1-10 堤三千世の逃亡生活の始まり
謎のラテン系美女のエージェント、ミシェルの助けで事件現場から逃れた俺は車内でようやく一息つく事が出来た。
「助かったよ、ミシェル」
「感謝されるほどの事ではありませんよ」
彼女達の素性はわからないが愛知県警よりは権力を持っているはずだ。揉め事が嫌いな日本の警察は迂闊に手を出せないだろう。
「堤さん、ワタシにはお礼の言葉はないのデスカ?」
「いやいきなり警察官にジャーマンスープレックスを決めたお前のせいでややこしくなったんだろうが」
「むう、そうデスカ。警察官にジャーマンスープレックスを決めてはいけないのデスネ。コレットは学習シマシタ」
トラブルメーカーのコレットは悪びれる様子もなく涼しい顔をしていた。
だけど実際あそこで何かをしていなければ捕まっていたかもしれないし、一応感謝はしておこう。
「ミシェルと知り合いって事はやっぱりお前もそうだったんだな」
「ハイ。詳しくは言えませんが、ワタシはミシェルさんと同じ組織に所属しておりマス」
ここまであからさまな事をした以上関係性を隠す事は出来ないと考えたのか、俺が問い質すとコレットは素直に謎の組織のエージェントである事を認めた。
正直ミシェルがどういう組織に属しているのかよく知らないが、カラマーゾフ事件の時は助けてくれたので基本的には味方だと認識して差し支えないのだろう。
「で。結局何が起こってるんだ? イマイチ状況が飲み込めないんだがミシェルは知っているのか」
「はい。堤さんもご存じの通り、私人逮捕系配信者グループのパトロンミネットの流雨牛さんが殺害されました」
俺は状況を確認する為ミシェルに尋ねると、おおよその事情を把握していた彼女は簡単に説明してくれた。
「元々バンドマンをしていた彼は女癖が悪く猥褻事案の前科があり、また私人逮捕系の配信をしていたせいで各方面から恨まれていましたが、直前に堤さんとトラブルになったせいで貴方が疑われている様です」
「んな事を言われてもなあ。俺は連中と今日出会ったばかりだぞ」
俺は改めて巻き込まれただけだと理解しげんなりとしてしまう。
だが事態を打開するためにももっと詳しく事件について知らなければいけないだろう。
「あいつらが調べていたジャン・バルジャン事件つったらアレだよな。親父狩りだかヤクザの抗争で人が死んで、犯人が出所後に闇バイトで殺人事件を起こしたとかそういう。それがどう俺と繋がるんだ」
ジャン・バルジャン事件について俺はニュースで報道されている以上の事を知らないが、元々は冤罪だったとか真犯人が別にいるとかそんな感じの事件だったはずだ。
だが当時少年だった主犯格の少年は最近起きた闇バイト殺人事件の容疑者となり、やっぱり冤罪じゃなかったとかそういうややこしい事になっている。
マスコミや大衆はこの手のミステリーの様な事件や少年犯罪が大好物だ。
俺からすればこの事件に謎なんて呼べるものは無いが、今現在世間で最も注目を浴びている事件に違いない。
「何も繋がりません。世間がどう思っていようと警察は貴方が無関係だと知っているので捜査する事はないでしょう」
「だろうな。警察がそんな無駄な事をするわけがない」
とばっちりを食らっただけとはいえ全容を把握する為にも後でちゃんと調べたほうがいいだろう。
無罪だという証拠を作るにしても、まずはどのような事件なのか知らない事には始まらないからだ。
「けどニナとロッシーはどうすっかなあ」
当面のプランはそれでいいとしてやはり問題はニナとロッシーだ。
俺のヘマに彼女達を巻き込むわけにはいかないし、まずはそちらの対処を最優先にしなければ。
「ご安心を。堤さん達には当面の間和歌山のほうに滞在して頂きます。ほとぼりが冷めるまで休暇を満喫してください」
「和歌山? 随分と急な話だな」
だが俺が思案する前にミシェルは奇妙な事を言った。
至れり尽くせりではあるが、こいつらが親切心だけでそんな事をするわけがないし何かしらの魂胆があるのだろう。
「大丈夫デス! 堤さんの逃亡生活はパーフェクトなエージェントであるワタシがお手伝いをさせていただきマス!」
「それが一番不安なんだが……まあいい」
一番の問題は変人のコレットが俺のサポート役になった事だろうか。せめてミシェルならよかったけど当面の間我慢するしかない。
「仕方ない、たまにはのんびり休暇を楽しむとするかね」
けれど俺には選択権が存在しなかったので渋々この現実を受け入れた。
イマイチ和歌山に何があるのか知らないが、問題が解決するまではしばらく観光でもして過ごすしかないのだろう。
和歌山と言えばパンダだっけ。いや、もう中国に返還されたか。
うーん、何も思いつかん。和歌山旅行……何をすればいいんだ?




