③失せ物捜索「ウサギのぬいぐるみ」
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パタリと腕が自分の腹の上に、力無く倒れた。
掴んでいた写真は指から離れて、ベッドの上で横になっている体の横にヒラリと落ちた。写真はあとで拾えばいい。
『さて……。まずは家の中を探すか』
意識を集中し、ゆいなちゃんが暮らしている家へ意識だけ体から抜け出して、失せ物を探しに行く。ぬいぐるみの形を思い出して、だんだん家の中が見えてきた。
幽体離脱とは違う……と、思う。霊的なものではなく、特技だと思っている。霊感みたいなのは残念ながら持ってない。
カンの良い人がいるように、それを解明できない能力かと勝手に解釈している。
使った事のないモノを説明するのは難しいし、理解されるとは思わない。
現に母親にこの特技の話をしても、気味が悪いと言われた。悲しかったのを覚えている。
子供の頃に、友達が失くした物を特技で見つけた時には犯人にされてしまったことがあった。たまたま見つけたことにして誤解は解けたが、それ以来は誰にも言わず隠していた。
だが人生どうなるかは分からない。その特技を生かせることがくるなんて。……過去の事を思い出してしまった。集中しなければ。
リビング、キッチン、寝室。ぬいぐるみを探す。ウサギのぬいぐるみ。
『ん? 無いようだな。次に行くか』
写真から、ゆいなちゃんの行動の記憶が感じられて映像となって観えてくる。
次は公園か。
お手伝いさんと一緒に来た公園。滑り台で遊んだり、ブランコに乗ったり、砂場でお山を作って遊んだのだな。
公園で遊んでいた時はお手伝いさんに、ウサギのぬいぐるみを持っていてもらったのだな。――ここで失くしたのではない。
まだ小さいから、一人で歩いてどこかに行くことはないだろうし……。と、なると。
どこで失くしたのだろう?
ん? またどこかへ移動した?
ゆいなちゃんの唇が、動くのが見えた。場所が変わった。ここは?
『ママ!』
ママ? 母親に会ったのか?
母親に抱き着くゆいなちゃんと、走りだしたゆいなちゃんに追いつけなかったお手伝いさんが見えた。
ピアノ教室用のお稽古バックを持っているという事は偶然、母親に会ったみたいだな。母親はびっくりしているようだし、あまり嬉しそうじゃないみたいだ。
何かお手伝いさんと母親が話している。
『仕事がまだあるから、少しだけなら家に来ていいわ』
母親がゆいなちゃんに話しかけて、喜んでいるゆいなちゃんが見えた。
ほんの三十分位だろうか? 母親のマンションの部屋から出てきた三人の姿が確認できた。
離婚して母親は別に暮らしているらしい。
まだ幼いゆいなちゃんは、まだ一緒に居たいみたいだが我慢しているみたいだ。だけどもう無理だと言って、お手伝いさんに連れられて帰った幻影が見えた。
まさか母親と会っていたなんて。田所さんは半年位、会っていないと言っていたはずだ。田所さんは知らなかった?
とりあえず……自分の体へ戻ろう。そして話を聞かなくてはいけない。
ふと暗闇から光を感じて意識が浮上する。例えるのが難しい、この重力に引かれる様な、気持ち悪さ。
「戻ったか」
自分の存在を確かめるように、ぼそりと声に出してみた。手を動かして、指を閉じたり開いたりしてみる。大丈夫だ。
はぁ……とため息をついて起き上がると、ギシリと古いベッドが軋んで音をたてた。
一度端に座り、顔面を両手で覆った。
「まいったな」と、吐き捨てるように言った。
「ズミ……終わった。ヤバい……。水をくれ」
扉に寄りかかるように部屋から出て、ズミに助けを求めた。いつもの事だが幽体離脱は、体に力が入らなくなる。俺の捜索後の状態に慣れているズミは、言われた通りに水を黙って持ってきてくれた。
ずるずると床に座り込んで、持ってきてくれた水を飲み干した。
「はあ……」
心配そうにズミは、俺の顔を覗きこんできた。
「顔色悪いよ? 大丈夫?」
声を出すのもつらいので、コクンと頷いてみせた。
「ほら掴まって。ソファーまで行くよ」
そう言い俺の腕を掴み、ズミの肩に腕をまわしてソファーまで運んでくれた。
ドカッとソファーに座って体を沈ませた。
「ご苦労様」
ポンと肩を叩かれて、目の前に熱いコーヒーの入ったカップが置かれた。
「ありがとう」
しばらく動けるまで座っていた。
その後、ズミに田所さんへ連絡してもらって、週末に会う約束をした。




