6.聖剣の強さ
聖剣。
それは神々が生み出してしまった、一つの破壊兵器なのだという。
偶然に次ぐ偶然。奇跡による奇跡。あるいは、突然変異の究極系。
何にせよ。魔に対抗する手段として、神々が武器を制作していたところ、この一振りは誕生した。
「作り出した神は、その場で力を使い果たして死んじゃったんだってさ~。死んだっつーか、生み出したエネルギーが強すぎて消滅? みたいな? ヤババ~」
「つーかそいつすらも、簡単には触れなかった的なね~。ホント何考えてんのってカンジ」
「えぇ……」
そんなとてつもない伝説を、ギャル語調で聞かされる俺とラチカとシャール。
全員、如何ともしがたい表情を浮かべていた。当然だよな。
現在俺たちは本土に上陸し、木々に囲まれるところにキャンプを張っている。
ラチカたちは相当野営に慣れているらしく、手早い準備で快適なスペースが完成した。ありがたい。
今のところ追手は見えないので、聖剣のことを直接知っている魔剣の二人に話を聞いているのだが、こんな調子である。簡易食も喉を通りにくくなりますわ。
「もうめっちゃ昔のことだから、アタシらも知らないんケドさ~。神々と『魔』との争いあったじゃんね~。アレんときに力をめっちゃ使ってぇ、使って使って使いまくったから、だ~いぶパワーダウンしたんだってぇ。んで、これならニンゲンにも扱えんじゃね? って思って、地上にプレゼントした……的なカンジっぽ」
「えぇ……」
それであのパワーなのかよ。
相対しただけで分かるけど、あれ、底が知れなさすぎるぞ。
「下手したら魔竜状態のベルよりも強いんじゃないか?」
「あ~。あり得るかもね~。あの島限定かもしんないケド」
「どういうことだ?」
「まぁそこらへんは追々……。とりま、何で聖剣があんなヤベーのかってところ、先に言っとくわ」
「協力者の二人も聞いといてね♪ んで、作戦思いついたらヨロ☆」
「任せてくださいヒナ様。このシャール、どんなお言葉だって聞き逃しませんとも!」
「なんでアンタはそんなに張り切ってんのよ……」
「それはそうだろうラチカ。ボクは美女・美少女が大好きだからね! 強いうえにこんな可愛いギャルなのだ。聞き逃すわけにはいかないさ!」
「……アンタはいつでも楽しそうよね」
クァルボスコンビは相変わらずだった。
ラチカは「まぁいいわ」とため息をつき、「続けてください」とヒナたちに話を戻す。
「前にコーにゃんには言ったかもだけど~。アタシら『剣』つっても~、聖剣やら魔剣やらで成り立ちはそれぞれ違うんだよね」
「さっきも言ったけど、聖剣は神々が作ったモノ~。魔剣は、んー……と、世界の歪みから堕ちてきたモノつったら分かりやすいかな~」
「えーと……。この間の、邪神や悪魔とかと同じようなモノってことでいいのか?」
「厳密にはちげーんだケド、今はそれでオッケー」
「……どうも」
まぁ、聖剣は『いいこと』のために作られた物。魔剣は『よくないこと』があったから出来た物……って感じだろうか。俺の頭で理解できるのはそれくらいだ。
じゃあ、だから何だと言われると、何から聞いて良いか分からない。
俺が頭を悩ませていると、「はい」とラチカが手を上げた。
「まず、魔剣には何ができるんですか?」
それに対してヴァートがゆるっと応える。
「ん? 強いけど? ……あ、そういうんじゃなく~?」
「はい。強い以外に、何か能力があるのかなって」
「あ~うん。魔剣はねぇ、他の『魔なるもの』の、概念を吸えんのね~。んで、そいつの概念使って強くなれんの」
「そんなことが……」
「ただその分、吸い込んだ概念にめっちゃ左右されっけどね~」
「そそ~☆ コーにゃんと出会ったときには、アタシの中に魔王の概念あったからさぁ、すっげー闇ってたんだよ~。ね、コーにゃん♪」
「楽しかった思い出みたいに言わないで欲しいんだよなぁ……」
ベルが初めて武装装填を使って戦ったときのことだ。
