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7.悪くないんじゃん?

本日は2本更新です

1月1日分①


 コースケ様が睡眠をとっている間、シャールと入れ替わりで警護をすることになった私は、彼の寝室の前を訪れる。


「お~? ラッチー交代? よろり~」

「どうもヒナ様。よろしくお願いします」

(かった)いね~。様づけはいらないし、敬語じゃなくてぜんぜん良きだよ~♪」

「そうなの? それじゃあヒナ、よろしくね」


 ギャルであるという魔剣……じゃなかった。魔剣であるというギャル、ヒナに挨拶をして、私は椅子へと腰掛ける。


「ぶっちゃけヒナが一人居れば、護衛になるんじゃないの? ただのニンゲンである私とシャール、いらなくない?」


 海上から見上げていたあの戦闘を思い出す。

 仮にあんなヤツらが襲ってきたとして。私たちが居て戦力になるとは思えない。


「そ~かもね☆ だけど、アタシらの話し相手にもなってほしくてさ~」

「あぁそういうことですか。だけど、コースケ様の眠りを妨げるわけにはいかないから、そんな盛り上がる話も出来ないですけど」

「そだね~。……それにしても、コースケ、(さま)って♪ ワロり」

「これはもうどうしようもないわよね。ここの軍団に入ったが故の、枷みたいなものだし」


 コースケ様本人も相当気にしていた。

 正式に軍団加入を決めた後。申し訳なさそうに口にしていたのだ。


『すまん……。どうしても俺の事、(さま)付けになっちまうみたいでさぁ。敬語はいらなくできるみたいなんだけど、これだけは外せないみたいで……』

『契約みたいなものよね? 別にいいわよコースケ様。……ほんとだ』

『キミを呼ぼうとしたときに、脳と身体が強制的に様付けをするよう働きかけるのかぁ。なかなか面白いね!』

『前向きな意見で助かりまーす……』


 まぁ私たちはこんな感じだったけど(主にシャールが)。

 中には気に食わないって協力者も居るのかもねぇ。


「……で。どんな話をしようかしら?」

「ありゃいきなりだね。ノリ気じゃない?」

「そういうんじゃないけどさ。雑談を振れるほど仲良くない……というか、今日が初対面だし」

「あはは☆ そりゃそ~か♪」


 ウケるね~と笑うギャル魔剣。

 こうして接していると、本当にただのギャルみたいだ。世界を揺るがす力を持っているだなんて信じられない。


「戦術の話とか、アンタらにとっては耳クソみたいなものだろうし。人生観も、語れるほどのものじゃないゴミだったし……」

「ラチカはナチュラルに口が悪いよねぇ」

「育ち悪いからね。家はイイトコなんだけど」

「ふぅん? ……あぁ、ラチカって名前も、その遠縁のニンゲンから取ってるんだっけ?」

「そうよ」

「本名には戻さないの? 以前の【T2】って名前も、今名乗ってるラチカも、両方偽名なんでしょ?」

「そうだけど、別にこだわりはないわ。そもそも本名のトゥルガだって、組織に入るときに捨ててるんだし」


 組織に加入する前の人生は、正直あまり思い出したくない。だから、トゥルガの名前と共に葬り去りたいのだ。

 それに。


「この組織に入るときに名乗ってた名前。それが、どこか気に入ったの。だから私は、『ラチカ』で居たいかなって」

「特大のデレじゃん。ワロ~」

「ワロ~よね、ホント」


 にへらっと笑うヒナに対して、私もフフっと笑った。

 ……まぁ正直、遠縁の偉大な魔法使いの名前をつかって、よく分からない組織に入ったことは、思うところがないわけでもないけれど。……でもよくある名前だから、別にいいわよね?


「湿っぽい話って好きじゃないのよね、私」

「お、きぐ~。アタシもなんだ~。真面目な話、めっちゃ苦手~」

「話には聞いてたけど、ここの組織の上の奴らって全員そうなんじゃない? みんなお気楽集団っていうか」

「真面目なのはアリしゅとへリぴに任せてっかんね~」

「フフ。かわいそ」

「あいつらは好きで真面目にやってんだからいいんだよ~☆」


 まぁシャールみたいなものか。

 アイツもアイツで、真面目そうに見えて不真面目……という皮をかぶった真面目なのを私は知っている。本人は絶対肯定しないだろうけど。


「しかしキミもさ~。面白い人生送ってるっぽいね~」

「魔剣に言われたくないわよ」

「いやいや。アタシとヴァートはさ、この世界に発生してからは長いけど~、意識を持ったのはわりと最近だから」

「自分としての記憶と、物体としての記憶は違うんだっけ……。複雑よね」

「他人の思い出話を自分の経験として語ってるみたいなもんだよ~」

「それめっちゃ痛いヤツじゃない……」


 私のツッコミにヒナは「だねぇ♪」と笑う。

 本当によく笑う子だ。……コースケ様が起きないか心配になる。


「コーにゃんはそのへん、めっちゃ一般人だからセーフっしょ。一緒にベッドに入っててもすーぐ寝ちゃうし」

「……ベッドに。……あぁ、一緒に寝てるだけってこと?」

「んにゃ? エッチなことしてるけど?」

「…………………………………………そう」

「すっげー間あったけど草」


 いや、だってさ。

 アレとエッチなことすんの? 無理じゃない?

