2-9 スリラーナイトメアの調査
「さて、気を取り直して調査を再開しよっか、パパ!」
「そうか。ならどうして水鉄砲を持っているんだ?」
アトラクションを存分に楽しんだニナは水鉄砲を構えており万全で次なるアクティビティ、『スリラーナイトメア』の準備を整えていた。
「ぶーぶー。いいじゃん、たまには家族サービスもしてよー」
どうやらニナは微塵も依頼には興味が無いらしくそっちのけで楽しむつもりらしい。子供に探偵の仕事手伝わせるつもりもないので別にそれはそれで構わないのだが。
おどろおどろしい室内には有名なゾンビモノ作品のポスターが貼られており、クリーチャーを水鉄砲で撃つ感じのアトラクションだ。
元々はアニメなので一見すると子供向けっぽいアトラクションだが年齢制限もあり、凶悪なクリーチャーのポスターや雰囲気があり過ぎる入口からして高学年や中高生をターゲットにしたものらしい。
「まずは事件の捜査をしないといけないだろ。真矢に代わってくれるか?」
「はいはい……じゃあ遊ぼうか、サンチョ君! さあ行くよ!」
「同じじゃねぇか」
真矢に助けを求めるが彼女も全く同意見であり、俺は体たらくっぷりに頭を抱えながらコレットのほうを見る。
「あ、自分は水鉄砲NGなので後ろのほうで見学させてもらいマス。ちゃんとゾンビから護って下さいね」
「いや女優じゃねぇんだから」
コレットは水に濡れるのが嫌だったのか少し離れた場所にいた。子供は気にしないかもしれないが大人ならば普通はそんなものだろう。
俺は渋々ながらアトラクションに参加し、真矢を援護しながら室内のゾンビを倒していた。
難易度的にはそこまでシビアではなくお化け屋敷的な要素が強い。いきなりゾンビが現れたらびっくりはするが適当に撃っていれば倒せる感じだ。
「シャー!」
半魚人ゾンビは原作では結構強いらしいが、そんな変異ゾンビが水鉄砲のワンパンで絶命する様は何ともシュールだ。
クリア時にスコアが出るらしいが特に何かをしたらクリア、というような条件は設定されていないので実はゾンビを撃たなくても問題なかったりする。
「ほうほう、これはなかなかの造形美デス」
「そんなにみつめたらてれるよー」
なのでコレットの様にハムスターの様な着ぐるみを着たもふもふゾンビを観察するという楽しみ方も間違いではない。
だけどこんな所にももふもふ君がいるとは。和歌山だからパンダっぽい模様だけど、こいつらはどこでもバイトをしているんだな。
「見学するくらいなら仕事をすりゃいいのに働く気はないのか」
「ちゃんと今も園内のシステムをハッキングして探ってイマスヨ。ワタシの事はお気になさらず」
「そうか」
どの様な手段を用いているのかはわからないがコレットは独自の方法で調査をしているらしい。
現場で泥臭く捜査をするのは前時代の話でこれも時代の流れなのだろう。人工知能革命は探偵モノにも猛威を振るっているのだ。
「それに堤さん、ワタシはここに遊びに来たわけではアリマセン。あなたも当然気付いてマスよね」
「何にだ」
「え、マジデス? こんな事もわからないなんてあなたポンコツなんデスカ?」
「だから何がだよ」
だがコレットは何かを伝えようとし、小馬鹿にした態度をとってうざったい笑みを浮かべた。
「そうデスネ。例えばあの小道具に見覚えがありマセンか?」
「ん? って、あれ」
俺は当初何もわからなかったが、彼女の視線の先にあるアトラクションのセットを見てようやく気付いてしまった。
「阿部真樟が処刑された動画にあったものと似てるな。同じものとは断定出来ないが。それに床とか壁の質感とかも……まさか」
「ハイ。この場所にはあの動画との類似点が数多く存在シマス。ワタシは阿部真樟殺害の動画がここで撮影されたものと推測シマス」
コレットはドヤ顔で推理を披露するが、あながち間違いではないかもしれない。
小道具はどれもこれも見覚えのあるものばかりであり、少なくとも犯人が元ネタのアニメを意識したのは間違いないだろう。
