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捏造探偵3~ジャン・バルジャンの罰~無情なる世界、愛と復讐の旅路【完結】  作者: 高山路麒


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3-5 推理:阿部真樟の目的と、殺害動画のトリック

 事件の全容が少しずつ見え始め、俺達はようやく最大の謎である阿部真樟の事件についての推理を始めた。


「それじゃあいよいよ本命の阿部真樟の殺人事件だね」


 メインディッシュを前に真矢も楽し気だ。


 彼女はこの難事件をどう推理し解決に導くのだろうか。


「ジャン・バルジャン事件の主犯格の阿部真樟は出所後に闇バイトアプリによる強盗殺人事件を起こすも、何者かによって殺害される動画が投稿され、その後バルブ室でバラバラ死体になって発見された」

「デスがそうなると不可解な点がありマス。まずはこちらをご覧くだサイ」


 コレットはタブレット端末にポート・ワカノーラ園内の防犯カメラの映像を映し出す。


 そこには何と阿部真樟が映し出されており、この時点で死んでいるはずの彼は平然と観光を楽しんでいたのだ。


「ちなみにこの後デスが……土師さんと南戸さんともお話をしてイマスね」


 更に彼はかつての仲間の土師とも出会っていた。


 だが彼は何故か土師には目もくれず南戸のほうと会話をしており、そのまま防犯カメラの死角へと消えていった。


「どうして阿部真樟が生きていたのかは一旦後回しにするとして、どんな会話をしていたのかはわかるか?」

「すみません、音声データはございマセン。ただ阿部真樟は土師さんをガン無視しているので南戸さんのほうに用事があったようデス」

「だよなあ。まだ昔の仲間の土師に絡んだのならわかるけど」


 コレットもこの映像をどう解釈していいかわからず困り果ててしまった。おそらく警察も同じ様に考えているはずだ。


「ベタに考えるのなら阿部真樟は南戸に対して何かしらの脅迫をして、土師が助けるために殺したって感じかな」

「もしくは実は南戸が犯人で、それをどこかで知った彼が庇うために自分が犯人だと言ったパターンもありマスね。土師さんは良い人デスから」


 真矢とコレットの主張はただの憶測であり根拠は何もなかった。


「つっても普通の主婦の南戸とヤクザの阿部真樟に接点はないだろ。もしも関わる事があったとするなら土師の揉め事に巻き込まれたとかそれくらいだ」


 だが俺もちぐはぐな状況にどうロジックを組み立てていいのか全く分からず、匙を投げそうになってしまう。


「土師と南戸は事件と直接関係がないのかもしれないな」


 それに現状二人が阿部真樟の殺害に関与したという動機も根拠も見当たらない。


 この映像だけでは正直何も判断出来ないので不確かな推理を組み立てる必要もないだろう。


「一応参考程度に申し上げマスが、阿部真樟は少年刑務所で出会った人間に誘われて出所と同時に尾張連合会と繋がりのある半グレ組織に所属シマシタ」


 悩んでいる俺にコレットは出所後の阿部真樟の動向を伝えた。


 全く反省せず刑務所でコネを手にし、出所後に裏の住人になるなんてネット民がブチ切れそうだが割とよくある話だ。


「ちなみに彼の暮らしぶりデスが、それはまあイケイケでぶっちゃけ尾張連合会の下っ端だった頃とは比べ物にならないくらいいい暮らしをしていまシタ」

「昔は盃も交わしてない様な末端の人間だったからね。むしろ土師を恨んでいないどころか出会いの機会をくれて感謝してるかもしれないね」


 稼げるヤクザはほんの一握りで、大半は食うにも困る日々を送っている。


 阿部真樟が出所後に辿った道は裏の住人にとってはサクセスストーリー以外の何物でもなかったはずだ。


 だがそこまで話を聞いて新たな疑問が生まれてしまった。


「待てよ? なら阿部真樟は尾張連合会に捨てられたわけじゃないって事か?」

「そうなりマスね。厳密には暴力団でありマセンが、半グレという形で再雇用していい暮らしをしていたので感謝こそすれ恨む理由はないデショウ」

「ならどうして阿部真樟が尾張連合会に対して危害を加えたんだ。筋が通らないだろ」

「確かにそうデスね。何故デショウ?」


 コレットは理解が出来ない難題にうんうんと唸ってしまう。どう考えてもあり得ないこの矛盾は何を意味しているんだ。


「何を言っているんだい?」


 しかし真矢だけは答えに辿り着いていたらしく、苦悩する俺達に勝ち誇った笑みで告げた。


「美馬坂も言っていたじゃないか、おとり捜査をしていたって。阿部真樟は尾張連合会の敵を探すために潜入していたんだよ」

「なるほど、そういう事か」


 尾張連合会への復讐は闇バイトアプリが拡散する以前から行われていた。


 阿部真樟の背後に狡猾な美馬坂がいるのならそれくらいしてもおかしくはないだろう。


「尾張連合会がターゲットになった場合は内通者だからどうとでもなるだろう。わざと失敗させてもいいし、相手の死を偽装するって手もある」

「それは阿部真樟本人も、デスか? あの動画にはデジタル透かしもありませんデシタし、鑑定の結果本物と認められマシタよ」


 ただコレットはまだ半分くらいはしっくり来ていなかった様で、まだ動画のデジタル透かしの謎にこだわっていた様だ。


