↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「もう、うんざりだ!」と言われたのでお別れしました。新しい婚約者は年下でした。  作者: 小笠原ゆか


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
8/9

第八話 二度目はなかった

「フレデリック。何があったのか、最初から話してくれ」


兄に言われ、フレデリックは頷いた。


今夜はパーシーから目を離さないよう頼まれていた。

兄はもう一人の息子を連れて挨拶回りをすることになっていたし、フレデリック自身も今夜のデビュタントには出席する予定だった。それならばと、甥のお目付役を引き受けたのだ。


まさか、最後には腕を掴んで止めることになるとは思っていなかった。


「パーシーがコーネリア嬢に気づいて、そちらへ向かおうとした。私は止めた」

「最初から?」


義姉が聞いた。


「ああ。近づくな、戻れと言った。それでも聞かなかった」


そこから先は、話していて気が重くなるようなことばかりだった。


「あそこまで行く前に、無理にでも連れ出すべきだった。すまない」

「お前の責任ではない」


兄はそう言って、次男を見た。


「お前はどう思う」

「兄上が同年代からあまりよく思われていないことは、以前にもお話ししました」


次男はフレデリックのほうを向いた。


「今夜、兄上がコーネリア嬢に近づこうとしたとき、本気で止めようとしたのは叔父上だけではありませんでしたか」


フレデリックは、パーシーを呼び止めたときのことを思い返した。


「ああ」

「以前なら、兄上の軽口を咎める友人もいました。婚約を解消してからは、コーネリア嬢を薄情だと言うこともあって……今は、兄上に関わらずに済ませる者が増えています」


兄は一人掛けの椅子に深く座り、片方の手を肘掛けに置いていた。もう片方の手で目の辺りを覆ったまま、次男の話を聞き終えても動かなかった。


それから、兄は低い声で告げた。


「パーシーは除籍する」


フレデリックは返す言葉を失った。

兄の顔は手に隠れ、その口元だけが見えていた。義姉が声を上げるまで、誰も口を開かなかった。


「あなた」

「明日、王宮へ申し出る」


フレデリックは兄を見た。義姉が何を言おうと、この決定を変えるつもりはないようだった。


「待ってください。あの子はもう跡継ぎから外れているでしょう。今夜のことが許されないのは分かります。でも、除籍までしなくても……領地へ行かせて、誰かに見てもらえば」

「それでは足りない」

「王都へ出さなければいいでしょう。今度こそ、厳しく言い聞かせます」


フレデリックは、義姉が言い終えるのを待って口を開いた。


「義姉上。もう、家の中で叱って済ませられる話ではありません」

「そこまでのことだとおっしゃるの?」

「コーネリア嬢との婚約を解消したとき、兄上は先方に頭を下げ、違約金だけでなく、多額の慰謝料も支払いました。パーシーを跡継ぎから外したのも、あの振る舞いを許さないと示すためだったでしょう」