「ホラー系のアトラクションで実際に人を殺したのか。そういう怪談があった気がするなあ」
「あくまでも可能性デスけどね。そういうわけなので堤さんも怪しいものが無いかよく観察してくだサイ」
「なら私はパパ達がちゃんと捜査出来る様にゾンビをやっつけるね!」
ニナに戻った愛娘はアニメの主人公様に決めポーズをとって捜査の妨げとなるゾンビを倒してくれた。実際に襲い掛かって来るわけではないので無視をしても別に構わないのだが。
殺害現場かもしれない、という事を意識すると全てが恐ろしいものに見えてしまう。
血塗れの牢屋と、うつ伏せになって横たわったゾンビの死体。
凶器に使われたかもしれないノコギリ。
得体の知れないホルマリン漬けのクリーチャー。
鼻提灯を膨らませて幸せそうにお昼寝しているキノコの魔物。
「むにゃー。かんづめいっぱーい」
うん、最後のは多分違うな。それにしてもちゃんと喋るだなんて良く出来た小道具だなあ。
「ギシャー!」
「わわっ、キングディーパだ!」
「おっと」
しかし注意深く観察しているとボス級の半魚人ゾンビが現れ襲い掛かる。どうやらこいつがゴール地点の番人の様だ。
「ぴゃー!? 堤さん、ワタシを護って下さい!」
「んな事言われてもなあ」
凶悪な見た目の割に繰り出した技は水タイプのモンスターが最初に覚えそうな水鉄砲だったが、水に濡れるのが嫌なコレットは物凄く嫌がり大慌てで逃げ惑う。
もう調査出来るものもないし別に素通りしてもいいが、折角だし娘との想い出を作るのも兼ねてサクッと倒すか。
「パパ! こういう時はロケランだよ! 私が動きを止めるからとどめを刺して!」
「わかった!」
ニナは水鉄砲を乱射してキングディーパの動きを止める。
とはいっても柵の内側まではやって来ないし、お化け屋敷には触ったらいけないというルールがあるのであいつが直接攻撃してくる事は無いのだろう。
中の人はなかなか優秀なスーツアクターで本物の怪物の様だ。アトラクションにさほど興味が無かった俺もいつの間にか世界観に引き込まれてしまう。
「ロケラン……これかッ!」
俺はわかりやすい場所にあったロケットランチャーを発見、すかさず構えてキングディーパに向ける。
ぶっつけ本番、外したらそれで終わりだがやるしかない!
「食らいやがれッ!」
俺は力いっぱい引き金を引いて水の塊を発射しとどめを刺した。だが力を込め過ぎたせいだろうか、思った以上に水が爆散してしまう。
「ギシャー!?」
「ふぎゃ!?」
「わぶー!?」
その結果キングディーパだけでなく味方も全滅してしまい、水に濡れるのを嫌がっていたコレットもずぶ濡れになってしまった。
「スマン、大丈夫かコレット?」
「……………」
驚いたせいでコレットは倒れてしまいピクリとも動かなかった。まさか変な場所を打ってはいないだろうかと一瞬不安になってしまったが、
「うぉ!?」
彼女はパフォーマーの様に手を遣わずにぐにんと跳ね起き、マリオネットが動き出す様に左右の肩をギィコ、ギィコと動かしてから顔を持ち上げた。
「まったく、なんばしよっとデスか! ぬーちらちかりんどー!」
「ぬ、ぬーちらちかりんどー?」
「おっとっと。あーテステス、言語データの再取得をシマス」
憤慨するコレットは自らの頭をポンポンと叩きマイクのテストをする様に発声する。
「ふう、これだから水に濡れるのは嫌なんデス」
俺達は呆気に取られていたが、すぐに普段の彼女に戻った。
「おー、なんか凄いね! コレットちゃんロボットみたい!」
「なな!? ワタシはロボットではアリマセン!」
「一昔前の人工知能のチェックかよ」
ニナは一連の動作に感激して賛辞を贈るが、コレットは両腕をカクカクと上下に動かし大慌てで否定する。
「ほら、用事は済んだので早く行きマスよ! はよはよデス!」
「あ、ああ」
全力で誤魔化した彼女は右手と右足を同時に動かし早歩きでその場から立ち去る。
なんか怪しさしかないが……あまり気にしないでおこう。




