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14.聖剣、伝承

今から五カ月ほど前。

 聖剣・イアが目を覚ましたのは、奇しくもヒナが意識を持ったときと同じ頃だったらしい。


 何がどうなったのか。ともかく。

 彼女は目覚め、ツェーシマ島を襲っていた、『厄災』を振り払った。

 厄災とはなんのことはない、島の周りに巣食っていた中型のクラーケンだ。

 中級冒険者のパーティならば、苦戦せずに倒せるであろうモンスター。しかし、小さな島に住む人間だけでは、どうにもならなかったのも事実で。


『ありがとうございますありがとうございます。わたくしたちの救世主さま』


 聖なる力を持った彼女は、彼らの信仰心に応えた。

 更なる安全を確保し、人の素晴らしさを説き、着実に理解者を増やしていった。

 そして最終的には、島民全員の信仰を得るまでに至ったのである。

 故に、彼女は思った。


『これで信仰心は高まりました。彼らと共に本土へ渡り、世界を聖剣(わたし)への信仰心で染め上げましょう』


 実際それは、良い作戦だったと言える。

 まずは足場づくり。一所(ひとところ)を拠点に据えてから行動に移すということは、理にかなっている行為である。

 しかしそれは。

 その足場が、勝手に動かないことが前提である。


『聖剣・イア様は、この世に降り立った! みな、立ち上がるのだ!』


 足場たち(とうみん)は、イアの知らないところで布教を始めていた。

 行き先は本土――――ではなく、少し離れたところにあるイッキー島。

 すでにイアからビキニアーマー(ゆうしゃ)の力を渡されていた彼らは、容易くイッキー島へと信仰心を広めることが出来た。

 こうして、魔剣・イア自身も知らない信仰心が、イッキー島で芽生えていたのである。




「……けど、なんかおかしくないか⁉」


 渦巻く魔力の中。

 俺はシャールの推理を聞いて、そんな疑問を投げる。

 これは明らかに、さっきまでのイアではない。ヒナのときと同じような、何か別の要素も混じっている雰囲気だ。


「……あ~なるほ。アタシ分かっちったかも……」

「なんだヒナ?」

「……歪んでんだと思うよ、あの状態って」

「歪んでる?」

「そ。アタシの中に在った魔王の残滓が、アタシに変な影響(こと)シてきたように~……、聖剣・イアの中に入った信仰心も、アイツに変な作用をもたらしてる」

「ってことは……、今イアの中に入ってる信仰心は、純粋な信仰心ではない……?」


 シャールの推測が正しいなら。近隣島であるイッキー島には、聖剣・イアへの信仰心が伝わってるはずだろ? それなのに歪んでるってことは……。


「歪んで伝わったのね、聖剣・イアへの信仰が」

「ラチカ?」

「シャールの見立てでは、島民たちが一番信仰してるのが、聖剣・イアの『強さ』でしょ? ということはイッキー島には、その部分が強く伝わった可能性がある」

「――――」


 信仰の歪み。あるいは、宗教の派生に近いかもしれない。

 最初に在る『A』という信仰が。

 人から人へ伝わるたび、『Aダッシュ』、『Aダッシュダッシュ』、『Aダッシュダッシュダッシュ』と伝わっていき――――最終的には『B』という別物になる、伝聞ゲームみたいな現象。


