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第九十一話 王国の解放

 私の脅しにサーシャが折れてからはあっという間に片付いた。

 王族達にかけられた命縛法はすぐに解除され、正気に戻った国王は何度も私達に礼を述べた。


 しかし、その国王に待っていたのは国の疲弊だった。


 操られていたとは言え、戦争を引き起こしてして国中を混乱させた。それに、どう言い繕っても失った者達は帰ってくることはないのだ。


 その事実を前に、セレシオンの国王は心労を重ねられた。


 どうにかしたいという思いはあったが、この戦争に関わった私は何もすることができなかった。

 私が他国の者ということもあるが、兵達の命を直接奪った張本人だ。それが一歩踏み込んでの補助を憚らせた。


 だが、セレシオン国王の補助は、意識が戻ったアレク将軍が引き受けてくれた。私の治療から二日後に目覚めた彼は、青白い手足を引き摺ってでも王の前を支えようとしていた。


 アレク将軍も本調子ではない。私はしばらく彼の手伝いをようと申し出たが、あっさりと断られてしまった。


「両国を救ってくれた君にこれ以上の負担をかけるわけにはいかない。ここから先は私が皆を導いていくよ」


 これは王室の外でアレク将軍が言っていた言葉だ。


 彼にも辛いことが沢山あった。親友のドルビーを失い、多くの仲間達も失った。それでも王族を解放し、国を救うことができた。その時の彼の言葉には、少しずつでも前に進もうという強い意志が乗せられていた。


 この人が先頭に立っているならこの国は大丈夫だ。

 そのことに根拠はない。それでも、今までの彼の誠実な行動を見ていれば信頼できると直感した。



 なので、私は彼らのもてなしだけを受けて、数日後にはストルク王国へ戻ることになった。

 もちろん、セレシオン王国とはこれからも変わらぬ友好を結ぶと約束を取り付けて。



 戦争によるわだかまりは残るだろう。小さな衝突は避けられないこともあるだろう。

 だが、両国は「灰」によって同じように血を流した。共通の敵を得た者達は協力しあう間に打ち解けていけるはずだ。


 それはセレシオン国王もアレク将軍も望んでいることでもある。彼らが道を踏み外すことなく導き、国民達もそれに倣ってくれることを願うしかないーー




 時間が経つのは思いの外早い。私の滞在期間はあっという間に過ぎ去り、気がつけばストルク王国へと戻る日になっていた。


 今日は雲一つない快晴だ。行きが曇りで陰鬱としていたので、帰りの旅は楽しめそうだった。


 私達の出立には、セレシオンの王族達やアレク将軍など国の重鎮達が集まっていた。


 見送られるのは私とジーク、シーズだけ。フィオ達は影の者達なので人前には出られないのだ。サーシャも新たに加わったから尚更だ。


 サーシャを脅したその日、私は彼女と主従の契約を結んだ。フィオ達と同じように労働力と命を取引したのだ。


 そこはアレク将軍も気絶していて助かったかもしれない。憎い敵が生きていると知れば別の問題を生みかねないからだ。




「リジー・スクロウ殿、この度は我が国を救ってくれたこと、今一度感謝申し上げる」


 国王陛下はそう言って手を差し出した。その手を私はそっと握った。年老いている手だが、国の先頭に立って導く者の力強い手だった。


「ストルク王国とセレシオン王国の交流はこれまでよりも強固になるよう努めていこう。これは、わしが受け持つ最後の大仕事だからの。キンレイス国王にもよろしく伝えてくれ」


 陛下は私と握手しながら力強く言った。


「はい、必ずお伝え致します」

 

 私がそれに応えるように言うと、彼は満足したように頷いて手を解いた。そして、私の隣にいるジークとシーズにも挨拶をしに向かった。


 神話時代の者達を前にしても下手に畏まらないのはさすが王族の威厳がある。



 彼らの挨拶を眺めていると、アレク将軍が私の前にやってきた。


「リジー。今回は再三と世話になったよ。本当に、本当にありがとう」


 彼は国王と同じように手を前に出し、私は慣れた手つきで彼の手を握る。数日前までは血の気のない白い手だったが、今はしっかりと私の手を握っていた。


「アレクさんも今回はお疲れ様でした。サーシャさんと戦った勇姿は忘れません。貴方もこの国を救った一人ですよ」


 私がそう言うと彼は照れ隠しに頭の後ろを掻いた。


「恥ずかしい話なんだが、その時のことはあまり覚えてなくてね。実は何で勝てたのかも分かってないんだよ」


 サーシャとの戦いで血を流しすぎた彼は終盤の記憶がほとんどないらしい。

 一度手を解いた彼は軽く首を振って言った。


「けど、リジーに助けられたことは覚えてるよ。あの時、魔力を渡してくれなければ私は死んでいたはずだからね」


「私は魔力を渡してないので、アレクさんの実力ですよ。多分、火事場の馬鹿力じゃないかと思います」


 あの時、私は一切手を出していない。それは断言できた。あの戦いは間違いなくアレク将軍が決着をつけたものだ。


 それでも訝しげに見ていたアレク将軍だが、やがて諦めたように笑って言った。



「まあいい。とにかく、私は君のことは忘れないよ。隣国の英雄ではなく、共に戦った戦友としてね」


 彼は少しはにかんで片目を瞑った。私達は互いに殺し合いをした仲だ。それでも、打ち解けられれば戦友にもなれる。


 それを肌で感じた私は感謝の意も込めて言った。


「私もアレクさんのことは忘れません。お元気でいてくださいね」


「ああ、君もね。何か困ったことがあったら頼ってくれ。できる限り君の力になるよ」


 アレク将軍はそう言うと、私から少し離れて参列者達の輪に収まる。

 ジークの方を向くと、そちらもちょうど挨拶も終わったようで、国王はにこやかに私を見つめていた。


 あまり長居をしても迷惑だろう。私は魔力を高めながら彼らに最後の挨拶を言った。


「そろそろ行きます。それでは皆様、またいずれお会いしましょう。お元気で」


 そう言って私は浮遊魔法で浮き上がり、ジーク達を連れて空へと舞い上がった。そして、彼らの別れの言葉を背に受けてストルク王国へと移動を始めた。

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