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捏造探偵3~ジャン・バルジャンの罰~無情なる世界、愛と復讐の旅路【完結】  作者: 高山路麒


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3-3 推理:阿部真樟が起こした親父狩り殺人事件の推理

 俺達はエージェントが用意してくれた臨時の拠点に移動し、人数分のコーヒーを淹れて推理の準備を始めた。


「オウフ」


 ロッシーはむしゃむしゃとドッグフードを食べていつも通り寛いでいる。犬は環境の変化に敏感だがこいつにとってはどこ吹く風だった。


 コレットは首のチョーカーを外し、首の後ろにあった端子とタブレット端末をケーブルで接続し推理の準備を始めた。


「そんなのがついてたのか」

「はい。これでワタシが見聞きした映像やネットで検索した情報を映し出す事が出来マスよ」

「ほぉ、便利なもんだ」


 海外の警察はボディーカメラとかを身に着けていたりするが、自分の目と耳で証拠を記録出来るだなんて探偵としては是非とも欲しいガジェットだ。


「人間の記憶には限界があるけどコレットが記録した映像があればきっと推理の役に立つはずだ。上手く参照しながら推理を進めよう」

「はい! 調べたいデータがあれば何でも仰って下サイ!」


 コレットの能力は真矢も手放しで認めるもので、俺はようやくこいつが優秀な助手になると確信してしまった。


「助手になりたいって言ってたけど、こりゃちゃんと検討したほうがいいかもしれないな」

「ええ、上の許可が下りたら是非」

「そうか」


 惜しむらくは彼女はAI捜査官であり俺の監視という建前で飛ばされたという事か。


 彼女が既に組織に属している以上、お互いの意向だけで決められる話ではない。


「まず推理を始めるにあたって犯行動機の扱いはどうする? ミステリー小説じゃ必ずしも必要なかったりするけど」


 真矢はお菓子をつまみ推理のルールを定める。


 それはまるでこれから推理小説のプロットのネタ出しをするかのようだったが、彼女にとってはその程度の感覚なのだろう。


「そうだな。俺達の知らない所で接点があるかもしれない。それに極論人を殺してみたかっただけでも成立はする。動機は参考程度にして基本的には事実を重視しよう」

「承知シマシタ。ワタシもその点を考慮してデータを参照シマス」


 それにその辺りのルールは人間の俺と真矢にはあまり関係ないが、人工知能のコレットでは少しばかり事情が異なる。


 人間と同じ様に人工知能にもデータの偏りという先入観が存在する。彼女の検索機能を使う時はその点に留意しなければならないだろう。


「それじゃあまずは全ての発端となったジャン・バルジャン事件についての情報を整理しようか」


 真矢が最初の推理に選んだのはジャン・バルジャン事件についてだった。


 この事件は少し複雑だが、事件解決に必要な情報だけをピックアップする作業から始めよう。


「ジャン・バルジャン事件は諸々のややこしい事件を抜きにしてざっくばらんに説明すれば、少年犯罪と反社の抗争とよくわからない連続殺人事件が混同された事件だな」

「そうだね。もしもそれぞれの事件が完全に無関係なら乾アロンドラが殺された親父狩り、尾張連合会と中国マフィアの抗争、そして女性や子供が殺された連続殺人事件にそれぞれの犯人がいる事になるだろう」


 俺と真矢はまずジャン・バルジャン事件を三つの事件に分割し、コレットはタブレット端末にそれぞれの事件の資料を映し出した。


「乾アロンドラが殺害された事件については阿部真樟が主犯格である事は確定してイマス。事実上の司法取引で警察がやらかしマシタが事件そのものに謎は存在していないデショウ」

「暴力団同士の抗争も尾張連合会と中国マフィアが犯人だっていうのは疑いようのない事実だね。こちらにも謎らしい謎はない」

「とすると残りは連続殺人事件か」


 そして俺達はわかりやすくするために余計なものを取り除き、タブレット端末には手つかずの連続殺人事件の資料だけが映し出される。


「こちらの事件の被害者はもっぱら女性や子供ばかりデス。プロファイリングをせずともターゲットが全然違う事は一目瞭然デスね。一連の事件は自分だと警察に出頭した方はいたそうデスが」

