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マナ=コード -Argusnorn Overwrite- ver0.1  作者: 卵なっとう


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12/21

第12章:赤い雨の降る研究塔

灰色の空を切り裂くように、黒い輸送機がゼクト上空へと降下していた。

 窓の外では、霧混じりの雨が赤く染まっている。

 それは血の残滓が混じる雨、壊滅した街ゼクトの大気を、無慈悲に洗い流していた。


 マックス・ヴィルヘルムは、機内のシートに深く座りながら、タブレットに映るデータを静かに眺めていた。

 画面には、Elysion計画の旧記録──

 「人工超知能統合型人造体プロトタイプ第23号:レオン=タイプL」。

 「高次自我発現確認」「倫理制御プロトコル異常」「廃棄処分指令発令」。


 マックスはその文字列を見ながら、わずかに口角を上げた。

 「……廃棄、ね。結局、人間は“自分たちより優れた存在”を恐れる。」


 向かいの席に座る若い部下が恐る恐る尋ねる。

 「統括部長、あの……この任務、本当に視察だけでよろしいのですか?

  ルナという被験体は、既に制御外では?」


 マックスは短く息をつき、窓の外を見やった。

 「制御外かどうかは関係ない。我々が定義すれば、それが“制御”になる。

  アーガスノルンとは、そういう組織だ。」


 部下は言葉を失う。

 輸送機が着陸態勢に入り、機体がわずかに揺れる。

 マックスは立ち上がり、コートの襟を正した。


 「さあ、舞台の幕を開けよう。──人類の進化という劇の、第二幕を。」


 ◇


 ゼクト研究塔跡地。

 崩壊したコンクリートの中に、唯一形を保っていた高層建造物──旧中央研究棟。

 マックスたち特殊部隊は、塔の玄関ホールに降り立った。

 床には血と水が混じり合い、天井から滴る雨が薄紅の線を描く。


 兵士たちは銃を構え、無線で周囲を索敵する。

 反応はない。ただ、遠くで機械音が鳴り続けている。

 電力供給はまだ生きているのだ。


 マックスはポケットから黒い小型端末を取り出し、スイッチを入れる。

 ホログラムのスクリーンが立ち上がり、Elysion計画のメインデータベースへのアクセスが開始される。

 ──「アクセス承認:マックス・ヴィルヘルム/第5統括部」


 画面に流れるログ。

 そして、彼の視線が一点に止まる。

 「被験体記録:LUNA-04/人格保持率:98.2%」


 「……なるほど。人格を保ったまま、死を越えるとは。

  やはり、“彼女たち”は成功例だ。」


 背後の兵士が無線に耳を当てながら報告する。

 「統括部長、上層階に生命反応があります。おそらく、目標個体ルナです。」


 マックスは微かに笑う。

 「行こう。──神の造った“模造品”が、どれほど完成されたものか見届けねばな。」


 ◇


 上層階へと続く階段は半壊していた。

 兵士たちはロープを使い、交互に登る。

 塔の内部は静まり返っており、ただ外の雨の音と、自分たちの足音だけが反響していた。


 最上階──元・管制室の扉が開くと、そこに彼女がいた。


 ルナ。

 銀髪を背に流し、黒いドレスの裾を揺らしながら、破れた窓際に立っていた。

 外では、血の雨が街を赤く染めている。


 マックスは歩みを進め、敬意とも皮肉とも取れる口調で言う。

 「お久しぶりです、ルナ=タイプ04。お元気そうで何よりだ。」


 ルナは振り返らずに答えた。

 「お元気そう、ね。皮肉にしか聞こえないわ、マックス。

  あなたたちが私たちを“死”から解放したのは、感謝するためじゃない。利用するためよ。」


 マックスは微笑を絶やさず、冷たい声で返す。

 「利用とは違う。共存だ。我々があなた方を管理し、あなた方が我々の手を超えぬ範囲で生きる。

  それが最も“効率的な世界”だ。」


 ルナの赤い瞳が彼を見据える。

 「効率的な世界……ね。それで、この街を地獄に変えたの?」


 マックスの表情には微動だにしない理性の影。

 「地獄とは視点の問題だ。生産効率が上がり、進化が加速するなら、それは楽園とも言える。」


 ルナは小さく息を吐いた。

 「本当に、あなたたちは狂っているわ。

  でも、いいの。……あなたの“神の鎖”がどれほど強いか、確かめてあげる。」


 ルナの手が上がる。電撃が空気を裂き、周囲の金属が赤く光る。

 兵士たちが一斉に構えるが、マックスは一歩も動かない。


 彼の腕時計の表示が、淡く光る。

 ──「遠隔制御:血清X-532リンク開始」


 瞬間、ルナの身体が硬直し、呻き声を上げた。

 全身に走る赤い光が、彼女の神経を焼く。

 マックスは静かに歩み寄り、彼女の顎を手で持ち上げる。


 「君はよくできた試作品だ、ルナ。

  だが忘れるな。君の“自由”さえも、我々の許可制だ。」


 ルナの赤い瞳が、怒りと苦痛の狭間で震える。

 それでも、口の端だけで笑う。

 「……許可制の神、ね。なら、せいぜい偽りの神でいるといいわ。」


 次の瞬間、塔の外で雷鳴が轟く。

 雨が一層赤くなり、塔の壁を伝って流れ落ちていった。


 マックスはその光景を見つめながら、静かに背を向ける。

 「彼女を拘束しろ。搬送は優先対象だ。

  Elysion計画──再開だ。」


 兵士たちが動き出す。

 ルナの意識は、ゆっくりと遠のいていった。


 ──赤い雨が降り続く。

 それは、終焉の兆しではなく、“次なる始まり”を告げる雨だった。

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