「ああ、それならおおよそのトリックはわかる」

「なんと。この高性能なワタシを誤魔化せると思っているのデスか? 一体どんなトリックを使うというのデス?」

「何なら今再現してやろう。おいロッシー、しばらくジッとしてくれ」

「オウン?」


 俺は必要な道具をセッティングし、ゴロンと寝転がったロッシーを抱えて撮影しやすいようにソファーの上に置いた。


「まずはこうして、っと」


 俺は普段捏造に使っているカメラでロッシーを適当に撮影し、それをノートパソコンに取り込んだ。


「あくまでも今回はデジタル透かしを突破するトリックだから、細かい荒さとかは気にするな。本当は専用の撮影機材が必要なんだが」


 題材は何でも良かったので俺は適当にポチポチっと編集し、ロッシーは画面の中でソファーからジャンプして那智の滝を思わせる華麗なプロレス技を披露する。


「いえこれではデジタル透かしが、って何をしてるんデスか?」

「あとはこれをこうして」


 コレットを無視した俺は照明を微調整し、あえて画質が悪くなる様に改良を施したビデオカメラを用意した。


 三脚もあるのでこれで準備は万端だ。


「なっ!?」


 改良ビデオカメラの先にはパソコンの画面があり、古典的にも程がある手段にコレットは言葉を失ってしまう。


「海賊版映画の撮影と方法は同じだな。もちろん色ムラや光の反射や明滅周期に気を付ける必要はあるし、注意深く見ればバレるけど大体の奴はそこまでしない。少なくともデジタル透かしだけを確認して適当に済ませる方法ならまず見抜けないだろう」

「そ、そんな……こんな単純な方法で最先端技術が突破されるだなんて……!?」


 その方法はとてつもなくシンプルな方法であり、コレットはいとも容易くデジタル透かしを無力化され絶望してしまった。


「案外アナログな手法も馬鹿に出来ないだろう? 結局道具を使うのは人間だからね。思い込みや凡ミスで単純な方法を見抜けないのはよくある話だよ」


 呆然とする彼女の様に真矢はおかしそうにククッと笑い、阿部真樟の事件の推理を再開した。


「デジタル透かしを無力化する方法はいろいろあるからこの手法が使われたかどうかはわからない。だけど重要なのは警察が発表した『動画は本物』という主張はあてにならないって事さ」


 ディープフェイクを本物の映像に誤認させる手法はいくらでもあり、そして日々新たな手口が生み出される。いくら検査技術が発展してもいたちごっことなってしまうのだ。


「さて、それじゃあ阿部真樟が殺害された動画が作り物という前提に立つとして、一体誰が何のためにこの動画を作ったんだろうね」

「今わかっている確かな事実はこの動画がポート・ワカノーラから投稿されたって事だ。『スリラーナイトメア』のセットとの類似点もあるし、あの辺に転がっている物を撮影して動画の素材にしたんだろう」


 偽りの真実は粉々に砕け散り、俺はわかっている事実を拾い集め新たな真実を作り上げ、そこに別の推理で導き出した答えを組み合わせた。


「阿部真樟はおとり捜査をしていた可能性が生まれマシタが、もしも彼が投稿したとしたらその理由はなんデショウ。何故ポート・ワカノーラまで行って動画を投稿する必要があったのデショウか」

「動画を投稿したのは阿部真樟じゃなかったのかもしれない。別の誰かが動画を投稿して阿部真樟をおびき出したのかもしれない」

「動画を投稿したとしてそう上手く食いつきマスかね。誰かが悪ノリしたと思えばそれまでデス」


 コレットも反論し推理をより完璧なものにして組み立てる。これに対する反論は何があるだろう。


「そうだね。それはきっと殺害動画のこの部分が説明してくれるはずだ」


 真矢は俺よりも先に答えが分かった様で、タブレット端末を操作し処刑されるシーンを再生した。


『俺はジャン・バルジャンじゃないぃいッ! 俺は尾張連合会も中国マフィアも殺していないッ! ジャン・バルジャンは他にいるッ! がああぁあああッッ!?』


 チェーンソーで惨殺される様は何度見てもショッキングだが、これはフェイクだとわかっているのでもうそこまで恐ろしくはない。


 それにこの発言には重要なヒントが隠されていたので、俺はそっちの方が衝撃的だった。


「そうか、ジャン・バルジャン事件で阿部真樟は中国マフィアを殺した犯人として疑われていたが、別に尾張連合会を殺した犯人だとは誰にも疑われていなかったはずだ」

「そう。阿部真樟がおとり捜査をして尾張連合会の敵を探していたという事実は限られた人間しか知らないはずだ。彼が属していた尾張連合会と、対立していた犯人達以外はね」

「そして阿部真樟は犯人の思惑通りおびき出され、返り討ちにされて殺されたというわけデスか」


 ややこしい経緯や裏事情を抜きにすれば阿部真樟を殺したのは尾張連合会に復讐したい何者かだった。


 この推理が正しければ一周回って案外シンプルな真実だった様だ。


「もっと言えばポート・ワカノーラには美馬坂や尾張連合会の精鋭部隊も集まっている。もしかしたら連中もこの真実に辿り着いて行動を起こそうとしているのかもな」


 きっと同じ様におびき出された美馬坂達は今頃血眼になって組織に仇為す人間を探しているだろう。これではどちらが悪人なのかわからないな。

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