④失せ物捜索「ウサギのぬいぐるみ」END
しばらくして、田所さんから母親の住んでいる家からウサギのぬいぐるみが見つかったと連絡がきた。
偶然に会った母親とのふれあい。ゆいなちゃんはまたママに会いたくて、母親のベッドの下に隠してきたそうだ。
田所さんとゆいなちゃんが、事務所へお礼を言いにやってきた。
ちょっとバツが悪そうに田所さんは話をしてくれた。
「私と妻は酷い喧嘩をして別れた。お互いに憎みあっていたのでもう会いたくなかったが、ゆいなの為、仕方なく半年に一度会うという約束事をした」
ゆいなちゃんはまたズミとキッチンで何かお菓子を食べながら楽しそうに話をしている。チラと田所さんはゆいなちゃんを見て言った。
「だが、ゆいなにとって妻は母親だ。私たちのくだらない喧嘩の為に寂しい思いをさせていた」
田所さんはズミが淹れたお茶をゴクゴクと飲み干した。テーブルに湯のみを置いて俺に言う。
「あの後、ゆいなを連れて妻の所へ行きました。ちゃんと謝罪をして」
照れ隠しに田所さんは首を触った。
「ええ。私が悪かったのです。妻も仕事の忙しさを理由に、自分勝手な事をしていたのですから」
そう言って田所さんは、ゆいなちゃんの方を見た。
「もっと母親と会う時間を増やしました」
泣いていたゆいなちゃんを見て、どうして接していいか分からなかった父親が気持ちを変えた。
トコトコとゆいなちゃんがキッチンから俺の方へ歩いてきた。
「おじちゃん。このこ、うさちゃん。……ありがとう」
そう言って照れて父親に抱きついた。だいぶ父親との触れ合いに慣れたようだ。父親の方も、ゆいなちゃんを膝に乗せて頭を撫でた。
おじちゃんと言われたのは不本意だが、ゆいなちゃんから見れば仕方が無い。可愛いから許す。
「じゃあねぇ! ズミお姉ちゃんとおじちゃん!」
ゆいなちゃんは父親に抱っこされながら帰っていった。ぬいぐるみが見つかって良かった。
「持ち主のゆいなちゃんが、隠したとはね……」
ゆいなちゃんと田所さんの姿が見えなくなった時、ズミが言った。俺はズミの肩に手を置いて歩き出した。
「そういう時もあるさ。事務所に戻ろうか、ズミ」
「は――い」
今回は無事に失せ物が見つかって、親子関係も良くなった。なかなか無い、良い結末だ。
こんな依頼ばかりだと、いい。
「あ――! ゆいなちゃん、可愛いかった!」
ズミとゆいなちゃんは、ずいぶん気が合っていたようだった。珍しい。
「そうだな」
確かに可愛い子だった。父親も目に入れても痛くないだろう。可愛い盛りを見逃さなくて良かったと思う。
「何~? 素直に言うなんて……怖い、怖い」
ズミがふざけて言ってきた。自分の腕を俺の肩に乗せた。二人で肩を組んだ。
「……寂しいか?」
ふと思い、聞いた。依頼主は依頼が終わるとほとんどの人はまた会わない。あんなに懐いてくれた、ゆいなちゃんと会えなくなるのは寂しいのだろう。
「そう、だね」
ズミは顔を横に向けた。顔を見ると少し目が潤んでいた。いつも元気なズミが元気ないのは困る。
「あ……っと。そういえば田所さんに、最終報告書を渡さなければいけなかった。俺は用事があるからズミが行ってくれないか?」
我ながらへたくそな演技だったが、まあいいだろう。
ズミはこちらに顔を向けて笑った。
「ありがとう! 今日の料理はお肉にする!? それとも魚がいい?」
腕を離して小躍りしているズミ。よほど嬉しいようだ。
「まあ、俺はどっちでもいいけどな」
わざと素っ気なく言って、先に事務所へ入った。
「素直じゃない」
そんなズミの声が聞こえてきた。
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■最終報告書■
依頼のウサギのぬいぐるみ 発見。無事依頼人の手に戻る。
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№1 失せ物捜索「ウサギのぬいぐるみ」 END