ヒナの中の魔王の概念が悪さをして、このままでは人々の敵になっちまうところだったんだっけ。
「……ま、そんなふーに。使い手だったり斬った相手だったりで、姿カタチを、在り方すらも変えていくのが魔剣の特徴かな~……」
「そこらへん、クァルボスの瞳にいたシャーちんやラッチーだったら、分かりやすいことな~い?」
「そうですね。何となくは」
うんうんと納得をしていく二人。
俺もどうにか概要だけは理解していくが、うん、細かいところの理屈は、二人にお任せしよう。おじさんの脳はだいぶ限界。
そんな俺を鑑みてくれたのか、今度はシャールが「はい」と手を上げた。
「では逆に、聖剣には何ができるんですか?」
そう。ここからが本題だ。
俺たちの目標である、聖剣・イアにはどんな力があるのか。
「ん? 強いけど?」
「いやヒナ。そのくだりはもういいから……」
先ほどのヴァートと同じ答えを、ヒナは口にした。ついツッコミを入れてしまったが、……どうやら、ボケたわけではないらしい。
「あ~いやいやコーにゃん。天丼かましたワケじゃなくてね~☆」
「え?」
「それが、聖剣なんだよ~」
にこやかなギャル語調。
しかし二振りのヴァルヒナクトの言葉は、空気を少しだけひりつかせた。
「ただ、強い。それが聖剣なんだ☆」
「ただ……」
「強い……?」
「……そ~」
繰り返す俺たちに、ヒナもヴァートも頷く。
どこか遠い目をしながら。撃ち合ったときを思い出すかのように。
「言ったじゃん? 成り立ち――――存在理由が違うって。
アタシら魔剣は、強かろうが弱かろうが魔剣たりえる。例え刀身が折れたって、魔剣なんだよ」
「そだねヒナ。そもそもアタシなんて剣じゃなくて鎌だしね~。魔剣っていうのは、カテゴリみたいなもんなんだよね~」
強くても弱くても……か。それは確かに、ベルもルーチェもそうだ。
どんな姿形になろうが。
強くても、逆に弱体化されていても。
魔竜や魔法であることに変わりはない。
「だけど聖剣は――――強くなくてはいけない」
「つーか、強く無いと聖剣じゃないんだよ。聖剣ではなくなっちゃう。存在として意味がなくなるっつーか、ね~」
「強く無いといけない……?」
二人の言葉をどうにかかみ砕く。
その後も色々と例え話をしてくれたが、どうやらこういうことらしい。
まず、ヒナたち魔剣は。今の強さが百だろうが十だろうが、魔剣であることには変わりない。
だけど聖剣は、規定値以上――――たとえば百以上の強さを持っているからこそ、聖剣たりえるのだそうだ。
よって聖剣・イアは、強くなければ存在できないことになる。もっと言えば、聖剣としての機能を失う、ただの物体になってしまうとのことで。
「神々が『魔を斬るために作った剣』ってのが前提だからね~。『強く』、そして『剣』であることが条件なんだよ。聖剣・イアはね~」
「んでアイツはさ~。アタシらと同じく、聖剣って概念がヒトガタになってるワケじゃん~? 弱くなって聖剣じゃなくなっちゃったら、死んじゃうのと同じってことだと思うんだよね~」
「……わかる、ような、分からんような」
ただつまり。『ただ強くある』というのが、聖剣の絶対条件なわけか。
なるほど。だからさっきの術式、『クァルボスの瞳』で、あんなにも苦しんだんだ。
あの魔法は、敵味方問わずパワーダウンさせる魔法。
聖剣を維持する強さが百だとして。パワーダウンして百以下になりそうだったってこと……なのかな。
「まぁそんな聖剣だからさ。ヒトが触ったらもうヤベーのよ」
「あぁ、神々すらも触れなかったって言ってたもんな……」
「そそ。だから地上に落っことしたときも~、選ばれし者しか手に取っちゃいけないことになったとか~」
「ニンゲン事情はよくわかんねーケドね~」
なるほど。それが、世界に選ばれた勇者か。
選ばれし者であれば、神々すらも危険視する聖剣を手に取れる。
ただただ強くあるという、神の剣を。
「四角四面な性格、マジ変わってね~から」
