5.聖剣の眠る島
この世界には、様々な伝説の剣が存在するらしい。
例えば、世界と世界の歪に咲く魔剣・ヴァルヒナクト。
例えば、世界を創世したという王剣・トゥトゥリアス。
そして。
世界に選ばれた勇者にのみ与えられる、聖剣・イア。
「まぁ剣ってひとくくりに言うけどさ~、成り立ちはどの剣も違うんだよね~」
「それオブそれ。一緒くたにすんなって思うよねマジ」
「神々味方につけないとケンカできないからね~王剣は☆」
「その点こっち、世界由来だかんね~。後ろ盾無しでもヤり合えるっつーか」
「だよね~☆ コーにゃんも世界由来のほうがいいよね~?」
「ちゃけば、大地由来の聖剣より使いやすいっしょぉ?」
「言ってることが十パーセントも分からん……」
そんな、説明のような愚痴のような何かを聞きながら、俺たちはツェーシマ島へと降り立った。
時間は早朝。
ゆっくりと明るくなっていく波打ち際を、ヴァルヒナクトの二人、ヒナとヴァートと共に歩く。
白と黒のギャルたちで、今日もおそろいの一筋の青メッシュが、かっこうよく光る。
俺たちのことを傍から見れば、ギャル二人と仲良く歩いているオッサンの姿だ。
小さい島みたいだし、変な噂話が伝播しなければいいけど。
「あはは☆ コーにゃんは気にしすぎ~」
「冒険者もけっこう出入りする島だし、ぜんぜんヨユーっしょ~」
「そんなもんか」
「それよりもアタシらが気にしなきゃなのは~、ここに在る聖剣でしょ~」
「だね。……苦手なんだよね~聖剣。撃ち合うだけで神経もってかれたし」
「ガン萎えだよね~」
「ふぅん?」
魔剣・ヴァルヒナクトと聖剣・イア。
二振りとも勇者の所持品だと思っていたけど、撃ち合ったってことは、元は違ったのだろうか。
俺がその旨を訪ねると、ヒナは「そだよ~」と笑った。
「元々勇者ちんは、聖剣・イアで戦ってたんだけどね?」
「だけど当時、アタシらを持ってた魔王軍の幹部を倒して、勇者は魔剣を奪い取ったってワケぇ」
ヒナの言葉に続けて、ヴァートも説明してくれた。
「なるほどなぁ。そのときに、お前らも聖剣と撃ち合ったってことか」
「そそ。勇者ちんマジ容赦ねーから! 暴力という名の殺戮だよアレ」
「ヒトの倫理を持ってねーからね、あの勇者。勝つために生きてるよーなヤツだったし」
「……五百年前って殺伐としてるんだなぁ」
たぶん勇者さんだけなんだろうけど。
そしてその勇者は、聖剣に見切りをつけて、魔剣の方をとったってわけか。
しかし最初は魔王軍幹部が所持していたモノで魔王を倒すとは。たしかになんかこう、倫理観がぶっ壊れてる気がしてならない。
「まぁ勇者ちんの掘り下げはいいよ別に」
「それよりもマジこの空気嫌いだわ。あったま痛て~……」
「へ? 空気?」
しばらく歩いて島の空気を吸っているが、何にも感じない。むしろ他の街よりもかなり澄んでいる気がする。自然が溢れているからだろうか。
「たしかに自然は豊かだけどね~。海も山も丘も森もあって、かなりいい景色」
「どーい。……けど、聖剣のきらっきらした神聖に、どこもかしこも汚染されてやがる」
「汚染て」
俺は分からないけれど、きらきらした神聖とやらが溢れかえってるなら、それは良い事なんじゃないのか?
