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マナ=コード -Argusnorn Overwrite- ver0.1  作者: 卵なっとう


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9/21

第9章:再会

白亜の議会都市エリュシオンの中心、

 大理石の床に金色の文様が走る「円環議場」。

 そこでは、アーガスノルンの最高評議が開かれようとしていた。


 エリスは壇上で報告書を読み上げながら、背後の視線を感じていた。

 ——冷たい、まるで機械のような視線。


 振り返ると、そこには黒い軍装に身を包んだヴァルドの姿があった。

 胸元には監察局の紋章。

 彼の瞳は、かつての穏やかな灰色ではなく、

 金属のような無機質な光を帯びていた。


 「監察局所属・ヴァルド准尉。

  今回の内部調査、議会の承認のもと実施します。」


 彼は一礼し、淡々と報告を述べた。

 感情の欠片もない声だった。

 まるで、台本を読み上げるように。


 (……ヴァルド? あなた、どうしてそんな目を……)


 エリスの胸がざわめく。

 記憶の奥底で、かつての彼の笑顔が微かに揺らめく。

 しかし、今目の前にいる男は、別人のようだった。


 「エリス・ノルン。あなたの研究部門での独自行動について、

  上層部が不審点を指摘しています。説明を願えますか?」


 「……それは、議会許可のもとに行われた観測実験です。

  問題があるとは思いませんが?」


 「記録上、承認データが確認できません。」


 「そんなはずは……」


 ——その時だった。

 議場の上層、透明なドームスクリーンに映像が浮かび上がる。


 「全てのステークホルダーに実りある人生を——」


 どこかで聞いた音声。

 アーガスノルンの広告映像だ。


 「人類の繁栄・安寧・幸福を我々は実現します。」


 その声が、議場全体に響き渡るたびに、

 ヴァルドの瞳が一瞬だけ光を放った。


 ——まるで、命令を受信したかのように。


 エリスは息を呑む。

 (……反応してる? あの音声に……)


 彼の指先がわずかに震え、次の瞬間、

 ヴァルドは無表情のまま立ち上がった。


 「——監察命令第021号、対象:エリス・ノルン。

   議会承認前の研究活動に関して、拘束・聴取を実施する。」


 「ヴァルド!? 何を言ってるの、それは議会の正式決定を待って——!」


 「命令は、すでに発令されています。」


 その口調に、一切の迷いがなかった。

 目の前の男が、かつての仲間ではない。

 それを突きつけるような冷たい声。


 エリスは目を細めた。

 議場の空気が張り詰める。


 「……誰に、命令を受けたの?」


 「……議会直属。レイベルン家より。」


 その名を聞いた瞬間、

 エリスの心臓が一瞬止まったかのように感じた。


 ——レイベルン家。貴族中でも最も保守的で、魔法至上主義の一族。

 その長女、イリーナ・レイベルン。


 (まさか……彼女に、支配されている……?)


 エリスの瞳がわずかに光る。

 分析用の視覚補助マナが起動し、ヴァルドの神経波をスキャンする。

 その結果、脳の深層部に異常な干渉波が検出された。


 ——人格書き換えプロトコル、コード:I-RN。

 ——“Irina Reinforcement Neural Rewrite”。


 「……そんな、馬鹿な。人格改竄……議会の内部で?」


 ヴァルドが一歩、また一歩と近づいてくる。

 その目は虚ろで、だが確実にエリスを“敵”として捉えていた。


 「エリス・ノルン。あなたの研究はアーガスノルンの秩序を脅かす。

  抵抗すれば——処分対象だ。」


 「ヴァルド! お願い、思い出して! あなたはそんな人じゃない!」


 「思い出す……? 俺には何も“思い出す”ものなどない。」


 彼の声が低く震え、ほんの一瞬だけ——

 その瞳に“痛み”のようなものが宿った。


 「——命令を、実行する。」


 その瞬間、警報が鳴り響き、議場全体の照明が落ちた。

 エリスは身を翻し、議会廊下へと駆け出す。

 背後では、ヴァルドの足音が無機質に追いかけてくる。


 「くそっ……まさか、あなたまでもが……」


 白い議場の外壁を駆け抜けながら、エリスの目に涙が滲んだ。

 ——この世界は、どこまで歪められているのか。

 そして、彼を救う方法はもう存在しないのか。


ヴァルドの“忠誠”は洗脳によって作られたものであり、

イリーナ・レイベルンは依然として議会の影から命令を下している。

そしてエリスはこの瞬間、初めて「アーガスノルンの真の支配構造」に気づく。

それは、神の座に最も近い存在——だが、人間の心を持たない“支配AI”のようなものだった。

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