 近い地域。されど、別の島だ。

 文化も違えば考え方も違う。もしかしたら、日ごろ信仰していた神だって違ったかもしれない。そんな中、近隣の島民が、新たな『信仰』を携えてやってきた。

 それはそれは。

 圧倒的な、『強さ』を従えて。


「じゃああれは、『強さ』がねじ曲がって信仰された、イアの姿……」

「LLLLLyyyyHHHHHhhhhhrrrrッッ‼」


 (つんざ)かれる風切り音。

 ヒトとは思えぬ嘆き。

 空気を切り裂きこちらへ届く(おと)は、攻撃的な魔力を伴っており、肌に当たるだけでびりびりと痛い。


「あーしたちみたいな存在はぁ、人々の信仰でも強さが変わる……。コーにゃんも知ってるっしょ?」

「……っ」


 例えば。

 ベルは美女が好きだ。だからこそ、彼女のためのハーレムを形成している。

 しかしながら、これまで生きてきた魔竜・ベルアイン本人が、美少女を好んでいたのかとえばノーである。

 どこかの地域、どこかの文化で発生した『ベルアイン』の伝承。もしくはしきたり。

 その中にあった、『美女を生贄に捧げることでベルアインの怒りはおさまる』という伝承――――信仰の影響を、ベル自身が受けているのだ。


 それと同じように。

『聖剣・イアは攻撃的な力を持っている』という、こんな信仰が。

 つい先日、イッキー島で成った(・・・)としたら。


「……まずいね!」

「……くっ!」


 狂暴性。あるいは、凶悪性。

 誰もが等しく強くなれるという、最強の聖剣が。

 ヒトの姿を持って、ヒトの人格を失くし。

 今、襲い来る。






 ケモノと言っていいだろう。

 そんな狂暴性を、聖剣・イアは秘めていた。


「Ly――RRrrrrrッッ‼」

「ぐぅぅ~~ッッ⁉」

「やっば……ッ‼」


 イアの突進は、ヒナとヴァートをいとも簡単に弾き飛ばす。

 正気を失った瞳は、魔力立ち込める海岸に黒々と光る。


「強すぎるだろ……!」


 聖なる光を帯びていた刀身は、今やどす黒く変貌を遂げている。

 ヴァートの鎌よりも更に黒く、闇色に光るその剣は、一振りでとんでもない衝撃を生み出していた。


「コースケ様、まずいわよ!」

「なにがだ⁉」


 ラチカの声に振り向くと、彼女は慌てた様子で指をさす。

 その方向を見ると、島民たちみんなが、イアに更なる魔力を送っていた。


「いや、魔力ってよりも、生気か……?」

「文字通り、命を懸けている……。自分たちの生命力で、イアを更に後押しするつもりだ」

「こいつら……」


 考えてみれば、それだけ覚悟が決まっていたのだ。

 命を懸けてでも――――自分たちの身を投げ打ってでも、聖剣・イアに賭ける覚悟が。


「じゃなきゃ、ビキニアーマーなんて着て空を飛べないわよね」

「そうだね。元々羞恥心の無い人外生物ではなく、これまで一般人として生きてきた者たちが、ビキニアーマーを纏うんだ」


 それは、生半可な覚悟ではない。

 もしかしたらその姿のまま、歴史に名を刻むかもしれないのだから。


「真面目な話。それでも『イイ』と、彼らは賭けた。だからとっくに、聖剣・イアの信者になったときから、覚悟は決まっているんだよ」

「…………くそ」


 どうする。

 現状、打開策が無い。

 どんどんパワーアップしていくイアに対して。

 こちらは、力を出し尽くしたヒナとヴァート。身を守ることで精いっぱいの、ラチカとシャールと俺。

 加勢に向かうことはできるけど、物の役にも立たずに終わるだろう。


「考えろ……、考えろ……っ!」

「コースケ様、何かしら奥の手を残してはいないのかい?」

「奥の手は仮装着(ドレスアッパー)だけだったんだよ……。あとは、ヘリオスちゃんから授かってる、飛翔の魔法の発動権くらいで」


 しかもそれ、あと一回しか使えないし。

 それに空飛んだところで、どうなる相手でもないしなぁ。


「ない物ねだりだけど、俺自身にも戦える力があればな……」

「でも過去に、キミも人間相手には戦っていたんだろう?」

「だからそれは、仮装着(ドレスアッパー)が効くこと前提の話で――――」


 あ、いや。待てよ?

