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捏造探偵3~ジャン・バルジャンの罰~無情なる世界、愛と復讐の旅路【完結】  作者: 高山路麒


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2-12 ポート・ワカノーラに潜入するジャベリン刑事

 その日の夜、閉園後のポート・ワカノーラにて。


 昼間の賑やかな雰囲気は一変し、中世ヨーロッパの旧市街の様な雰囲気も相まって明かりの消えた園内はまるで異界の様に不気味だった。


「うう、本当にやるのか? バレたら不法侵入になるぞ」

「喋るな、ただでさえお前はデカいんだから目立つだろ」


 強面な見た目に反して小心者なグレルオブザデッドは法令違反を免罪符に帰りたがっていたが、ドクターボビーはやや苛立ちながら注意した。


「別に関わりたくなけりゃそれでいい。あたしはサポート無しでも乗り込むから。昼間に下見も済ませたし一人でも大丈夫だよ」


 だがパトロンミネットのリーダーであるジャベリン刑事は仲間を殺された事で復讐心に燃えており、決意が揺らぐ事は無かった。


「つーかお前流雨牛の事嫌いじゃなかったか? 未成年に手を出して孕ませるとかああいうのはお前が一番嫌いなタイプだろ」

「ん……まあ確かに昔の事で嘘をついてたのは滅茶苦茶腹が立ったけどさ、それでも仲間だったから」


 バンドマン時代に未成年のファンと淫行をした流雨牛に、男性に対してトラウマがあるジャベリンは複雑な思いを抱いていたがそれは積み上げてきた絆に勝るものではなかった。


「そっか。なら俺も覚悟を決める」


 グレルオブザデッドはリーダーの決意に心を打たれ戦う決意をする。たとえ逮捕されたとしても最早恐れるものは何もないのだ。


「サポートは任せろ。警備員が来たら何とか誤魔化してやるよ」

「やれやれ、暑苦しいですねぇ。まあ自分も最低限の義理は果たしましょうか」


 ドクターボビーはあまり乗り気ではなかった様だが、彼もまた空気を読んで敵討ちに協力する事を選んだ。


『ドローンが壊れたままだから私はそっちに行けないけど、スマホは直しておいたから。上手く使って!』

「任せろ、クスクス! じゃあ行ってくるよ!」

「ああ!」

「行ってこい、ノシ」


 ジャベリンの手には頼れる仲間が修理したスマホがあった。言葉一つで悪を叩き潰す自分にはこの武器さえあればいい。


 防犯カメラと警備の目を避けながら園内に忍び込んだジャベリンは、周囲に誰もいない事を確認してからインカムでネクラ・クスクスと会話をする。


「でもスマホをバックアップしてくれていて助かったよ。ところでこれって名義は誰の物になるんだ? 前の奴は母さんのだったけど」

『そこはまあちょちょいと。詳しくは言えないけど無料で使い放題になったよ。でもバレないから安心して』

「はは、相変わらずだな。クスクスを仲間にしてよかったよ。おかげでボビーはちょっと肩身が狭くなったけど」


 パソコンの知識があるネクラ・クスクスはとんでもない事を平気でやってのける。


 彼女はそうした手段を用いて数々の悪人の罪を暴き、それによってパトロンミネットは名を挙げたのだが多くの視聴者はその事実を知らない。


「ボビーもそれなりだけどクスクスには負けるだろうね。何がバレないのかは詳しく聞かないでおくよ」

『ジャベリンだって親のクレカでいろいろ買ってたじゃん。どっこいどっこいだよ』

「あたしとは次元が違うと思うけどなあ」


 自分には彼女が何をしているのかは全く知らないが、おそらくそれは確実に法に触れるものなのだろう。


 ならば詳しく知らないほうがいい。


 ジャベリンはこの件についてそれ以上話すのを止め暗闇に包まれた園内を進んだ。


「……お母さんがここで働いてるからあまり来たくなかったんだよね。昼間は見つからない様にする必要があったから大変だったよ」

『ついでに嫌がらせ出来ると思えばいいんじゃないかな』

「それもそっか」


 ジャベリンは不安と心細さを誤魔化す様にクスクスと会話をする。


 ここにいるとどうしても自分を見捨てたあの女の顔が脳裏によぎってしまうが、ジャベリンは余計な事を考えない様にした。


「ねえ、クスクス。ジャン・バルジャン事件の犯人が殺された動画はポート・ワカノーラから投稿されたんだよね」

『うん。だからきっとここに犯人に繋がる手掛かりがあるはずだよ』


 彼女達もまたジャン・バルジャン事件の情報を求めてポート・ワカノーラに集結したがそれ以上の事は何もわからず、実の所行き当たりばったりな点は否めなかった。


「流雨牛を殺したのが捏造探偵なのか尾張連合会なのか、ジャン・バルジャン事件の真犯人なのかはわからないけどこのまま泣き寝入りなんかしない。何としてでも手がかりを見つけてやる……!」


