3-4 推理:流雨牛は何故殺された?
過去の事件を見直し、乾アロンドラの遺族が事件に関わっている可能性に辿り着いた俺達は次の推理を始めた。
「……それじゃあ次の事件だ。パトロンミネットの流雨牛は闇バイトアプリで殺されたらしい。これについての考察を始めよう」
続いて考察するのは流雨牛の殺人事件だ。
こちらも謎らしい謎は特にないが、まだ気付いていない真実があるかもしれない。
「とは言っても事件そのものはとてもシンプルだ。何者かが闇バイトアプリで殺害の依頼を出して流雨牛は殺された、それだけの事件だね」
「私人逮捕系配信者のパトロンミネットにも、バンドマン時代に事案を起こしていた流雨牛本人にもいくらでも殺される理由はアリマスね」
「滅茶苦茶嫌われてネットでも叩かれてたからな。言ってしまえば闇バイトアプリを手にしたら誰でも容疑者候補になるだろう」
パトロンミネットの中でも流雨牛は各方面から嫌われており、動機のある人間はいくらでもいるはずだ。
「パトロンミネットもまた尾張連合会を攻撃していマシタが、流雨牛に限っていればちょっと話は変わってきマス。普段SNSで飛び交っている殺害予告を闇バイトアプリに入力すればいいだけデスカラ」
「だよなあ。容疑者を絞り込むのは無理っぽいかもな。でも一応考えなきゃいかんだろう」
少しばかり辛辣な事を言ったコレットは肩をすくめて思考を放棄する。
やはりこの事件からわかる事は何もないのだろうか。
「ところでパトロンミネットはいつぐらいから評価される様になったんだ? 昔はただの迷惑系だったってSNSの書き込みにあったけど」
「はい、しばらくお待ちを」
コレットは検索機能を使いタブレット端末に欲しい情報をピックアップした。人工知能って本当に便利だ。
「堤さんの仰る通り、かつてパトロンミネットは泡沫と呼ばれるランクの配信者で評判も芳しくありませんデシタ。デスがある時期から評価が鰻登りになった様デス」
「何があったんだ?」
「ネクラ・クスクスの加入デス。それまでただの迷惑系だったパトロンミネットはネクラ・クスクスが提供する情報によって野放しにされた巨悪を捕まえるダークヒーローとなりマシタ」
画面にはパトロンミネットのネクラ・クスクスのドローンが映し出された。
キャラの濃い面々の中でもとりわけ訳の分からない奴だったが、こいつがパトロンミネットを変えたのか。
「そしてもっと正確に言えば……尾張連合会の関係者が次々と逮捕される様になりマシタ。特に尾張連合会と癒着していた大物代議士を辞職から逮捕に追い込んだ事で一躍名を馳せマシタね」
「尾張連合会って」
そしてコレットはまたしても尾張連合会の名前を出した。やはりここでも奴らの名前を聞く事になるのか。
「ネクラ・クスクスも尾張連合会に恨みを抱いているのか。まさかこいつはジャン・バルジャン事件の遺族なのか」
「わかりマセン。ネクラ・クスクスに関しては情報が一切ありマセンから。事実だと断言出来る数少ない情報はハッカーの技術がある事と、ドクターボビーの紹介でパトロンミネットに加入したという事デス」
俺はコレットに問い質すも彼女から帰ってきた答えはあまり有益なものではなかった。どうやらネットの情報はあまり当てにならないらしい。
「そう。なら僕はドクターボビーについて調べた情報を提供しようか」
だが推理が行き詰まりそうになった時、真矢はドクターボビーに関する書類を取り出した。
「ドクターボビーは元々個人で迷惑系配信者をやっていて、ジャン・バルジャン事件の遺族にも突撃して嫌がらせ行為をしていたらしい」
いつ、どうやって調べたのかはわからないが真矢はドクターボビーの裁判資料を取り出した。
「訴訟を起こしたのは乾アロンドラの娘の乾ラルーエットだ。難病を患っていた彼女は車椅子生活をしていたんだけど、スプレーをかけて裁判沙汰になったんだよね」
「そういえばSNSを調べていた時に、車椅子の奴にそんな事をしたって書き込みがあったな」
病気の遺族に嫌がらせ行為を行う――それは再生回数を稼ぐためとはいえ人として決してやってはいけない卑劣にも程がある行為に違いない。
「で、面白いのはここからなんだけど、どういうわけか話し合いがまとまって和解して、何故かドクターボビーはそれ以降告発系として名を馳せたんだよ」
「それって」
だが彼は裁判を切っ掛けに社会から永久追放されるどころか英雄に変貌してしまった。
全ては憶測でしかないが、それは彼に何者かが力を貸したと考えるのが自然だろう。
「もしかしたらネクラ・クスクスと、訴訟を起こした遺族の乾ラルーエットは同一人物かもしれないね」
真矢は少しずつ隠された真実を解き明かしていく。
ネクラ・クスクスは優秀なハッカーなので、もしかしたらドクターボビーの弱みを握って利用したのかもしれない。
「デスがそれと流雨牛の殺人事件は結びつきマセン。ドクターボビーが殺されるのならともかく、流雨牛はファンに手を出しただけの小悪党デス」
「まだ何も言ってないよ。でも君の言うとおり確かに口封じに殺したかもしれないけど、ネクラ・クスクスが流雨牛の殺害に関与した事を示す証拠はない」
コレットは先手を打って彼女が何かを言う前に反論するも、真矢はフッと笑って推理を続けた。
「では」
「だけどそんな人間がパトロンミネットに紛れ込んでいたのは事実だ。流雨牛殺害には関与していなくても、バレない様に何かをしていたのかもしれないね」
この推理が正しければネクラ・クスクスには復讐の動機が存在し比類なき技術もある。
まだ何もわかってはいないが、少しずつ流雨牛が殺された事件が解明されようとしていた。
「とはいえここで何かを言っても全ては憶測にしかならないだろう。流雨牛殺人事件の推理は一旦後回しにしようか」
「そう、デスね……」
しかし真矢はそれ以上推理する事はなかった。
根拠の存在しない推理はただの妄想であり、どんなに筋の通った真実だとしても証明する事は出来ないからだ。
結局流雨牛が誰になぜ殺されたのかはわからなかったが真犯人に結び付く手がかりは手に入った。
ネクラ・クスクスはジャン・バルジャン事件の遺族の乾ラルーエットだったかもしれない……その可能性は新たな真実を導くはずだ。




