表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マナ=コード -Argusnorn Overwrite- ver0.1  作者: 卵なっとう


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/21

第5章:封印された実験区画

薄汚れた空の下、スラムの街角を風が通り抜ける。

 錆びた鉄骨と崩れかけたホログラム看板の合間を縫うように、レオンは歩いていた。


 足元の舗装は割れ、ところどころに黒く焦げた痕がある。

 昔、ここで何かが爆発したのだろう。

 けれど誰も気にしない。人々はただ、生き延びることだけを考えている。


 その中で、レオンの胸だけが、異様な熱を放っていた。

 ——あの夜、白い都市で見た夢。

 実験台に拘束された“自分”。無機質な声が名を呼ぶ。


「Elysion試験体07号、マナ反応安定。記録開始。」


 夢の中で聞いたその言葉が、現実のように頭から離れなかった。

 それに——あの議員、エリスの瞳が示す“何かを知っている”という確信。


(俺は……誰なんだ?)


 レオンは、古い地下鉄の入口に立ち止まった。

 ここはもう何十年も封鎖されている。

 アーガスノルンが都市再開発を進めたとき、地図上からも消された場所。


 しかし、黒市で手に入れた古いデータ端末に、ひとつの座標が浮かび上がっていた。

 ——「Elysion区画07」。


 扉には「立入禁止/監察局管理下」の赤い警告サイン。

 レオンは深く息を吸い、マナの制御を試みる。

 胸の奥の青い光が脈動し、右手の指先に微かな電流が走った。


「……いけるか」


 錠前に触れる。

 火花が弾け、電子ロックが焼き切れる。

 扉が重い音を立てて開いた。


 地下へ続く階段は長く、息が詰まるほど静かだった。

 壁の照明はほとんど死んでおり、点滅する光が断続的に通路を照らしている。


 やがて、行き止まりに巨大なシャッターが現れた。

 そこには、薄れて読みにくくなった文字が刻まれている。


「Elysion-Laboratory 07 - Advanced Human Integration System」


 レオンは手を伸ばす。

 指先が冷たい金属に触れた瞬間、記憶が脳を突き抜けた。


 ——眩しい光。白い実験服。

 ガラス越しに自分を見下ろす、誰かの姿。

 その人が、優しく微笑みながら言った。


「大丈夫よ、レオン。あなたは人類の希望になる」


「……エリス?」


 呟いた瞬間、シャッターが自動的に開いた。

 中には、静まり返った巨大なホール。

 無数のカプセルが並び、その中には——半透明の液体に沈む“人間”の形があった。


 レオンは凍りつく。

 その中の一体が、まるで鏡のように自分と同じ顔をしていた。


「俺の……コピー?」


 心臓が荒々しく脈打つ。

 カプセルのラベルには「EL07-R2」と書かれていた。


 その瞬間、天井のスピーカーから冷たい電子音が響く。


「未承認アクセスを検知。防衛システムを起動します」


 赤い警報灯が点滅し、通路の奥で機械音が鳴る。

 鋼鉄の兵士——アーガスノルン製の自律警備ドローンが、無音で滑るように現れた。


「クソッ……!」


 レオンは両腕を構えた。

 体内のマナが一気に反応し、掌から青白い光が噴き出す。

 その光は空気を震わせ、プラズマの矢となってドローンの装甲を貫いた。


 爆発音。火花。

 しかし、すぐに別のドローンが数体、壁を破って出現する。


「対象確認——Elysion試験体07号、再捕獲を開始します」


「……やっぱり、俺は——“実験体”だったのか!」


 レオンは吠えるように叫び、両手を広げた。

 マナの奔流が空間を歪め、爆風が吹き荒れる。

 床の金属が剥がれ、カプセルが次々と砕け散った。


 その中から——ひとつの小さなホログラムが再生される。

 ノイズの向こうに、白衣を着たエリスが映し出される。

 録画された昔の映像だ。


「もし、あなたがこの記録を見ているなら——私の計画は失敗したのでしょう。

でも、お願い。まだ、あなたを“人間”として取り戻す道はある。

それが、“Elysion”の本当の目的よ。」


 映像が途切れ、施設全体が崩れ始める。

 天井の配管が爆ぜ、マナ冷却液が雨のように降り注ぐ。


 レオンは拳を握りしめ、ひとり呟いた。


「——人間として、取り戻す……?」


 その瞳には、炎と涙が混ざり合っていた。

 彼は瓦礫の中を駆け抜け、崩れゆく研究区画から脱出する。

 背後では、赤い警報の声が延々と響いていた。


「Elysion区画07、崩壊プロトコル発動。全データ消去を開始——」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