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捏造探偵3~ジャン・バルジャンの罰~無情なる世界、愛と復讐の旅路【完結】  作者: 高山路麒


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4-3 流雨牛殺害事件の真相

 グレルオブザデッドにケジメをつけさせた美馬坂は無精ヒゲをいじってジャベリンへの罰を考える。


「海老名と星場は見つけ次第殺すとしておみゃあさんはどうすっかのう。ソープに沈めればそれなりに稼げそうだけども」

「ひっ!?」


 このままではいけない。奴は本気だ。


 取り返しのつかない事になる前にそろそろ止めに入るべきだろうか。


「じゃけどのう、おみゃあさんは人を殺しとるからのう。甘過ぎてもいけんからもうちょっと厳しくてもええかのう」

「な、何を言ってるんだ!?」

(ジャベリンが人を殺した、だと?)


 だがその最中、美馬坂は不意に信じがたい事を告げた。


 それは俺も初めて知る事実だったが、ジャベリンも訳が分からなさそうな反応をしていたので全く心当たりが無かったらしい。


「待ってッ! 違うのッ!」

「やめるんだ!」

「お母さん!? 土師仁太まで!?」


 美馬坂が秘められた真実を告げようとした時、同じく尾張連合会に捕まった南戸と土師も彼の下へ連行される。


(お母さん……やっぱりそうだったのか)


 南戸はジャベリンと出会った時鈴と呼んでいたし、おそらくそうなのだろうとは思っていたが親子だったのか。


「全部ッ! 悪いのは全部私だからッ! 鈴は何も悪くないッ! 殺すなら私を殺してッ!」

「南戸さん! 言っちゃ駄目ですッ! 阿部真樟を殺したのは僕なんですッ! 僕がジャン・バルジャンなんですッ!」


 両者に何かしらのわだかまりの様なものはありそうだが、自らの命を捧げてでも娘を助けようとしている様を見る限り南戸さんはそうではないらしい。


「おみゃあさんら喧しいからちょい黙れ」

「っ!?」

「お母さん!?」


 美馬坂は苛立ちながらゴルフクラブを南戸の顔面目掛けてスイングして寸止めする。


「おみゃあさんは必死で流雨牛とかいう奴を殺した犯人を捜していたけど見つかるわけないだぎゃ」


 一旦静かになった所で、彼は流雨牛殺害事件の真実を告げた。


「だってあいつを殺したのはジャベリン、おみゃあさんなんだからみゃあ」


 流雨牛を殺したのはジャベリンだった――その信じがたい真実は俺達だけではなくジャベリンをも驚愕させた。


「何を言ってるんだ!? あたしが流雨牛を殺すわけないだろ!」


 俺の主観だがやはり彼女は嘘をついている様には思えない。


 とにかくもう少し話を聞いてみよう。


「そもそもおみゃあさんは闇バイトアプリが何なのか知ってるのかみゃあ?」

「え? い、いや」

「誰もそんなものを見た事なんてないだぎゃ。だって闇バイトアプリの正体はマルウェアに感染してプログラムが書き換えられた人工知能(ゾフィー)だからみゃあ」

「「ッ!?」」


 彼の口から明かされた真実に俺とジャベリンも驚愕してしまうが、同時に納得してしまった。


 今でこそ安全なものに代わっているがゾフィーはカラマーゾフ事件でも騒動を引き起こしたし、俺達が気付いていないだけで潜在的なリスクは存在していたはずだ。


 闇バイトアプリをいくら探しても見つかるわけがない。


 何故ならそれはほぼすべてのスマホに最初からインストールされていたのだから。


「そしておみゃあさんはマルウェアに感染したゾフィーにこう命令したはずだぎゃ。流雨牛を殺せってみゃあ」


 ――そう。それは初めてパトロンミネットと遭遇した時の事だ。


『ヘイゾフィー! キモイ元バンドマンの流雨牛の殺し方を教えて!』


 流雨牛が悪目立ちをした際、ジャベリンは確かにスマホに搭載された人工知能にそう伝えた。


 彼女は全世界に動画を配信している最中、本人も意識しないままに闇バイトアプリとなったゾフィーに殺害を依頼してしまったのだ。


「あ、ああ……嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だぁああッ!」


 友を殺したのは他の誰でもなく自分だった――その残酷な真実はジャベリンを絶望させるのに十分だったはずだ。


「嘘よッ! そいつの言っている事は全部嘘だからッ!」


 南戸はきっとこの真実を知っていたはずだ。彼女が我が子を護る為にどのような行動をとったのか――少し考えればおおよその想像はついてしまう。


「んで、闇バイトアプリを調べていた阿部が少し前に依頼を引き受けた南戸が怪しいって接触して、おみゃあさんを護る為に南戸は闇バイトアプリを使って阿部を殺す様にどこかの誰かに依頼したわけだみゃあ」