 そうだ。それでも俺は戦っていたコトならある。

 ルーチェの魔法で、イケメン冒険者に変えられていたときだ。

 あのときはとんでもない力を発揮出来て、そのお陰で色んな人を助け回ることが出来たんだっけ。

 あと、そのあとにも、一度だけ――――


「…………うわ」

「え、なんだいコースケ様?」

「……いや、思い出さなくていいこと、思い出した」


 そうじゃん。あのときの一回しか使ってないけど。たぶん使えるじゃん、アレ。


「……………………」

「え、なに……?」

「つ……………………つかいたくねぇぇぇぇぇぇッッ」

「なんか奥の手持ってるってことよね⁉ じゃあ躊躇してる場合じゃないじゃないの!」

「ヒナたちがピンチだよコースケ様! 頼む! この状況を打開するんだ!」

「だよ…………………………なぁ」


 そうさ。俺も覚悟を決めろ。

 バニーにするだけが、手段じゃないだろ?

 そのお陰で、どうにかなったんだろう?


「くっそぉぉぉぉぉッッ! ――――仮装着(ドレスアッパー)ッッ‼」


 俺はあのときの、ルーチェ戦の最後の輝きを、放った。

 ゆったりとした服装から一転、身体は締め付けられ、肌面積は増え、かかとは上がり、首元はちょっと窮屈になり、頭にウサミミが乗っかる。


「コ、コースケ、様……⁉」

「俺が……、バニーになるパターン、ありましたねええええええッッ! ……うぉぉぉぉぉッッ‼」


 羞恥と共に/羞恥を捨て去り、ヒナたちの元へと走る。

 見た目に反して身体は軽い。

 地を蹴る速度は電車のよう。

 魔力滾る全身で、不格好に、思いっきり、イアの身体へ体当たりをぶちかました。


「Rr――――ッッ⁉」

「くっそぉぉッ! これ以上ヒナたちをやらせるかぁぁッ!」

「コーにゃん⁉ ……そぉいやあったねそのエロカワな状態(フォーム)

「ぐぅカワ☆」

「お前らのセンスおかしいよやっぱ⁉」


 と、ツッコミを入れている場合ではない。

 今は不意打ち気味にぶっ飛ばせたけれど、現状は、戦場にバニーガールのオッサンが一匹紛れ込んだに過ぎないのだ。


「ヒナ、ヴァート、なんか策ない⁉」

「ノープランかよぉ☆」

「コーにゃん最高過ぎワロ」

「ワロエないんですが⁉」


 くそ、だめか⁉ もう何秒もしないうちに、イアは体制を整えて再び突進してくるだろう。もしかしたら、もっとヤバイ攻撃を仕掛けてくる可能性だってある。

 それよりも先に、どうにかしないと……!


「あ~……、だったらぁ」

「……んだね。ホントはアリしゅにって思ってたけど~」

「え?」

「コーにゃんがそうくるなら、イけるっしょ」


 疑問を覚えた瞬間だった。

 ヒナたちの身体がまばゆく光ったと思ったら、俺の手へと集まっていく。

 そして俺の手には――――、漆黒の剣が握られていた。


【いえ~い☆ ヴァルヒナクト・マジモード♪】

【これで、全盛期のチカラ使えっからぁ】

【それオブそれな☆】

【マジば】

「本気が軽い‼」


 ギャル語って本当に緊張感無くなるよな! 緊張感緩和してくれて丁度いいかもしれないけど!


【コーにゃん、()ンよ】

【ちょっと腰降ろして身構えな~?】

「ひぇぇ……!」


 イアの眼光が鋭くなる。そして、足が少しだけ……地に沈む。

 まるで発射体勢だ。

 もう間もなくの時をもって、イアというミサイルはこちらへと打ち込まれるだろう。


【……だいじょびだって】

「ヒナ?」

【ベルりんのためだもん。絶~~~ッ対負けらんねーしぃ?】

【ほんそれ。アタシら全員で、アイツをハピらせんだからさぁ】

「お前ら……」


 これは、世紀の戦いではない。

 アイツを幸せに――――みんなで幸せになるための、ただの通過点だ。

 だからみんな、全力を出してくれる。


【だいじょびだいじょび♪】

【ぜってー受けとめっからぁ☆】

「……………………ほんとにたのむよ?」


 ……説得力が皆無だなァ!

