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捏造探偵3~ジャン・バルジャンの罰~無情なる世界、愛と復讐の旅路【完結】  作者: 高山路麒


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2-7 南戸照江が犯した罪

 その日の夜、仕事終わりの南戸照江は疲れた様子で帰宅の準備をしていた。


 家に帰っても楽しい事は何もなく、料理を作るのも億劫だ。


 彼女はいつも通り売れ残りの総菜で済ませようと園内の市場へと向かった。


 自分はいつまでこんな日々を繰り返すのだろう。


 南戸照江の心は虚しさと絶望感に包まれていた。


 家族がいればまた違っていたのかもしれない。


 あの時に正しい選択をしていればまた違った未来が訪れていたのだろうか。


「南戸さん、お疲れ様です」

「あら、土師君」


 だが陰鬱な気持ちは同僚の爽やかな挨拶によってすぐに霧散してしまう。


 彼女に話しかけた土師もまた総菜を買った帰りだった様で、左手にはパック詰めにされた総菜が入ったビニール袋が入っていた。


「土師君も今帰り?」

「ええ。市場の売れ残りが買えるのは役得ですよね」

「うふふ、そうね」


 何気ない会話は孤独を満たし、南戸の心の中には暖かなものが広がった。


 自分は恋愛絡みで何度も過ちを犯したというのに全く学習していないらしい。


「今日は随分と買い込んだんですね?」


 土師は普段より多めの買い物をした南戸の様子が気になったらしい。


 こうした何気ない変化にも気付いてくれるのは彼の良さでもあるのだろう。


「ナゴヤで暮らしている娘が和歌山に来ているの。といっても友達と来ているみたいだから家で食べるかどうかはわからないけど、一応準備くらいはね」

「へえ、それはいいですね」


 南戸は笑みをこぼしながら理由を言ったが、それは半分嘘だった。


 自分の事を嫌悪しているはずの娘が家に来るはずがない。


 それでも彼女は希望を捨てきれず、娘をもてなすために未練がましく大量の総菜を買い込んでしまった。


 けれどそんな痛々しい真実を彼に知られるわけにはいかない。


 南戸は彼に嫌われない様に理想の母親の仮面を被り続けた。


「なーにくだらねぇ深夜ドラマみたいな事をしてるんだ。娘より男を選んだくせによ」

「ッ!」


 だがそこに一人の男がへらへらと笑いながら現れ、そう告げられた南戸の顔からは笑顔が消えてしまった。


「南戸さん? えと、知り合いですか……?」

「い、いえ……」


 土師は不安げに尋ねるも、何もわからなかった南戸は首を横に振る。


 輩の様な男と面識はなかったが、彼は自分の目を見ながら言ったのでおそらく自分が過去に犯した罪の全てを知っているはずだ。


「ああ、いきなり声をかけてすまないな。俺は別にあんたに危害を加えるつもりはないから安心してくれ」


 どう見ても真っ当な仕事をしている様に見えない男は何者なのだろうか。まさか別れた夫の関係者なのだろうか。


「この前ナゴヤで流雨牛っていう配信者が殺された事件があるだろ。それでちょいと聞きたい事があるんだが、いいよな?」

「え……」


 だが南戸はその言葉で全てを察してしまった。


 男が何者で、何のために自分に会いに来たのかも。


「南戸さん? 大丈夫ですか?」


 何もわかっていない土師は心配そうに南戸に声をかけ、彼女はようやく我に返った。


「だ、大丈夫よ。私はこの人と話をしたいから土師さんは先に帰って」

「え? はい。いいんですか」


 しかし土師の思考が固まる前に南戸は拒絶の言葉を言い放って突き放す。心優しい彼はきっと救いの手を差し出すと考えたからだ。


「うん。いいから。男と女にはいろいろあるのよ」

「……そうですか、わかりました。」


 後ろ髪を引かれる様子の土師は何度か振り返りながらこちらの様子を伺うも、その場から離れていく。


 しばらく時間が経過し、南戸は土師が視界から消え去った事を確認してから男に話しかけた。


「それじゃあ場所を変えましょう。言っておきますけど知らない事は答えられませんから」

「構わない。知っている事だけ話してくれればな。嘘をついたり誤魔化したりしたら痛い目を見てもらう事にはなるだろうが、そんな事はしないよな」

「ええ」


 男に脅された南戸は理解する。やはり自分が犯した罪からは逃れられないのだという事を。


 部外者を巻き込むわけにはいかない。そう考えた南戸は全てを自分だけで背負う事にした。


 ならば他の誰にも頼らず、自分が責任を持ってケジメを付けなければならないのだろう。


 そう、どんな手段を使ってでも。


「……………」


 だがしばらくして戻って来た土師は闇の中に去っていく二人を睨みつけ、決して気付かれない様静かに尾行をする。


 その時の彼の瞳は昼間に見せる顔とは違って狂気じみており、すれ違った通行人はすぐに目を逸らしてしまった。

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