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9.嵐の前の準備期間

本日は2本更新です

1月2日分①


 シャールと待機すること六時間弱。

 雑談をしたり仮眠をとったりしながら偵察隊を待ち、夕刻を迎える。

 そうこうしていると、木々の向こうから、ヒナ、ヴァート、ラチカの三人が顔を出した。


「お、戻って来たか」

「おつおつ~」 


 ゆるめに手を上げるヒナ。

 出立前と変わらないテンションということは、向こうも戦闘は無かったらしい。


「つーか、もう一回島に近づいて、見て来たよ☆」

「も~穏やかも穏やか。島、フツーに戻ってっから」

「ちょ……、万が一があったらどうすんだよ⁉」


 あの勢力に再び襲われでもしたら、ひとたまりもないだろうに。

 俺がそう狼狽していると、ラチカが「それなんだけど」と割ってくる。


「やっぱ魔剣二人の見立て通り、あいつらのあの強さは、ツェーシマ島限定の強さっぽいわよ」

「島限定……? あぁ、そういえばそんなことも言ってたっけ」


 先ほどシャールと現状整理していたときにも、軽く触れたことだ。

 聖剣・イアの法外な強さ。

 アレは、ツェーシマ島の領域内のみなのではと、ヒナたちが見立てたのだ。


「ズバリ、信者がいるかどうか……だね~」

「信者?」

「あるいは信仰心かなぁ? ともかく~。聖剣・イアは、イアを信じる者がいればいるほど力を発揮できるってカンジなんだよね」

「んで、あの島は既に、島民一人残らずイアを信じてる。だからイアの恩恵である、『勇者の力』も使うことができるっぽ」

「だけど……、この本土には信者はいね~じゃん? 遠く離れた島だかんね~。本土に来てないってのが正しいかな~」

「だけどこっから先はわかんにゃい。信者を本土に送り込んでくるかも」

「なるほど……。本土に一人でも信者が来れば、イアとその信者たちは、力を使えるのか?」

「使えはするよ~。だけど、さっきの人数が集まった強さを100とするなら~、五・六人送られて来ても、10くらいしか発揮できないと思うけど~」

「ふむふむ」


 ただしその信者たちが本土でも布教活動をして、信者数を増やせば話が変わってくる。

 もしもあの島以上の信者数が集まってしまえば、仮にこちらの戦力を総動員しても太刀打ちできなくなるかもしれない。


「――――……で、………………だから…………、」

「ん? どうしたんだコースケ様?」

「なんかおかしくなった?」

「しー。シャーちんもラッチーも、ちょっと静かにしてあげて」

「コーにゃんスイッチ入ったか~♪」


 考える。

 ヒナ、ヴァート、ラチカがせっかく偵察に行ってくれたのだ。この情報を無駄にすることは許されない。


「相手は人外…………つーか理外…………。剣…………、信仰心…………信者…………。増やせば強くなる――――聖剣…………、……聖剣の力………………」


 指揮官に任命されて。四か月経って。

 疲れて疲れて疲れまくって。

 身体以上に、脳が疲れた。

 だからある意味、そういうところ(・・・・・・・)が鍛えられた。


「…………島に捨てられたイア…………勇者…………、勇者の力……。聖剣……、信仰心……信者……聖剣…………。あーきてこうきて…………。…………こうすれば、いけるのか……?」


 ――――うん。だいたいは固まった。


「……ヒナ、ヴァート。ちょっと確認したいことがある」

「ん~? なんじゃらほい☆」

「戦ってみた感覚で良いんだけどさ。過去の聖剣と今の聖剣。どっちが強かった?」

「ん~とね……、剣同士のときとヒトガタのときだから、ちょっと感覚ズレっけど~……」

「そりゃ、昔の方が強かったじゃんね?」

「まぁ撃ち合ったときはさぁ。聖剣振るってたのは勇者ちゃんで、アタシら振ってたのが魔王軍幹部だったから、何とも言えね~ケド」

「使用者のレベル差があるから、純粋に比較するのはさすがに難しいか……」

「ただ感覚としては昔のほうが強いかな~?」

「おっけ、ありがとう」


 なるほど。だいたい読み通りだ。

 俺がうんうんと頷いていると、ラチカが横合いから質問をしてきた。


「何を確認してるのコースケ様?」

「いやな。どういう部分が、聖剣・イアのヤバいところなんだろうなと思ってさ」

「ヤバいところ?」

「そう。ヤバいところ。……強いところではないのがポイントだ」


 現状、俺たちを苦しめている一番のポイントを、整理しなければならない。

 この四か月で学んだのは、強い敵が現れたとき、その強さに面食らいすぎて、こちらの勝利条件を見失いがちになるなということだった。

 相対すると、どうしても『勝つ』方向に考えを持っていかれる。

 相手が強いなら、更にその上の強さで圧倒しなければ、と。


「でも、俺たちの目標は『異常の解決』だ。今回の目標で言えば、ツェーシマ島に協力者を作り出すことと、聖剣・イアの経験値(リソース)を回収すること。この二つだ」


 必ずしも、聖剣・イアを倒さなくてもいいわけで。


「でも、放っておくと本土にも信者を送り込まれるわよ?」

「そうだね。ボクらも教団に所属していたから分かるけれど、信仰心というのは、何かの決め手が一つでも引っかかれば、すぐに芽生えるものだ」

「そうね……。古来からの政権の知名度を利用すれば、本土どころか、世界中に信者が増えまくってもおかしくない。だから、倒しておく方が安全だと思うわよ」

「まぁ現状はそうだよな。俺も、倒してしまう案を第一に考えてる。だけど、一応な」


 倒すにしろ倒さないにしろ、最悪でももう一度は衝突を避けられないだろう。

 だから、整理だ。

 強いのはもう十分わかった。

 昔に比べて弱くなっているらしいが、それでも今、十分強い。

 ただ――――強いだけなら、勝機はある。

 何せヴァルヒナクトが二人だ。一対二のシチュエーションに持っていければ、どうにかなるだろう。


「だから現状ヤバいのは、まわりの信者と、増えるかもしれない信者。この二つだ」


 信仰心の問題を封じ込め、聖剣・イアとのみ真っ向勝負することが出来れば、勝てるだろう。


「あはは~☆ アタシらもだいぶ評価されてんじゃん♪」

「悪い気しないけどね~。……オッケ。気ぃ入ったわ☆」

「あとでめっちゃ可愛がっても~らおっと♪」

「んじゃアタシも混ぜてね~」

「……なんだろうねラチカ。仲間のそういう事情を知ってしまうというのは、些かいい気分がしないね」

「……そーね。特に、理解できない相手となったら、尚更ね」


 ため息をつく二人を他所に、俺は俺で気合いを入れなおす。


 さぁてそれじゃあ、読み合い開始だ。

 最初の戦闘から約一日半。

 これまでの経験上、あれくらいの強さの相手なら――――


「回復するなら、そろそろだろうな」


 俺はヒナとヴァートに、もう一つの情報を確かめた。

 そして、

 迎撃準備に移る。


 ……けっこう時間がかかった。






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