 しかして、呆れる間もなく、イアの身体が、眼前へと迫る。

 地面が爆発したのではないかと思える踏み込み、踏み出し。

 一瞬にして眼前へ迫る凶刃。

 しかして、それを受け止めたのは、暗黒を纏う魔剣の刃。

 闇と、闇堕ちと、バニーガールのオッサンは。

 砂浜にて鍔迫り合う。


「ぎぃぃぃぃッッ⁉」

「THYyyyy――――VaaaaaaaRrrrrrrrッッッ‼」


 嘶きは一層けたたましく。

 火花と呼ぶにはあまりにも強すぎる魔力波が溢れる。

 海岸も、海も、大気まで、全てが割れていく。


「うぉぉ……おぉぉぉぉぉッッ‼」

【コー……にゃ……ん……ッ‼】

【きばっ……てぇぇ……ッ‼】


 踏ん張る。食いしばる。

 あまりにも体感したことの無い重力と衝撃は、バニー状態ですらも耐えることが難しい。

 しかし島民やラチカたちのことを気に掛ける余裕はない。

 一瞬でも集中を解いたらヤられる……!


「ぐぅぅぅッ!」

【……いや解くフラグかと思ったんだけど】

【あーしも。これ絶対、イアのおっぱいはだけて集中途切れるパティーンじゃねって思ったよね】

「お前ら楽しそうだなぁ!」


 さすがにエロスよりも生存本能が勝ちますねぇ!

 こんなところで――――死んでられねぇんだよ! なぁベルッ!


「うぉ、おぉぉぉぉぉ――――ッ! 飛翔の魔法ッッ!」

「――――ッ⁉」


 身体を魔力が駆け巡る。

 極限の最中。俺は飛翔の魔法の、最後の一回を発動した。

 この魔法は自分だけではなく、周囲の者も共に飛翔させることが出来る。戦線離脱用の最終手段だったのだが、この状況だとこうするしかないだろう。

 逃げると更に大変なことになる。


「ここで決着をつける……ッ!」


 俺とイアの身体が、ふわりと宙へ浮く。

 足は地面を離れ、高度を一気に上げ、彼方の空へ。


「うぉぉぉぉッ!」

「GYayyyyyyyiiiiッッ!」

「ぐぅッ⁉」


 イアは宙へ浮き上がりながらも、攻撃の手を休めることはない。

 俺もそれに応戦し、素人フォームでなんとか攻撃を受け止め続ける。


「…………ぐぅッ」


 しかし、さっき自分で言ったことだ。

 島民たちがいかに強い力を持ったとしても、所詮は付け焼刃。素人が、シャールやラチカのような戦闘経験者に敵うはずがない。

 それは俺にも当てはまることで。

 素人の俺がいかに強い魔剣を手にしたところで、イアという聖剣自体に敵うはずもなく。


「ぐぅ……ぐぁぁぁぁッッ!」


 身体に傷を受ける。

 身体能力が上がり、魔剣(ヒナたち)の魔力でパワーアップしていなければ、既に胴体は真っ二つになっているだろう。

 しかもこれは、いつまでも受け続けられるものではない。

 攻撃に次ぐ攻撃は、休むことなく、豪雨のように降り続ける。


「うぐっ……! ぐっ……! がっ……!」


 それでも飛翔は止まらない。

 鳴り続ける金属音。唸り続ける呼吸音。脅かされる心臓音。

 絶体絶命の窮地の中――――しかして、目標地点にたどり着く。


 遮るものは何もない、大空の中心。

 雲を地平とする、空の彼方である。


「そ……」

「Gyrrr……?」

「それはそれで(こえ)えええええッッ‼」


 地を後にし、

 海を見渡し、空を超え、雲を突き抜けた、そのとき。

 イアの口から、唸り声以外の人語が聞こえてきた。


「――――こ、ここは……⁉」

「や……やっぱりか……」

「私は……なにを……」


 瞳は正気に戻り、深い緑色の輝きが戻っている。

 表情も狂っておらず、凛とした顔つき。

 彼女にしてみれば時間が飛んだような感覚だろう。現状を把握するのに時を要しても無理はない。


「……ドーム型だと思ったんだよ。どうやら、正解だったみたいだな」

「……は?」


 おっと。この世界の奴にドームって言っても分からないかな?