「まー……、ヒトにとってはイイコトだよね……」
「アタシら魔剣にとってはつらたんだよね……」
なんか露骨にテンションが落ちていた。
げんなりとした二人というのも珍しい。
「おっけ……。とりま行ったろ~じゃん」
「聖剣回収してさっさと出よっか~」
「……」
まぁ元々、のんびり観光をしに来たわけでもない。
経験値と協力者。二つの目的のため、いざ出発だ。
「――――と、思ってたんだけど」
「……これは。マジで予想外だったね~」
「つらたん」
住民たちの元を訪れる。
元気に島を案内される。
島の隅々を観てまわる。
街の端々を行き来する。
一日中楽しく過ごした。――――後。
「はい、最後はここですよ! 私たちの救世主様がいらっしゃるところです!」
メインで案内役を買って出てくれた少女は。
俺たちを元気に祠へ招いた後。こう言った。
「この方が、――――私たちを勇者にしてくれた救世主、イア様です!」
「どうも、私が救世主です」
とんでもなく胡散臭い字面の言葉を。
そこに居た、白い巫女装束の女は、真っすぐな瞳で言い放つ。
岩が綺麗に削られた洞窟に響く、淡々としたその声は。
穏やかだったこれまでの空気を一変させた。
「ツェーシマ島は楽しめましたか、勇者のまがい物たち」
「え……」
その透明感のある声には、明確な殺意が宿っていた。
怒りによるものなのか。それとも、単純に俺たちの存在を許せないのか。
「では――――死になさい」
どこからともなく、剣閃が襲い来る。
きれいな白刃だった。
二度あることは三度あり、三度もあれば何度でもある。
魔剣が擬人化して二つに分裂しているのだ。聖剣だって擬人化していてもおかしくはない。
ぶっちゃけそういうことは予想していたし、そういうときのための作戦だって練って来ていた。
だから、ヒトの姿となっていた聖剣・イアからの攻撃は、辛うじてヒナたちが受けることができた。
しかし――――
「あぁすみませんイア様! 致命打にはなりませんでした!」
「大丈夫ですよ。落ち着いて再攻撃を。次こそ殺せます」
「分かりました!」
先ほどまでは案内役だった少女からの不意打ちは、防ぐことが出来なかった。
俺をかばい、ヴァートが腕から血を流す。
「くっ……! ヒナ、外に出るぞッ!」
「おけ――――まるッ!」
一時的に背を向け、ぶっ飛ぶように祠を脱出する。
体制を整えつつ、まずは状況確認だ。
「ヴァート、大丈夫か⁉」
「じょぶじょぶ~。魔力で回復すっし~……。それにしても痛って~……」
傷口を抑えたヴァートは、即座に魔力を流し込んだ。僅かに裂かれた褐色肌が、瞬間的に元の皮膚へと回復する。
「いやいやアリエンティでしょ……。政権の攻撃で傷つくならまだしも、なんでニンゲンの攻撃で傷が入んのよ……」
「たしかにね~。こっわぁ」
二人は俺を守るように臨戦態勢を取った。
「おっとぉ、これは~?」
「……え」
ヒナの声につられて辺りを見ると、いつの間にか周りを島民たちに囲まれていた。
長閑な景色は変わらない。先ほどまではにこやかに案内してくれていた島民たちだ。
しかしながら、百八十度空気が一変してしまっている。
そして。
「なんだ……?」
一人一人の手に、同じような輝きを放つ剣が握られていた。
穏やかな服装とは、どこか合わないような、神聖すぎる輝きの剣。
もしかしなくても、アレは――――
「その通りです逆賊の者よ。島民が持つ剣は、全て疑似的な聖剣です」
「……やっぱりか!」
落ち着き払った、あまりにも真面目過ぎる声が響く。
赤と白を基調とした西洋風の巫女装束を着た女――――聖剣・イアを、俺たちは見やる。
見た目は小柄で細身だ。しかし、決してブレることのないような。どっしりと地面に根を下ろしているかのような頑強さを感じた。
迷いなくこちらを見据える、緑色の大きな瞳。
赤い髪をわずかに揺らしながら、聖剣・イアは音を出す。
「この世界は今、大量の歪が発生しています。なので、世界を救うため。この島の皆さんには勇者になってもらいました」
「……は?」
「説明は以上です。話すことはありません。――――いざ」
「ちょ……待て待て待てッ!」
「コーにゃんあぶねっ!」
「受けるよヒナッ!」
イアが号令を出した途端。周囲の島民たちは恐るべきコンビネーションで剣戟を振るう。
ヒナとヴァートは疑似魔剣を中空に何本も展開し、それらを操りながら大量の攻撃を受け流していた。
「おっ! やっべっ!」
「すっげっぞっ⁉」
「なんか下品なエロ漫画みたいになってねぇか⁉」
台詞の『!』部分を『♡』に変えてみたい所存である。……少なくとも、二人にまだ余裕はありそうだな?
