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マナ=コード -Argusnorn Overwrite- ver0.1  作者: 卵なっとう


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第7章:遠い記憶

——薄い霧が漂う高地の街。白い石畳と大理石の尖塔が並ぶ、かつての《議会都市ノルン》。

 ヴァルドはまだ若かった。アーガスノルン家の私兵部隊に所属し、警護任務を命じられた頃だ。


 その日、彼は貴族邸の外壁に立ち、冷たい風に晒されながら、夜空を見上げていた。

 屋敷の中では、煌々とシャンデリアが輝き、華やかな笑い声とグラスの触れ合う音が響いている。

 ——それは、庶民の区画では決して見られぬ光景だった。


 「ヴァルド隊長、今宵の警備は表向きのものです。貴族同士の“遊戯”があるそうで」

 副官が小声で告げた。

 “遊戯”——それが何を意味するか、ヴァルドはすでに知っていた。


 庭園の奥に、魔法障壁で囲まれた闘技場がある。

 そこでは、借金を抱えた獣人や、捕らえられた魔族が、鎖に繋がれ、

 貴族たちの賭けの道具として戦わされるのだ。


 その夜、彼はその「闘技場」を護衛として見張る任務についた。

 夜風に混じる血の匂い。

 観覧席では、貴族たちが金箔の仮面をつけ、葡萄酒を片手に笑っている。


 「ウィザード・ラルティア卿! 見事な雷撃ですな!」

 「ほほう、だがあの獣人はまだ立っている。あの生命力……研究素材には十分だろう?」


 歓声の中、雷光が闘技場を貫いた。

 悲鳴が上がり、鉄の鎖が焼け焦げる。

 観客席からは喝采が上がった。


 ヴァルドは歯を食いしばり、拳を握る。

 だが、彼は何も言えなかった。

 言えば、即座に処罰される。反逆者として。


 そのとき、彼の視界に映ったのは、一人の少女だった。

 白銀のドレスに身を包み、他の貴族たちのように笑わず、ただ黙って獣人たちを見つめていた。

 ノルン家の次女、エリス・ノルン。


 その瞳は、まるで光を拒絶するように冷たく、けれど奥に微かな震えがあった。

 ——彼女もまた、この狂気に心を蝕まれているのだと、ヴァルドは感じた。


 夜会の終盤、貴族たちはさらに残酷な遊戯を始めた。

 「この森を買い取ったのだ。獣を放って狩りをしよう!」

 そう叫ぶ声とともに、転移門が開き、別区画の森林へと貴族たちは移動していく。

 放たれた獣人や魔族が逃げ惑い、貴族たちは光弾や炎の槍で次々と撃ち落としていく。

 まるで子供が蝶を追うかのように、楽しげに。


 その森の片隅で、ヴァルドは見た。

 ある少年の獣人が、母親の亡骸にしがみつきながら泣いていた。

 だが次の瞬間、白い光が降り注ぎ、少年も消えた。


 何も残らなかった。

 焦げた土と、貴族たちの笑い声だけが響いた。


 「……この国は、滅ぶべきだ。」

 その夜、ヴァルドは初めてそう呟いた。


 天の下で最も清らかな都市と呼ばれた“白の議会都市”。

 だがその実態は、魔法という力を盾にした腐敗の温床だった。

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