2-10 ジャベリンは実はいい子?
慌てて逃げ出したコレットを追ってお化け屋敷から出ると、俺達は意外な人物と遭遇してしまった。
「うげっ」
それはなんとパトロンミネットのジャベリンであり、俺は彼女を認識してすぐに身を潜めてしまう。
まさか執念深く俺を追ってきたのだろうか。
あるいはジャン・バルジャン事件の手がかりがポート・ワカノーラにあるとどこかから嗅ぎ付けたのかもしれない。
いずれにせよ見つかるのはマズい、気付かれる前に早めに立ち去らなければ。
「大丈夫ですか?」
「ごめんね、ありがとう」
だがジャベリンは何故か星場と一緒にいて、彼女が乗っている車椅子をどうにかして動かそうとしていた。
「んしょ、んしょ!」
どうやら段差に車輪が引っかかって動けなくなったらしいが、上手く救出出来ずに悪戦苦闘している様だ。
「何か困ってるみたいだね?」
「コレットが助けに行きマショウ。ワタシは顔が割れてイマセン」
「ああ、頼む」
このまま見捨てるのも忍びなかったのでコレットを派遣し、俺とニナはその場に隠れて待機した。
「星場さん、大丈夫デスか? ってアラ?」
「僕も手伝いますね」
「あら、コレットさん、それに土師さん」
だが同じタイミングで偶然土師もやって来て一緒に車椅子を動かす手伝いをする。人の良い彼は見て見ぬふりをするという選択肢はなかった様だ。
「きゃっ!?」
「わっ、ごめん!」
「う、ううん、大丈夫です」
ただその際土師の手がジャベリンの手に触れ、彼女は思わず悲鳴を上げてしまう。
そういえば流雨牛の殺害現場に駆け付けた際封鎖していた警察官に体を触られた時も怖がっていたけど、ジャベリンは男性が苦手だったりするのだろうか。
「よいしょっと」
「ふう、助かったよ。本当にありがとう!」
三人がかりで協力したおかげで車椅子は簡単に動かす事が出来、星場の救出作戦は無事完了する。
「いえいえ、そちらの方もありがとうございます」
「ああ。君も手伝ってくれてありがとうね」
見た目こそ不良少女っぽいがジャベリンは二人に感謝しペコリと頭を下げた。
見ず知らずの人を助けるあたり、私人逮捕系をしているとはいえ性根は良い子なのかもしれない。
「お礼もしたいし後でマドレーヌでも食べていきなよ。お金は私が払っておくから。土師さんのマドレーヌは絶品だよ」
「え!? いいんですか!? 雑誌に載ってた奴ですよね!?」
また年頃の少女らしくスイーツに目が無い様で、有名なマドレーヌを食べられると聞いたジャベリンはとてもはしゃいでしまった。
「ええ、全然構いませんよ。でもお金なんていいですって。僕のほうからもお礼をしたいですし。お代は優しさと笑顔で十分ですよ」
「駄目だって、その辺はきちっとしないと。土師さんは良い人すぎるんだから」
一方優しさの塊の土師もにっこりと笑ってそんな提案をして星場に窘められてしまう。
「まあまあ、お金は払いますからとにかくマドレーヌを!」
「ならせめて試作品を食べていって下さい。星場さんもあれなら売り物じゃないからいいですよね?」
「やれやれ、それもそうだね」
優しさが衝突して双方が妥協した結果最終的にジャベリンは店で売っていない美味しいマドレーヌにありつけた。
なんだか優しい絵本の様にほのぼのとする光景である。
しかし逃亡犯の俺は輪の中に入る事は出来ず、ニナと一緒に身を隠しながら彼女達が立ち去るまでずっと待っていた。
「うーん、土師さんは相変わらずだけど、ジャベリンって実はいい人なのかな」
「かもな」
「お待たせシマシタ~」
ニナとそんな事を話し合っていると程なくしてコレットが戻ってくる。
ジャベリンの優しさを垣間見れたのは良かったが、あいつに見つかるといけないしマドレーヌを食べている間に探索を切り上げたほうがいいかもしれない。