「今のうちに……はぁぁ……っ!」
僅かの間。
俺は掌に魔力を収束させる。
「ほう……。何かする気ですね?」
させません。と、イア自身も参戦しようとした。――――しかし、遅いっ!
手に集まった魔力は、もう既に発動を終えている。
「仮装着……ッ!」
「――――、」
さて。
実は先日、この仮装着には改良が入っていた。
今の俺の任務は、強敵と戦うだけではなく、強大な敵が現れたときには経験値も回収しなければならない。
そのためこの仮装着には、『一時的な従属』の効果も与えてもらったのだ。
先の戦いで、邪神・クァルボスを経験値として回収できたのはこういうワケだ。一時的に従属させ、その隙に天界側で経験値に変換してもらう。
――――だから今回も。仮装着で一時的にでも従属させることが出来れば……!
「…………あ、あれ?」
「ふむ。いい魔力エネルギーですね」
目の前のイアは、まったく姿が変わっていなかった。
それどころか島民たちもだ。
どさくさに紛れて、イアにだけではなく、周囲全体に放っていたのだが――――、纏っている服は変わっておらず、当然、俺への従属もしていない。
「ド、仮装着が、効かない……⁉」
不発だったのかとヒナたちを見ると、二人はバニーの姿に変わっていた。
見たところ力も発揮できているため、仮装着自体が不発に終わったわけではなさそうだ。
「な、なんで……⁉」
「なるほど。勇者の力のようですね? いや、勇者の力を与える力、ですか」
器用なことをしますねと、どこか感心しながら。イアは、大きな緑眼でこちらをきろりと見据える。
「私たちにソレは効きません。何せ、すでに勇者ですから」
「なっ……!」
「やりなさい」
「「「「「はぁぁぁぁぁぁぁっっっっ‼」」」」」
イアの機械的な号令に、島民たちが一斉に襲い来る。
四方八方逃げ場はない。それなら――――
「ヒナ、ヴァート、空だ!」
「おけっ!」
魔女の箒よろしく、ヒナの疑似魔剣に掴まって飛翔する。
俺たち三人を乗せた魔剣の集合体は、遥か上空へと舞い上がってくれて、一時的に安全を確保してくれた。
上空の風に揺られて、二人のウサミミが大きく揺れている。
「やっぱ飛ぶのきもち~☆」
「ヘリぴマジ感謝ぁ」
出立前の保険その一。
緊急脱出のために、ヘリオスちゃんより飛翔魔法の権限を借り受けていたのだ。
使えるのは二度だけで、そのうちの一回を使用してしまったが、致し方ない。
「ふぅ。ここまで来れば、ルーチェ並みの魔力でもない限り攻撃が届くことはない――――えっ」
しかし。ほっとしたのもつかの間だった。
島民たちは。その白刃と共に、こちらへ飛来する。
「「「「「はぁぁぁぁぁッッ‼」」」」」
「マジかよッ⁉」
老若男女、問わず。全員が全員飛翔している。
流石にこれには、魔剣の二人も驚きを隠せなかったようだ。
「マジばッ⁉」
「ぱねぇっしょ……っ!」
信じられない。
こちらも何度か飛翔をしているから忘れがちだが、本来の飛翔魔法は、神々の能力に近いものだ。
実際ベルも、魔竜モード以外では飛翔は出来ない。
ヘリオスちゃんたち女神。そして、神代の魔法そのものであるルーチェで、ようやく使用できるほど。
それを……、島民全員ができるって、どういうことだよ⁉
「――――勇者ですから。当然可能です」
「イアッ……!」
「やりなさい」
再び繰り出される号令。
島の、遥か上空で。剣戟が繰り返される。
「やヴぁいやヴぁい! コーにゃんこれ、マジやばいって~っ⁉」
「捌ききれんし……っ! こっちも殺る気でやってんのにっ……!」
「ッ……!」
