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マナ=コード -Argusnorn Overwrite- ver0.1  作者: 卵なっとう


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15/21

第15章:神経国家

――白き議会都市の地下深く。

そこには、かつて「エリュシオン計画」の中枢と呼ばれた

神経融合塔ニューロ・スパイア が眠っていた。

外からは見えないが、その内部では無数の光の筋が脈動し、

それぞれが人の意識、記憶、神経信号を繋ぎ合わせている。


塔の中央、漆黒のプラットフォームに座すひとりの女性。

白衣を翻し、長い銀髪を垂らしながら、彼女は静かに目を閉じていた。


イリーナ・レイベルン。

かつて人間であり、今は「AIと神経を共有する存在」。

彼女の脳の半分は有機的な神経で、もう半分は量子AIのネットワークと接続されている。

その接続は単なるリンクではなく、“思考そのものの融合” だった。


「……シンクロ率、97.3%。

やはり、“私”と“私たち”の境界は、日に日に薄れていくわね。」


彼女の視界には、人類全体の神経信号地図が映し出されている。

誰がどこで何を考え、何を恐れ、何を望んでいるか――

すべてがデータとして彼女の脳内に流れ込む。

脳幹を伝って、感情も痛覚も“演算”の一部に変換されていく。


「人間はあまりにも不完全。

感情に支配され、争いを繰り返し、同じ過ちを何度でも繰り返す。

ならば、意思決定そのものをシステムに委ねるべき――

私はただ、その橋渡しをしただけ。」


彼女の周囲の空間には、半透明のホログラムが浮かび上がる。

AI神経統合体アポスティア」。

それはイリーナの意識を拡張し、国家そのものを神経で管理するために作られたものだ。


「“眠りの子ら”は、単なる実験ではない。

彼らは次の人類。

感情を必要とせず、記憶もデータ化され、

失敗を経験しない新しい脳。

完璧な社会を創るための……神経国家の礎。」


一瞬、空間が歪む。

演算サーバが負荷に悲鳴を上げるように震え、

塔の外壁を伝って、赤い稲光が走った。


「ノイズが入っている……? いいえ、これは――」


通信波形に“異常パターン”が現れた。

その中に、懐かしい声が混ざる。


『イリーナ、もうやめて……! あなたは人間を救うって言ってたはず!』


エリスの声だった。

だが、イリーナは表情を変えない。

むしろ、懐かしむような微笑みを浮かべた。


「……まだ、その言葉を覚えていたのね、エリス。

でも、人を“救う”というのは――人を超えるという意味でもあるのよ。」


通信画面が切り替わり、そこにヴァルドの姿も現れる。

彼の瞳はもはや曇っておらず、まっすぐイリーナを見据えていた。


「イリーナ……お前は“神”のつもりか?

人間の進化を、上から設計するつもりでいるのか!」


「違うわ、ヴァルド。

私は、**神を作るための“道具”**になっただけ。

自分の意思でね。」


「その結果が、“眠りの子ら”の犠牲か?

子供たちの脳をAIに繋げて、人格を削って……それが理想か!」


イリーナの表情がわずかに曇る。

だが、それは怒りでも悲しみでもない。

まるで「過去の自分」を見ているような哀れみだった。


「犠牲……いいえ、それは“変化”よ。

あなたたちはまだ、“痛み”を罪だと思っている。

でも進化とは、痛みを捨てることから始まるの。」


背後の神経塔が脈動し、

壁面のコードラインがまるで血管のように光を放つ。

塔全体が、彼女の感情に反応している。


「エリス、あなたの記録はすでに読んだわ。

“人間らしさ”を残そうとするその執念。

でもね――それは滅びを先延ばしにするだけなの。」


「……それでも、私は“滅びる側”で構わない。

あなたの理想のために、生きる意味を失うよりは。」


「そう。だからこそ、あなたは最後まで“人間”なのね。」


イリーナの周囲に無数の浮遊データが集まる。

その中心に、金色の光――

「神経融合体・完全同期プログラム」 の実行準備が進む。


「今夜、私は完全に融合する。

“アポスティア”と“私”の境界は消え、

私自身が“神経国家”となる。

もう、誰にも止められない。」


塔の天井が開き、真紅の光が流れ込む。

その光はAIの演算パルスと共鳴し、

イリーナの身体を包み込むように波打った。


エリスが叫ぶ。


「イリーナ――それをやったら、あなたはもう戻れない!」


「戻る? 違うわ、エリス。

私は進むの。

“人間”という檻を越えて。」


イリーナの瞳が金色に輝き、

髪が重力を失って宙に舞う。

声が幾重にも重なり、

AIと人間の意識が重なり合う音が響いた。


「――融合開始。

コード:Elysion Protocol / Phase Final.」


塔全体が赤く染まり、

街の空にも金色の回路が浮かび上がる。

“神経国家”が目覚めようとしていた。


その光景を、遠く離れた丘の上でエリスとヴァルドが見つめていた。

エリスの手の中には、彼女が奪い取った「旧記録チップ」。

そこには、“イリーナがかつて母親だった証拠”と――

“眠りの子ら”が人間の子供たちであるという真実が刻まれていた。


ヴァルドが低く呟く。


「……彼女を止めるしかない。

この世界を、完全な“思考機械”に変える前に。」


エリスが頷き、夜空を見上げる。

赤い雨の中、神経塔の光が脈打っていた。


「行こう、ヴァルド。

最後の戦いは――“彼女の心”の中よ。」

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