義姉も、あのときの話し合いには加わっていた。それでも、パーシーが家を出ることにはならなかった。


「それで、ようやく話が収まったんです。ところがパーシーは、陛下も臨席なさる式典で、またコーネリア嬢を侮辱した。今度は婚約者も、何の関係もない令嬢まで巻き込んで」


「ですから、二度と王都へは――」

「今夜も、私がついていました」


義姉は言葉を止めた。


「最初から止めました。それでも聞かなかった。最後には腕を掴んでいました。次はもっと厳しく見張ればいいと言われても、私はもう、大丈夫だとは申し上げられません」


もっと早く連れ出せばよかったと、後悔は尽きない。

だが、領地へ送った先でパーシーを見張る者に、自分より確かな約束を求めることもできなかった。


「貴族のまま領地へ送れば、パーシーは侯爵家の息子として暮らします。あれだけのことをしても、家に置いてもらえるんです」

「でも、あの子は私たちの息子でしょう」


フレデリックは兄を見た。兄は目を覆っていた手を下ろしたが、肘掛けに置いたまま、妻には伸ばさなかった。


「だから、一度は家に残した」


兄の声は低かった。


「私が何のために頭を下げたのか、あれには分からなかったらしい」

「……あなた」


義姉は、それ以上を続けられなかった。


「パーシーに家名を名乗らせることは、もうできん。明日、王宮へ申し出る」



■■■



王宮から戻った兄とともに、フレデリックはパーシーの部屋へ入った。


「父上、昨夜のことですが、僕の話も聞いていただけますか」

「お前の除籍の申請が通った」


パーシーは、用意していたらしい言葉を続けなかった。


兄は扉を背にしたまま告げた。


「今後、ハーグリーヴスの名を名乗ることは許さない」


パーシーはフレデリックを見た。だが、兄の決定を覆すよう頼まれても、応じることはできなかった。


「お前は領地へ送る。王都には二度と連れてこない」

「待ってください。少し言い過ぎたとは思います。ですが、あれはコーネリアが――」

「まだ、あちらのお嬢さんのせいにするのか」


昨夜も、フレデリックが止めるたびに、パーシーは自分の言い分を聞かせようとしていた。王宮から帰った父親にも、同じことをしようとしている。


「私が頭を下げて、ようやく話を収めたんだぞ」


兄の声が強くなった。


「お前も承知したはずだった。それが、陛下の御前であの騒ぎか」

「今からでも、謝れば――」

「先方はお前の謝罪など必要としていない。お前の除籍だけで済まなければ、爵位を返上することになるかもしれん」

「そこまでなさることはないでしょう。僕は誰かを殴ったわけでもありません」


フレデリックは、パーシーの腕を掴んでいた昨夜のことを思い出した。あのときも、ただ話をしているだけだと言って、聞かなかった。


「昨夜はフレデリックがついていた。最初から止められて、それでもやった。これ以上、誰にお前を任せられる」


パーシーはフレデリックへ言った。


「叔父上も、僕が除籍されるほどのことをしたと思っているんですか」

「王宮の者に止められるまで、やめなかっただろう」

「だから、それは――」


兄が話を打ち切った。


「もう、お前を家の者として外へ出すことはできない」


パーシーは扉へ向かった。


「母上に会ってきます」

「部屋にいろ」


兄の命令を無視して出ようとしたため、フレデリックが行く手を塞いだ。パーシーはその肩を押し、腕を掴まれると振りほどこうとした。


「どいてください! 母上と話すだけです!」


兄は廊下の使用人を呼び入れた。


「押さえろ」


二人がかりで両腕を取られても、パーシーは抵抗をやめなかった。


「僕に触るな! 誰に手を掛けていると思っている!」


兄は、もう一人の使用人に縄を持ってくるよう命じた。


「父上、そこまですることはないでしょう!」

「部屋にいろと言った。それさえ聞かないではないか」


縄が運ばれてくると、パーシーは急に抵抗をやめた。


「分かりました。もう暴れません。ですから――」


兄は命令を取り消さなかった。使用人がパーシーの手首を縛ったが、フレデリックも、縄を解くようには言えなかった。


「お前の母にも昨夜、話してある。支度が済み次第、領地へ発たせる」

「……いつまでですか」

「王都へは戻さない」


使用人が出立の支度を命じられ、衣装箪笥を開けた。


「待て。まだ話しているだろう!」


使用人は兄に指示を求めた。


「進めろ」


衣服が取り出されていく。パーシーの命令では、もう支度は止まらなかった。


「父上。跡継ぎに戻してほしいとは言っていません。ただ、家に置いていただくだけでいいんです」


兄の前へ行こうとして、使用人に押さえられた。


「もうしません。言うことを聞きます。約束します」

「除籍は取り消さない」


兄が扉へ向かうと、パーシーはフレデリックにすがった。


「叔父上からも頼んでください。領地にも行きますから、除籍だけは……」

「私から取り消しを頼むことはできない」

「でも、貴族でなくなったら、僕はどうすればいいんです!」


今、パーシーが心配しているのは自分の暮らしだった。兄が爵位を返上するかもしれないと聞かされても、頼むことは変わらなかった。


「父上、お願いします。もう一度だけ、許してください!」


扉の前で、兄が答えた。


「一度は許した」


フレデリックも兄に続いて部屋を出た。


「叔父上! 母上を呼んでください! せめて、母上と話をさせてください!」


扉を閉めても、パーシーの声は廊下まで聞こえていた。


義姉と次男は、昨夜話し合った部屋で待っていた。


「支度が済み次第、発たせる」


兄はそう告げて椅子に座った。パーシーの前では崩さなかった背が、今は丸まっていた。

義姉は何か言いかけたが、言葉にはならなかった。次男も母親の隣で肩を落としている。

フレデリックは、パーシーが最後まで母を呼んでほしいと叫んでいたことを、伝えずにおいた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
何やらかしたか1ミリも理解してないのがヤバイ。
アタオカ、阿呆すぐる。 自分は正しい他のヤツが間違っているという思考で固まっている処置無し男やね。除籍は順当。
叔父とかも聞く耳持たないんだから聞く耳居る?っておもってるよね。これ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。