先ほどの地上では、二人とも出来るだけ島民を殺さないようにしてくれていたのだろう。主人である俺の意志を尊重してくれていたのだ。だから反撃というよりかは、攻撃をいなす方向で対応してくれていた。
しかし今は違う。
そもそも魔剣の二人はけっこう好戦的だ。
ひとたびスイッチが入れば、主人と同族のニンゲンが相手だろうが関係ない。殺るとなったら殺るのである。
「やぁぁぁぁぁ――――あぁぁッッ‼」
「うりゃぁぁぁぁッッ‼」
くわえて今はバニー状態だ。二人の力はかなり上がっているはず。
――――なのに。
「は、マジ⁉ 受けられてっし⁉」
「ニンゲンなんだよねアンタら⁉」
俺を守りながらとはいえ、二人の全力の攻撃で、未だ一人も島民は倒されていない。
ある程度のダメージは通っているとはいえ、致命傷には至っていなかった。
魔剣・ヴァルヒナクトを相手にして、無事でいられる人間がいるなんて……!
「勇者ですから。みな」
「……っ! だからっ! 意味不明なんだってのそれがっ!」
みんな勇者ってなんだよ⁉ どういうことだよ⁉
これじゃあまるで――――島民全員が勇者の力を持ってるみたいな……。
「コーにゃんあぶないっ!」
「……は」
「はぁぁぁぁッッ!」
一瞬の死角。瞬間の刺客。
思考の隙間に差し込まれる、凶刃が迫りくる。
「しまっ――――」
気づいたときにはもう遅い。
ヒナとヴァートの剣戟を縫って、本丸である俺へとたどり着いた島民の一人は。容赦なく白刃を俺へと突き立てる。
数センチ。いや、ミリ。ゼロコンマの後、俺は致命的な傷を負い、死に至ってしまうだろう。
しかし。そのタイミングで。
もう一つの保険が間に合ったようだった。
「――――疑似展開……っ!」
「『クァルボスの瞳』ッ!」
海上より、中空を切り裂く声が聞こえる。
万が一のときの増援。協力者の二人、ラチカとシャールである。
「二人とも⁉ た、助かったぁ!」
ヘリオスちゃんからの天界パワーの後押しプラス、先日の事件で二人の体内に残った悪魔パワーを混ぜ合わせた、天魔混合術式。
その名を、クァルボスの瞳。
敵味方関係なく、この場に居る全ての存在の力を大幅ダウンさせるという、秘中の秘である。
「……これは」
イアにもわずかに動揺が走る。
細かい理論は効いていなかったのだが、このクァルボスの瞳という魔法は、聖剣・イアにこそ効果があるとのことだったのだ。
実際の現象として。島民含む聖剣陣営は、一時的に動きを止め苦しんでいる。
「……よくわからんが、今の内だ! ヒナ、ヴァート!」
「おけっ! ……いくよヴァート!」
「お~らい……! 離脱するっ!」
パワーダウンした身体をどうにか駆動させ、俺たちはラチカたちが待つ海上へとダイブする。
どこから持ってきたのか、中型の船。そこを着地点とし――――どうにか離脱することができた。
「――――はぁ、……はぁ、……は、ぁ……っ!」
「ちょ……、ちょっと、大丈夫三人とも⁉」
「だいぶ消耗しているね。追手は……来ていないか」
「『瞳』の効果はもうちょっと続くからね。今のうちに、私たちも本土に向かうわよっ!」
俺たちを乗せた船は、ツェーシマ島を背にして本土へと流れる。
空と海と、島の光景は。再び穏やかなものに戻っていた。
「…………」
こうして俺たちは、ツェーシマ島に宿る聖剣・イアとの邂逅を果たした。
静かな波に揺られながらも、俺は先ほどまでの激闘を思い出していた。
そして思い知る。
この戦いは、まだ序章に過ぎなかったということに。
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