 ともかく。

 それは、島の信仰力の、効果範囲の話。

 聖剣・イアとその一行は、信者がいる場所と、島付近(・・)に居ることで信仰パワーを受けられる。だからこそ、島民たち全員を乗せたツェーシマ島ごと、本土に飛んでくるという離れ業を行ったわけで。

 逆を返せば、信者である者、もしくは信仰パワーを仕込んでいる島が近くになければ、イアは先ほどまでの力を発揮できないということになる。


 ではクエスチョン。

 島からの影響力の有効範囲はどれくらいなのか。

 もっと言えば、どういう範囲になっているのかというハナシ。


「横幅の影響力は、今島があるところから海岸沿いくらいまでの、約一~三キロくらいだろう。それはなんとなく分かった」


 では、縦は。

 影響力の、縦幅はどれくらいなのかというと……。


「どこまでも続いてるわけはない。縦幅も、横幅と同じだ。どこかで効果範囲の終わりがある」


 最初は本土の方にまでイアと移動しようかとも考えた。しかし、万が一本土にも隠れ信者が居てしまうと、そこで力を取り戻してしまう可能性もある。

 だから……、信仰心が届かず、かつ、生命のいるはずのない場所まで連れ出す必要があったのだ。

 この、三千メートルの高さまで。


「ここならもう……、お前の望みは叶わない」

「…………、」

「俺の勝ちだ、イア」

「……わたし、は」


 狂気も熱も失われ、聖剣すらも消え去った。

 ボロボロの身体のまま、イアは浮遊したまま沈黙する。


【……ごめ、さすがにも~無理ぃ】

「え⁉ 大丈夫か⁉」

【ちょっと気絶(オフ)るわぁ……。さすがにマジモード、もたんて……】

【つーわけでぇ、場つなぎよろ~……】

「お、おう……」


 言うと魔剣は、カタチをそのままにして小康状態に入った。

 二人の意識はほぼなくなったが、存在自体は感じる。どうやら眠っただけのようである。


「まだまだよく分からんな、こいつらに関しては……」


 さて。そろそろ飛翔の魔法の効果が切れる。

 イアも正気に戻ったし、下では島民たちを、ラチカたちがなんとかしてくれているだろう。

 俺がイアと共に、ゆっくりと降下しようとしたそのときだった。


「あ゛ぁッッ‼」

「イアッ⁉ なにするんだ‼」


 剣の斬撃ですらない、徒手空拳による攻撃が俺をかすめる。

 イアの目は必至だ。

 先ほどの暴走状態。それとはまた違った一心不乱さを、その眼光からは感じる。


「私は……諦めませんッ!」

「イア……」


 しかし、それはだたの打撃に過ぎない。

 島の加護を受けていたイアならいざ知らず。

 このバニーガール状態の俺にその拳を当てたところで、ダメージにはならないだろう。


「それでも……! それでも私は、私は絶対に……! ――――あ」

「イアッ⁉」


 再度拳を振るおうとした瞬間。

 まるで糸が切れたかのように、彼女の身体は落下を始める。

 飛翔の魔法の効果が、少しずつ切れ始めたのだ。

 俺は慌てて手を伸ばし彼女を掴むも、こちらまで重力に引き寄せられてしまった。


「……く、」


 魔法の効果が切れるのは俺も同じだ。

 少しずつ、浮遊状態が解除されていく。


「ぐっ……うぉぉッ!」

「私は……、諦めません……!」

「イアッ……!」


 彼女の願望。彼女の望みの果て。

 緑の眼光が揺れに揺れる。


「おまえは……すげえな。イア」

「え――――」

「まぁでも、分かるよ。俺もベル相手なら、そうすると思うから」

「……まさか」


 あぁ、もしかしたらと思っていた。

 どうしてイアが、こんなにも必死だったのか。

 島を救って終わりにしなかった理由。

 この世界を信者で満たしたかった、最大の理由を。

 俺は、推測をつけていたから。





【読者の皆様へ】

 ご評価やブクマなどおしていただき、ありがとうございます! 創作の励みになっております!


 現在毎日更新中!(毎朝8時ごろ更新)

 次回の更新は、1月 7 日になります! お楽しみに!

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