「そういやそんな奴がいたな。ちなみにその出頭した奴ははどうなったんだ?」


 俺はあまり話題になっていないがもう一人の犯人候補がいた事を思い出した。


 SNSではよくいる目立ちたがり屋だと雑に扱われたがコレットならば何か知っているかもしれない。


「お察しの通り誰の相手にされませんデシタ。ただジャン・バルジャンの犯行とされた事件の内一件の傷害事件には関わっていたのでそのまま措置入院したそうデス」

「まあ、だろうな。検察はシナリオに沿わない証拠は適当に扱うしイタズラだと思ったのかもな」


 普通は出頭したら入念な取り調べを受けるものだが、これもまた警察の怠慢かもしれない。


「ちなみにこれが犯人の顔写真デス。なお名前は阿比留(あびる)次郎(じろう)と言いマス。一応彼も事件当時高校生デシタが、ほぼほぼ話題になりませんデシタね」

「ふーん。知らんなあ。でももしかしたら連続殺人事件の犯人はそいつだったのかもな。今となっては証明しようがないけど」


 コレットは出頭した少年の顔写真を見せてくれたが全く見覚えが無かった。


 なのでこいつは今回の事件には一切関わっていないのかもしれない。


「何にせよ遺族の方は報われなかったデショウね。事件のせいで暴力団関係者だから殺されたんだ、と誹謗中傷もあったそうデスカラ」


 彼女はニュースで報道されていない裏事情を悔しそうに語り、俺はその感情が籠った言い回しから言外の何かを感じ取ってしまった。


 ……いや、今は事実のみを整理しよう。余計な思考はノイズでしかない。


 雑念を捨てた俺は以前抱いた違和感を思い出し、コレットに問い質した。


「すまないがもう一度親父狩りで殺された乾アロンドラの写真を見せてくれ」

「はい」


 俺はタブレット端末に映し出された乾アロンドラの顔をまじまじと見つめる。


 だけどやっぱりどこかで見た気がするんだよな……。


「何度も聞く様で悪いが親父狩りで殺された乾アロンドラは暴力団じゃないんだよな」

「ええ、反社とは一切関わりが無い、至って真面目で善良な市民デシタ」


 乾アロンドラは暴力団関係者ではない。それは紛れもない事実なのだろう。


 やはりこの事件にただの親父狩り以外の可能性はないのだろうか。


「ふうん。ねぇ、ちょっと彼の隣に峯岸の顔を映し出せるかい? 尾張連合会の」

「え? はい」

「あとは峯岸を金髪ヘアーに加工出来るかい?」

「はあ、こうデスか?」


 だが真矢はしばらく観察してコレットにそう伝え、俺が抱いていた違和感はようやく目で見える形で可視化された。


「これは!?」

「ああ。きっとそういう事なんだろうね」


 乾アロンドラと髪を生やした峯岸は酷似していた。


 注意深く観察すれば別人だとわかるが、暗い夜道ならば同じ人物だと勘違いしてしまうかもしれない。


「そうか、乾アロンドラは峯岸と間違えられて襲撃されたのか!」

「そう。阿部真樟が起こした事件は親父狩りじゃなかったんだよ」

「そ、そんな……!?」


 世間一般では親父狩りとなっていたが、尾張連合会と繋がりがあった阿部真樟は当時対立していた中国マフィアの組織の構成員を襲撃しようとしていたのだ。


 峯岸は抗争があった時に坊主にしてイメチェンをしたらしいが、それは見た目を変えて少しでも狙われにくくするためだったのだろう。


 いずれにせよ乾アロンドラは完全に無関係な被害者ではあるが、その事実は別の可能性を導き出した。


「ヤクザの抗争に巻き込まれて乾アロンドラは殺され、遺族は暴力団関係者だから殺されたと中傷された。もしも遺族が事件に関わっているのなら尾張連合会に復讐しようと考えて当然だろうな」

「……………」


 一連の事件では尾張連合会が明らかに狙い撃ちにされている。


 動機は除外して考えるべきだと最初に決めたが、全く無関係だと考えるのは無理があるだろう。


 コレットもまた良からぬ可能性に思い至ったがそれを口にする事なく唇を噛みしめた。


 だが真実を知るにはまだ足りない。残酷な真実だとしてもまずは全てを知らなければ。

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