旧拍手 【異世界料理研究所】 下巻四章より抜粋/軽食のクロック/著者ロイク=プランタード
【異世界料理研究所】下巻四章より抜粋/軽食のクロック/著者ロイク=プランタード
異世界人黄金期と呼ばれたガイツン時代にイシュルスより広がった異世界の軽食のレシピは現在ではすっかり大陸で、定番の朝食の一つとなっているクロック。
その由来が、まだ王ではなかった時代の流離人レジィー王に絶対の忠誠を近い、死ぬまで陛下の健康を案じていた執事頭クロックであると言われている。
――――イシュルス王国、純黒の獅子レジィー陛下が真の忠臣クロックに感謝を。
かの異世界料理の第一人者、先駆けとなったイシュルス王宮第一料理長が纏めた異世界料理レシピ集――――現在、七冊あったとされるレシピ集は時代の荒波に幾つかが消息不明となり、確認されているだけで世界に四冊しかない――――に掲載されたクロックのレシピの前に、上記の言葉が刻まれているという。
偉大なるレジィー陛下の記録には、王宮執事筆頭として名前が残るのみの者である。
どこかの貴族の系譜だったらしいという話は残っているが定かではない。
戦に参戦したわけでもなく、ただレジィー王の身の回りと毒見を自ら行っていたようだった。
しかし、現在イシュルス異世界料理記念館に残っているイシュルス王宮第一料理人のレシピ集の元となった覚書の中に、天性の軍略者、黄金の勇者、伝説の英雄サミィ=キィシガの実妹である異世界菓子の伝来者、音楽の申し子、黒猫の異邦者と謳われたミィコ=キィシガにレシピを教わった経緯が書かれていた。
『レジィー陛下の食事への意欲の無さにクロックは心配していた。
惜しげなく厨房に通い、仕事で忙しい合間にレシピ開発まで付き合ってくれたが、王は変わらない。
ある日、彼は王の身を案じ『貴方が食事をしないのなら私もしない』と宣言した。
半年後、栄養失調で三度倒れたクロックに、ついにレジィー陛下が先に折れ、多少食事するようになったようだ。
そのあっぱれな忠臣に黄金期にやってきた小さな異邦人ミィコ様が感謝の意を示し、クロックの為に作った』
当時のイシュルス王宮では有名な話だったらしく、この逸話と共に代々イシュルスの王宮仕えの者達に長く朝食で親しまれている料理となったようだ。
現在でも、第二厨房の王宮食堂では定番の朝食メニューとして存在するらしい。
ちなみにパンの上に乗っている具材に応じて、『紳士』やら『執事』やら『忠臣』のクロックと呼ばれるようになったのは、なぜだか分かっていないが、彼が原因であろうことは間違いないだろう。