なエナメル質のチョーカーだろうか。高そうで素材もわからないがこれは一体どこのブランドだろう。
「一応話だけは聞くが」
「はい。ワタシはコレットと申しマス。気軽にコレットさんとお呼びくだサイ」
「初対面なのにさん付けを強要するのか」
「今のご時世は部下でもさん付けをするのがコンプライアンスデス。もちろんワタシがどれだけビューティフォーでもセクハラは言語道断デス」
「はあ、そうですか」
コレットはやはり向こうの出自だと推測出来たが言動はどうにもヘンテコだった。
捏造探偵なんてお天道様に顔向け出来ない仕事をしているとあくどい人間も引き寄せてしまいがちだが、おそらくこいつはそういう手合いではないのだろう。
ミステリー小説を読んで探偵になろうとしたり、任侠映画を見てヤクザになろうとしたり、そういう類の変な外国人に違いない。
「じー」
「オウーン」
一応大人同士の話し合いなのでニナとロッシーは席を外させたが、やはり気になっている様で俺達の様子を隣の部屋から観察していた。
「で、就職面接でしたっけ」
「はい。ワタシは助手の面接に来ました。なのでとっとと採用する事を望みマス。そうしないと話が進まないので四の五の言わずに採用して下サイ」
「面接に来た奴の態度じゃねぇな」
コレットはなかなか傲岸不遜な振る舞いをして威圧的に迫る。だけどこちらも大人なのでまだ突き返さないでおこう。
「まあいい、志望動機は?」
「探偵と言えばワトソン役でしょう。この探偵事務所にはバディがイマセン。幼女はイマスが、子供が探偵をやっていいのはフィクションの中だけデス」
「はあ」
彼女は志望動機をプレゼンテーションのように語るが、やはりそれはどこかズレたものだった。
「リアルに探偵が殺人現場に子供を連れて行ったら確実に炎上シマス。警察は子供に事件を推理させるのか、税金の無駄遣いだと文句も言われマス」
「特定のバーローに喧嘩を売ってないか?」
「気のせいデス」
気の済むまでどこぞの探偵をディスったコレットは唐突に立ち上がり、まるでセミナーの様に両手を広げて語り始めた。
「デスがインテリっぽい外国人ならセーフデス! FBIも捜査協力を依頼するとかそういう設定があればどんなに胡散臭くても大体の日本人は納得すると学習してイマス!」
「はあ。コレットさんはFBIと仕事をした事があるんですか」
「FBIの人と一緒にフォートナ〇トをした事はありマス」
「帰れ」
やはりこいつは変な外国人で確定だ。ただのポンコツっぽいので雑に扱ってもいいと判断した俺は彼女にそう命じた。
俺をダークヒーローと考えている陰謀論系の輩やある事ない事を書く週刊誌の取材なら気を付けたほうがいいが、こいつはそんな心配をしなくても良さそうだ。
「ねえねえ、めっちゃ面白そうな人じゃん! 助手に採用してみようよ!」
「オウン!」
「……ニナ、黙ってろ」
が、そんな馬鹿馬鹿しいやり取りを見ていたニナは目を輝かせて話に割り込んでしまい、ロッシーも餌を貰う時と同じ様におねだりをして乗っかった。
「おやおや、可愛らしい娘さんデスね。ここは仲良くして外堀を埋めてみましょう。営業でも子供から攻めるのは定石と学習してイマス」
「そういうのは思っていても言うもんじゃないぞ」
コレットは妙案とばかりに考えている事を正直に語る。ワトソン役としては不向きだが、ネタキャラとしては最高だろう。
「いいじゃん! 私仲良くしてみたいし! あ、こっちはパパの嫁のロッシーだよ!」
「オウーン」
「なるほど、この子が堤さんの嫁のロッシーさんデスね。コレットは学習シマシタ」
「まだそのネタ引っ張るのか」
ニナの中ではコントが続いていた様だが、コレットは仲良くする為なのか訳の分からない設定に付き合った。これも全ては助手になる為なのだろう。
「とにかく助手を雇うつもりはない。うちは普通の探偵じゃないし、探偵ごっこがしたけりゃ他をあたってくれ」
彼女が悪人には思えなかったが流石にこんな変人を雇ってもメリットは何もない。俺は出来るだけ丁寧に断った。
「なるほど、わかりマシタ」
「やけにあっさり引き下がるんだな」
「ワタシは学習してイマス。こういう時は三顧の礼がセオリーだと。ではシーユーアゲインデス」
「はあ」
コレットは再会を約束し一旦は引き下がった。
これが後二回もあると考えると気が滅入ってしまうが、二回耐えれば大丈夫だとポジティブに捉えよう。
「行っちゃったー。ざんねーん。ヒロイン候補だったのに」
「オウン」
「勘弁してくれ」
だが変人の彼女はニナのお眼鏡には適ったらしい。娘に悪影響を及ぼさないためにも、何としてでも平穏な日々を死守しなければ。