 人としては嫌いじゃないけど、あの太ったオッサンとエッチなことするのはちょっと……。


「そうなの? じゃあどういう人とエッチしたいの?」

「普通にマッチョなイケメンだけど……」

「そうなんだぁ。変わってるねえラッチーは」

「私はいたってまともよ! アンタらがおかしい方だからね⁉」

「あはは。アタシらはニンゲンと感性違うからね~☆」

「じゃあアリしゅってやつは何なのよ……」


 単に感性がニンゲンじゃないって言われてるだけだった。

 大丈夫なのこの幹部たち。


「で、ラッチーってエッチなことしたことあるの?」

「ド直球ね……」

「気になってさ。割といい年齢まで生きてるから、あるのかな~って。あとかわいいし」

「可愛ければ必ずしもそういう機会に恵まれるってわけでもないけどね……。でもまぁそうね。したことはあるわ」

「おっ、楽しい話だ♪」

「潜入任務でね」

「おっ、暗い話になった」

「そうでもないわよ。ターゲットはタイプの男だったし」

「所謂ハニートラップ的な?」

「そんなところね」


 自分の容姿に自信があるわけではない。ただ、それが武器になるのであれば使わない手はない。――――まぁ、あのときはそう考えていたのだ。


「どうせどっかですることになるのなら、遅かれ早かれかなーって思ってね。任務で必要なら、それでいっかぁと思って」

「ニンゲンの女子ってそんな感じなんだねぇ」


 いや、たぶん私は一般的じゃないと思うけど。

 でもまぁいいか。どうせ一般的な感性なんて、理解しようとしないでしょこいつら。


「いい? ニンゲンの女ってのは、基本的にムキムキマッチョなタフガイが好きなの。二の腕が自分の腰よりも太ければ高得点ね。髭を剃り、オールバックにして、サムズアップが似合う、輝く瞳のタフガイ。それだけでニンゲンは恋に落ちるわ」

「そうなん」

「そうよ。あと首筋(くびすじ)も大事。綺麗で、かつスジが通っていると、それだけで興奮に値するの。古文書にも書いてある。笑う時は豪快に明るく。ちょっと眉が下がったら可愛げも見えてパーフェクトね」

「語るじゃん」

「そうよ。だって概ね言ったとおりだもの」

「けっこう思想強めだった気ぃするけど……」


 何を馬鹿な。女子はみんな、無条件にパワフルな男が好きなのよ。


「だいたい、ヒナが仕えてた(?)勇者だって、力強かったんじゃないの? そういうの見て、いいなーとか思わなかった?」

「アタシを所持してた勇者は女だよ~。それに力強いってカンジじゃなくてぇ、ただただファンキーだったっていうか~……」

「そうだったんだ」

「あ、でも彼女も、けっこう思想強かったや。マイルールみたいなの多かったし」

「ふぅん……。まぁ勇者って、強いやつだけじゃなく、変わったヤツも選ばれたりするみたいだしね」

「そうだね。常にビキニアーマーだったしね」

「思想つよっ⁉」


 じゃあ何⁉ この世界って、年中ビキニアーマーだったヤツに救われたの⁉ しかもそいつが歴代でもトップクラスの勇者なの⁉


「世も末よね……」

「アタシらの感覚だと、もう何度か(すえ)ってるケドね~世界☆」

「笑えないんだけど」


 げんなりとしてため息をつく私を、ヒナは笑いながら見つめていた。

 こんなの、まるでただの女子会みたいだ。

 ――――ただの女子会というものを経験したことがない私が思うのだから、間違いないだろう。そう、思想を強めに考える。


「うへへ♪ ちょっとはほぐれたぁ?」

「……あぁそういうことね。ありがと。だいぶ肩の力は抜けたわ」


 あまりの戦力差に気を張り過ぎていたこと、見抜かれてたか。

 私もシャールも、けっこう真面目に考えすぎるきらいがあるからね。


「コーにゃんだよ見抜いたの。どぉだ、コーにゃんスゲ~っしょ?」

「まぁ……悪くないわね」

「お? 上から目線じゃん~」

「そうね。ヒナたちにだけじゃなく、彼にも、遠慮しても仕方ないって分かったし」


 あまりにもフレンドリーだ。まぁ、そういう空気を全員が作ってきたというのもあるんだろうけど。


「もっといろいろ(はなし)したいわね」

「よ~しそれじゃあ、今夜は盛り上がっちゃおうぜ~♪ ディープな女子会だ~☆」

「……あのねヒナ。みんな寝てるから。そのための見張りだから」


 つーかもう、絶対コースケ様起きてるでしょ。

 こうして、本末転倒なヒナとの見張りは、睡眠妨害という結果に終わったのだった。




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