4-4 VS 裏社会の解体職人 尾藤葉子
俺達は土師とジャベリンを助ける為に飛び出し、美馬坂の手先として暗躍していた尾藤葉子と対峙する。
「そいやー!」
コレットは有無を言わさず帯電マジックハンドを射出するが、プロの尾藤はすぐに気付き避けてしまった。
「邪魔しないでよぉ。これからジャベリンちゃんをバラバラにするんだから! 私はね、可愛い女の子をバラバラにする時が一番気持ちよくなれるのに!」
「性癖拗らせ過ぎだ。頭おかしいだろ」
尾藤はまるでデートを邪魔された少女の様にぷんすかと憤慨していた。狂人の彼女にとっては人間を解体する事などその程度の事なのだろう。
「土師さん、ジャベリンさん! 無事デスか! 下がってくだサイ!」
「あ、ああ!」
「っ!」
コレットは二人にそう告げ、後退した土師はジャベリンを庇う様に前に立つ。
彼は恐怖しながらも片時も尾藤から目を離さず、無力な人間ながらジャベリンを必死で護ろうとしていた。
「バウバウ!」
「ロッシーも久しぶり。元気にしてた?」
ロッシーは懸命に吠えてかつての飼い主に何かを訴えようとしたが、それはもう壊れてしまった彼女に届く事は無かった。
「尾藤葉子、まさか君が美馬坂の仲間だったとはね。医療刑務所から出た事は知っていたけど」
真矢は淡々と分析し情報を引き出そうとする。
この状況ではそんな悠長な事は言ってられないが、それが彼女の役割だったからだ。
「仲間っていうかフリーの解体屋だけどね。尾張連合会とは前から付き合いがあったんだけど、闇バイトアプリのおとり捜査をするから協力してって頼まれたんだよ」
元々裏の住人だった彼女にとって美馬坂からの依頼は普段の仕事の延長線上にあるものであり、実入りも良く特段拒む様なものではなかったのだろう。
「といっても殺しはそんなにしなくて、もっぱらやってたのは死体の解体や処分とかだけどね。でもいろんな人をバラバラに出来て楽しかったよ」
「狂ってるね」
「あはは、そうだね。私は家族をあいつの指示でバラバラにした時からとっくに壊れちゃったんだよ」
頭のおかしい人間によって家族が洗脳され、肉親の遺体を切断させられ――尾藤がこうなった経緯は正直同情してしまう。
いや、容易くそんな事を想ってはいけない。
何故なら彼女の絶望はそんな簡単な言葉では言い表せられないものだったからだ。
「でもね、だからさっきみたいな安っぽい家族ごっこを見せられると物凄く虫唾が走るんだよねッ!」
話し合いもそこそこに尾藤はチェーンソーを唸らせ襲い掛かる。どうやら舌戦はここまでの様だ。
「真矢、お前も下がってろ!」
「わかった! サンチョ君も無理はしないでね!」
尾藤は話し合いが通じる相手ではない。特殊警棒は得物としては心許なかったが戦って退ける以外の選択はないだろう。
「そおれッ!」
「うおっと!」
死体の解体を生業とする尾藤はヒットマンというわけではなく、女性なので特別力が強いというわけでもない。
だがそれでもチェーンソーを振り回す人間が襲い掛かって来るのは恐怖以外の何物でもない。
スプラッター映画に出てくる多くの怪人がチェーンソーを武器にするのは、やはりわかりやすく恐怖を植え付けるからだ。
「ていっ!」
コレットはひたすら帯電マジックハンドを連発するが何度やっても普通に避けられてしまう。
弾数無制限の帯電マジックハンドは強力だが速度は決して速くない。どうにかして命中させる事が出来ればいいんだが。
「ワンワンッ! ワンワンッ!」
ロッシーは怯えながらも懸命に吠え続けるが、彼の叫びはチェーンソーのエンジン音によってかき消されてしまう。
「バウッ!」
「ロッシー!」
「おい馬鹿ッ!?」
「ッ!」
このままでは埒が明かないと思ったロッシーはたまらず駆け出してしまい尾藤に噛みついた。だがそれは自殺行為に他ならず俺達は全員悲鳴を上げてしまう。
「ちょ、駄目だってば、ロッシー!」
「クゥン、クゥン!」
けれど尾藤はロッシーを攻撃する事が出来ず、チェーンソーで傷付けない様に何とかして振りほどこうとした。
「ていっ!」
「あぐッ!?」
今なら攻撃が命中すると判断したコレットは帯電マジックハンドを射出し尾藤を感電させる。
「バウ!」
「おわっ!?」
またその際手放したチェーンソーが危うく尾藤に命中しそうになったが、なんとロッシーは落下するチェーンソーに体当たりし離れた場所に吹き飛ばした。
「う、うう……」
「クゥーン」
ロッシーは昏倒した尾藤のニオイを嗅ぎ、寂しそうに鳴きながら彼女の顔を舐める。
けれど彼女は僅かに安らかな表情になったものの目を覚ます事は無かった。
「気絶しているだけデスから安心して下サイ、ロッシーさん」
「クゥーン」
コレットは優しく諭すもロッシーはその場から動こうとしなかった。
おそらく彼は尾藤が目覚めるまで動くつもりはないのだろう。
「このままにしておこう。もしも尾藤の意識が戻ったとしてもロッシーに危害を加える事は無いはずだ」
「だろうな」
尾藤葉子は狂人ではあるがまだちゃんと人の心はあった。
先程の様子から真矢は問題ないと判断し、ロッシーの気持ちを尊重する事にしたらしい。
「まったく。けどもうこんな危ない事をしたら駄目だよ。君に何かあったらニナに怒られちゃうから」
「オウフ」
真矢はロッシーの頭を撫で優しく注意をし、ロッシーはイタズラを咎められた時の様にシュンとしてしまった。
「まったく、お前は毎回とんでもないファインプレーをするな。頼むから俺の出番を奪わないでくれよ」
「オウフ」
俺も久しぶりにこいつの事が愛おしくなり、忠犬ロッシーの全身をわしゃわしゃと撫でてから一旦別れを告げる。
「お前達も行くぞ、土師、ジャベリン。このままここにいたら殺されるからな」
絆が生み出した優しい光景の余韻に浸っている場合ではない。
俺達は美馬坂と黒幕の凶行を止めなければいけないのだから。




