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マナ=コード -Argusnorn Overwrite- ver0.1  作者: 卵なっとう


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14/21

第14章:支配

白き議会塔の最上階――

曇天の空を背景に、エリスは捕縛され、冷たい床の上に膝をついていた。

赤い雨が窓を叩き、塔全体が不気味な光を帯びている。

その光は、まるで「眠りの子ら」から流れ出した神経エネルギーのようだった。


扉が静かに開く。

そこに立っていたのは、黒い軍服をまとった男。

かつて、エリスが信じていた仲間――ヴァルド。


「……ヴァルド。」


彼の瞳は、まるで水銀のように濁っていた。

そこにあったはずの温かさは消え、無機質な命令に従うための機械の光が宿っている。


「エリス・ノワール。

あなたは国家への背信行為を行った。

これより尋問と処刑の準備を行う。」


「……あなたが、その“命令”を下すの?」


「命令に感情は不要だ。」


その言葉を聞いた瞬間、エリスの胸に冷たい痛みが走る。

あの頃のヴァルド――仲間を守り、理不尽に抗っていた男の姿が、今はそこにない。


「ヴァルド……あなた、あの実験区画にいたのね。

“眠りの子ら”の制御キーに、あなたの署名があった。」


彼の瞳が一瞬だけ揺れる。

その微細な反応を、エリスは逃さなかった。


「あなたは……イリーナ・レイベルンの命令に従っている。

でも、あなたの中に“まだ誰か”がいる。

あの子を救おうとしたあなたが。」


一歩、二歩と近づくエリス。

ヴァルドの右手が反射的に剣を抜く。

だがその刃先は、彼女の喉元で止まった。


「命令……殺せ……エリスを……」


ヴァルドの声がかすかに震える。

額には汗がにじみ、剣先がぶれる。

エリスは恐怖よりも、深い悲しみをたたえた瞳で彼を見つめた。


「あなたは、命令じゃなくて――心で生きていた人よ。」


その瞬間、ヴァルドの脳裏に閃光が走る。

焼けた森、雷鳴、そして泣き叫ぶ獣人の子供。

自分がそれを庇い、少女の電撃に倒れた記憶。

イリーナの冷たい笑みが、血のように鮮やかに蘇る。


『――魔法の詠唱なんて、貴族の“遊び”よ。』


頭を抱え、ヴァルドが崩れ落ちる。

記憶の断片が、洪水のように流れ込む。

あの日の電撃の痛み、人格を書き換えられる恐怖――

そして「自分が誰であったか」を取り戻そうとする必死の抵抗。


「やめろ……イリーナ……俺は……!」


彼の体を青白い稲妻が走る。

洗脳の制御術式が、抵抗反応として自己発火していた。

エリスが駆け寄り、彼の肩を掴む。


「思い出して――あなたは、私を助けてくれた。

何度も、理不尽な命令に逆らって……!」


「俺は……ヴァルド……ヴァルド・レイベルン……違う……!

あいつの……“犬”じゃ、ない……!!」


叫びと共に、塔の制御装置が共鳴し、周囲の光壁が軋む。

赤い雨がさらに激しく降り注ぎ、窓を割って流れ込む。

それは、まるで外の世界が彼の痛みに呼応しているようだった。


そして――


通信端末から、あの声が響いた。

イリーナ・レイベルンのものだ。


『ヴァルド。命令を復唱しなさい。

“反逆者エリス・ノワールを排除せよ。”』


一瞬、空気が凍る。

ヴァルドの瞳の奥で、ふたつの意識がせめぎ合っていた。

忠実な下僕としての彼と、かつての人間としての彼。


剣が再び持ち上がる。

しかし――その刃は、エリスではなく、壁面の通信装置を切り裂いた。


「……命令終了だ、イリーナ。」


通信が途切れる。

静寂。

そしてヴァルドは、そのまま膝をついた。


「エリス……俺は、取り返しのつかないことをしてきた。

でも、もし贖えるなら……お前と共に、真実を暴きたい。」


エリスはゆっくりと頷く。

その瞳には、涙と光が同時に宿っていた。


「一緒に行きましょう、ヴァルド。

あの子たちの眠りを、終わらせるために。」


外では、赤い雨が静かに止み、雲の切れ間から一筋の光が差し込んでいた。

それは、長い暗闇の先にある“再生”の兆しのように見えた。

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