 それでもジャベリンが行動する事を選んだのは仲間を殺した犯人へ復讐したいという一心からだった。


 闇夜に潜む野良猫の様に、彼女は地中海の旧市街地を模したエリアを進み続けた。


『ねえジャベリン。ポート・ワカノーラを調べてる最中にちょっと気になる事があって』

「気になる事?」


 彼女は小声で会話を続け、クスクスに指示を仰ぎながら応答する。


『ポート・ワカノーラのフードコートでマドレーヌを焼いてる土師仁太ってスタッフがいるんだけどさ。こいつの過去を探ってたらちょっとヤバくて』

「ヤバい? ヤバいって何が? その人とは昼間に会ったけど」

『いや、うん。というかほぼ答えみたいなものなんだけど……』


 クスクスはしばらく言い淀み、そしてジャベリンに衝撃の事実を告げた。


『阿部真樟の逮捕のきっかけになった親父狩りの殺人事件があるでしょ。あれの犯人グループの一人だったの』

「え!? それって!?」

『そんな奴がいる場所で主犯格の阿部真樟が殺された。流石に怪しさしかないよね』


 詳細な説明をせずともあからさまにも程がある事実は疑念を抱かせるのに十分だった。これを偶然の一致とするには流石に無理があるだろう。


「まさかジャン・バルジャン事件の真犯人は、その土師仁太って奴じゃ!?」

『可能性はあると思う。阿部真樟に昔の事をばらすって強請られたのかもしれないし、何かが切っ掛けになってまた犯罪に手を染める様になったのかもしれない』

「うん。そもそも人を殺して普通に暮らしている様な奴だしヤバい奴には違いないよね」


 話を聞いたジャベリンは土師仁太を要注意人物として認識した。とすると真っ先に彼について調べなければならないだろう。


「そっか……やっぱ人は見かけによらないんだな。わかってたけどあいつも良い人の皮を被ってただけだったんだ。マドレーヌ、美味しかったんだけどな」


 ジャベリンは自分に親切にしてくれた土師が極悪人だと知ってしまい嘆き悲しんでしまう。


 けれど裏切られるのはいつもの事だ。初対面の人間を疑いなく善人だと信じてしまった自分が悪いのだろう。


「クスクス。土師仁太はどこにいるの?」

『今は地中海エリアにいる。防犯カメラに映らない様に移動して』

「わかった」


 ジャベリンはアドバイスに従い、証拠を残さない様慎重に行動する。


 この辺りは地中海沿岸部の街並みを模しているが故に狭い道が多く、見通しが悪かったので不法侵入する分には比較的動きやすかった。


「そこにカメラ」

『そこにカメラがあるから気を付けて』

「うん。電波悪い?」

「かも」

『かもしれない』


 ただ遮蔽物が多いせいだろうか、インカムの音が割れノイズの様な声の後に大きな声が聞こえてしまう。


 これではいざという時に指示が聞こえなくなる可能性もある。ジャベリンは作戦遂行の支障になるのを懸念してしまった。


「ストップ」

『ストップ! そこで隠れて!』

「ととっ!」


 だがすぐに何者かの気配を感じ、クスクスから指示を受けたジャベリンは慌てて建物の影に身を隠す。


 息を殺して身を潜めていると石畳を踏むコツコツという足音が聞こえ、二人組の男女が話している声も聞こえてきた。


「お疲れ様です。南戸さん」

「今日もお疲れ様、土師君」

(ッ!)


 どうやら片方は土師仁太らしく、彼は自分もよく知っている中年の女性と会話をしていた。


 男がいないとやっていけないあの女は大方同年代の男に色目を使っているのだろう。だが今は一言一句聞き洩らさない様にしなければ。


「そう言えばこの前のあれ大丈夫でした? 男の人に話しかけられていましたけど」

「ああ、あれ? うん、何とか話はついたから。もう大丈夫よ」

「そうですか。困った事があったら何でも言ってくださいね」

「……ええ、ありがとう」


 土師は女を気遣い、彼女は媚びた様にそう答えた。


 何があったのかはわからないが大方男絡みでやらかしたのだろう。


 娘よりも男を優先する恋愛依存症のあの女はいつもそうやって過ちを繰り返してきたのだ。


 彼女に危害を加えようとしたと思われる男が地獄を見せてくれたのならば喜ばしい事この上ないが、くどい様だが今優先すべきは他にある。


 ジャベリンは雑念を振り払い改めて全神経を集中させて耳をすました。


「土師君はまだ仕事があるの?」

「ええ、スカイハイ・キャッスルのバルブ室に直す様に頼まれたので。もう残ってる仕事はそれくらいなものです」

「それって作業に使う道具か何か? 随分と大荷物だけど」

「あ、はい。すみません、ちょっとこの後用事があって急いでいるので……」

「そう、引き留めてごめんね」


 土師はあの女と仕事の会話をした後足早に去っていった。


 話の内容から察するにこれから何かを修理する為バルブ室に向かうのだろう。


 やがて音は聞こえなくなり周囲は再び静寂に包まれ、判断に困ったジャベリンは小声でクスクスに指示を仰いだ。


「聞こえた、クスクス。私もスカイハイ・キャッスルってところのバルブ室に行ったほうがいいかな」

『うん、それ……と……』

「クスクス?」

『……………』


 けれどインカムの声にはノイズが混じり、やがて聞こえなくなってしまった。


 どうやら無線が故障してしまったらしい。


「……仕方ないか」


 ここまで来て手ぶらで帰るわけにはいかない。


 ジャベリンはスカイハイ・キャッスルというアトラクションがある場所を園内マップで確認し土師仁太の後を追った。


 だが相手は凶悪で狡猾な殺人犯かもしれない。慎重に行動してし過ぎる事は無いだろう。

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