「ほーんと苦手~……」
「あっ、そうだよ。お前らって、昔勇者の元で一緒だったときもあるんだもんなぁ」
「そだね~。まぁ、勇者ちんが『イラネー』つって捨てるまではだけど」
「そんで捨てたせいで今ピンチなんだけど。ワロけんね」
「いや笑えないけどな」
ともかく。聖剣がとんでもなく強いことは分かった。
「じゃあどうして勇者は……。そんな凄すぎる聖剣を捨てたんだ? めちゃくちゃ強いんだろ?」
俺の疑問に、ラチカもシャールも「たしかに」と頷く。
それに対して魔剣の二人は「あ~」と口を開いた。
「歴代の勇者はちゃんと使ってたっぽいよ~? だけど、アタシらを従えてた勇者ちんは、ちょ~っと特殊でね~」
「歴代勇者ンなかでも、群を抜いて強かったらしいんだよね~」
「ふぅん……?」
まぁ二人のこれまでの話の中でも、相当強くてファンキーな人物なのは理解できた。
だけど、強いモノは強いモノで使い続けても良かったんじゃないだろうか。
そう問いかけると、二人は「そうだねえ」と頷いた。
「聖剣・イアはさぁ、さっきヒナがぁ、『ただ強い』つったじゃんね? それ、まだ聖剣の在り方の半分なんさねぇ」
「半分……?」
「あ~そうだった。ごめんちょ。
途中で在り方のハナシになっちったからさ。全部伝えてなかったや」
あははと笑いながらヒナは続ける。
魔剣・ヴァルヒナクトが、斬ったモノを吸収して強くなれる能力を有しているように。
聖剣・イアが持つ、その能力――――手にしたニンゲンに与える、力というものを。
「聖剣を手にしたニンゲンはねぇ。――――強くなるんだ」
「……強くなる?」
「どういうこと?」
疑問の声を上げるシャールとラチカに、ヒナは笑って答えた。
「聖剣・イアを所持出来たニンゲン……というか、生き物はねぇ。みーんな、聖剣と同じ強さに引き上げられるんだ☆」
「……はぁ⁉」
「選ばれし者。つまりはその時代の勇者はぁ。そのときに、どんな強さだろうが関係ない。手にすることさえできれば、その者は、聖剣・イアのとんでもない力を得ることが出来る」
それはつまり、超レベルアップってことだ。
昔のゲームの、非合法な裏技が脳裏をよぎる。
最初の村でナントカというアイテムを買って、セレクトボタンを押し続けたまま戦闘に入ると、レベル1から一気に99まで上がる……みたいな、どこからともなく噂で流れてくるバグ技。
それと同じようなことになるってことか……? しかもバグじゃなく、公式のやり方で?
「そんなの、喉から手が出るほど欲しいだろ⁉」
「大抵のニンゲンはありがたがるんだけどね~……」
「アタシら持ってた勇者ちんはさ~、聖剣持ったときからぁ、既に聖剣と同じ強さだったんだよね~」
「そ。だからアイツにとっては、ただ頑丈な剣ってだけだったんだって~」
「聞けば聞くほどだな……」
でもだからって、由緒正しき聖剣を捨てることもないだろうに……。
「「……………………」」
俺たちがそう話している脇で、ラチカとシャールが戦慄していた。
どうしたのかと尋ねると、二人は青い顔をして言った。
「いや、コースケ様。それって、けっこうなコトなんじゃないかと思うんだけど……」
「そうだね……。だって、聖剣を持った者は、全員あの強さを得るということなんだろう?」
「えっと……そうだな」
全員。……全員?
それは――――どんな者でも?
「あはは~。ラッチ―もシャーちんも、たぶん当たってるよソレ~」
ヒナの明るい声とは裏腹に、本土の日は落ちていく。
どんな者でも、手にしさえすれば、強くなれるのが聖剣だ。
即ち。
ツェーシマ島で剣を持っていた島民たち。その全てが――――
「聖剣を手にした、勇者ってことだね♪」
手にすれば、誰でも勇者に出来る能力。
それはまるで。
どこかの誰かと、同じようだった。
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