 南戸とジャベリンが親子ならマルウェアに感染してしまう切っ掛けはいくらでもあったはずだ。


 あるいはネクラ・クスクス――闇バイトアプリをばら撒いていた乾ラルーエットが感染させたのかもしれない。


 だけど南戸も以前闇バイトアプリを使った事があったのか。それはそれで衝撃的な事実だが、美馬坂は更に話を続けた。


「闇バイトアプリのユーザーはいくらでもおるけど、おみゃあさん方パトロンミネットはネクラ・クスクス……乾ラルーエットから直接情報提供を受けて俺等の邪魔をしとった。お陰でいろいろ情報が手に入っただぎゃ」


 どういう手段を使ったのかはわからないが、尾張連合会は自前のハッカー集団を有していたのでどうとでもなるはずだ。


 彼等はリアルとサイバー空間から乾ラルーエットの手足となって動いていたジャベリンに接触し、全ての情報を手に入れ行動を起こした。それが今の状況なのだろう。


「待って下さい! 彼女は利用されただけです! 何も悪くないでしょう!?」

「黙れ。誰のおかげで前科者が平和に暮らせとると思っとるんじゃ、たーけが」


 経緯を聞いた土師は懸命にジャベリンを庇うが、美馬坂は聞く耳を持たなかった。


 阿部真樟の取り巻きだった土師は尾張連合会の末端とも言えるが、会話から察するに両者の関係性はまだ続いていた様だ。


「僕はもうそんなものはいらないッ! だからッ!」

「じゃかしい黙れ言うとるんだみゃあッ!」

「ッ!?」


 なおも縋りつく土師に美馬坂は激怒してしまい、そこにはもう社会の底辺に生きる風俗店の客引きの面影はなかった。


「おみゃあさんには散々シノギの邪魔をされとるからのう、こっちもそれなりの落とし前をつけさせてもらわにゃいかんのだぎゃ。いつもならシャブ漬けにして売り飛ばすくらいで勘弁したるけども、そうはいかんでのう……」


 人ならざる悪鬼へと変貌した美馬坂はジャベリンをどう処刑するのが最適か思案し、尾藤に指示を出した。


「待って! 鈴を殺さないでッ!」

「なら星場や海老名がどこにいるか案内してくれんかのう。連中が今もポート・ワカノーラのどこかにいる事はわかっとるんだぎゃ」


 南戸は娘を助ける為懸命に声を張り上げ、美馬坂は彼女の命を交渉材料に情報を聞き出そうとした。


「わ……わかったから! だから鈴だけはッ!」

「南戸さん!?」

「そうか。連れて行け。土師にはまだ用がある」

「はい」


 南戸は躊躇っていた様子だったが鈴の命を助ける事を選んだらしい。美馬坂は部下に指示を出し彼女と共にどこかへ去っていった。


「ほいじゃあ土師、そいつはおみゃあさんに任せるだぎゃ。殺し方は任せる。俺等は海老名と星場を探さにゃいかんからのう」

「っ!」

「ちゃんと殺せたら再雇用してやるわい。カタギのごっこ遊びをしとるよりそっちのほうがおみゃあさんもええじゃろう。ただもし出来んかったら……尾藤、わかっとるがね」

「はい、もちろんです」


 これ以上時間をかけるのは非効率的だと判断した美馬坂は土師に残酷な指示を出し、監視役の尾藤だけを残してその場から立ち去っていく。


「だってさ。土師さん、わかりますよね。予備のナイフがあるので使ってください」

「……………」


 尾藤は懐からサバイバルナイフを取り出し土師に手渡し、彼は震える手でナイフを受け取った。


「や、やだ……! 本当にやだ……!」

「……ッ!」


 ジャベリンは死の恐怖に泣きじゃくり、土師は何も出来ずに立ち尽くしてしまう。


 そろそろマズいし今すぐ飛び出すべきか。


 だが土師はそれ以上ナイフを持つ事が出来ず、握りしめた手からはナイフが零れ落ち、カランカラン、と甲高い音を奏で石畳の地面を転がった。


「出来ない……出来るわけがないだろ……!」


 土師は確かに過ちを犯したが、もう彼は罪人ではなかった。


 後も先もない彼はそれが出来なければ自分が殺されるとわかっていながら、感情に委ね突きつけられた選択を拒んだのだ。


「そう。なら仕方ないですね」

「ッ!?」


 尾藤葉子はこうなる事がわかっていたのか、さほど動揺する事無く土師とジャベリンを始末する為粛々とチェーンソーのエンジンをかけた。


「やだ、やだ、やだぁッ!」

「クッ!」


 土師は悲鳴を上げるジャベリンに覆いかぶさった。


 だがそれは無駄な悪あがきであり、尾藤は肉を食らう悪鬼の様にニタリと悍ましい笑みを浮かべた。


「あはは、ジャベリンちゃんは可愛いなあ。でもね、両手両足切り落とせばもっと可愛くなれるからぁッ!」


 その時尾藤が発した言葉は人間の言葉とは思えなかった。


 どうしてこいつらはこうも人間がするとは思えない事を平気で出来るのだろうか。こいつらは本当に血の通った人間なのだろうか。


「……もう無理だ、行くぞ!」

「ああ!」

「はい!」

「オウフ!」


 このままでは二人が殺されてしまう。情報も十分手に入ったし何としてでも凶行を止めなければ。

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